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プロローグ

 ……体が熱い。

痛い。熱い。痛い。


 視界がぼやける。

段々と意識が朦朧としていく。


 ああ、もう駄目だ、と確信する。

自分のことは自分が一番分かっているとまではいかないが、この傷ではもう助からないと自ずと分かってしまう。

 

 何故だという疑問がある。

 

 顔もわからない犯人に対しての怒りがある。


けれど、もうそんなことはどうでも良くて、もう何も考えられなくて。もう苦しいのは耐えられないのだ。


 ──カツン、カツン


 ふと、誰かの足音が聞こえた。

段々と誰かが近づいてくる。


「……ぁ、……にげろ、…………くるな……」


 大声が出ない。

逃げろ、来るな。ここにきては駄目だ。

そう叫びたいのに身体がいうことを聞かない。


 一歩、また一歩と近づいてくる。


そして、その音は俺の目の前へとやってきて止まった。


「ねぇ。貴方は生きたい?」


 女の──いや、少女の声だった。

静寂としたこの空間を彼女の声が支配した。


 彼女は俺に向かって生きたいかと問うてきた。ただそれよりも、その問いに答えるよりも、先に何故君がこの場に居るのかを問いたかった。


 その声の主は、友人の声だった。

聞き間違えるはずもない、俺の友人の声。

彼女の名前は夜城真姫(やしろまき)、俺の友人にしてクラスメイトである。

……でも何でここに?


 彼女の顔を見ようにも身体が動かない。

俺に見えるのは街灯と暗闇、そして満月の輝く夜空だけ。


「……まき、……な……んで…………ここ、に……」


 辛うじて、声を発する。ゆっくりと、掠れた声で彼女に問う。あまりに小さすぎて聞こえているのかさえ分からない。


「あら?バレちゃってるのね。でも、今は関係ないことよ。もう一度聞くわ、貴方は生きたい?死にたくない?……早く答えなさい。もう長くないことくらい分かっているでしょう?貴方は」


 彼女は俺の問いを無視して、再度聞いてくる。


──そんなもの、決まってる。


「……い、い……きた、い……」


 生きたいに決まってる。まだ死ねない。

やりたいこと、やり残したことが沢山ある。

まだ高校一年生なのだ。親孝行なんて全然してないし、友人とまだいっぱい遊ぶこともあるし、青春も謳歌したい。アニメの続きだって観たいし、まぁ兎も角やる事がやりたい事が沢山あるのだ。だからこそ生きたいに決まってる。


 だけど、それがなんだというのだ?もう自分のことくらい分かっている。もう生きる事ができないことくらい分かっている。あいつが言った通り俺はもう死ぬ。

それが分かっているのに、今更生きたいなどという願望をあいつに言ったところで何になる?彼女に、真姫に何が出来るというのだ。


 ふと、目の前に人影。黄金の瞳と目が合う。

深く、飲み込まれるような()()()()だった。


「そう……いいわ、私が貴方を助けてあげる。……まぁ、人間はやめてもらうのだけどね」


「なに、を……」


 こいつは何を言っている?

この状態から助けられるはずがない。

それに人間をやめるってどうゆうことだ?


 真姫が顔を近づけてくる。

真正面に真姫の顔。長い黒髪を揺らし、()()()()でこちらを見ていた。

彼女は少し移動し俺の耳元で囁く。


「私ね……人間じゃないのよ。吸血鬼って言った方が分かりやすいかしら。

……さっさと本題に入るわ、貴方もう死にそうだしね?

端的に言うと私が貴方を吸血鬼へと変える、そしたらあとは自分の力で回復するわ」


 ……吸血鬼、ね。

本来であればそんな与太話は信じなかっただろうがもう死にかけなのだ、何もしないで待つよりかはあいつの話に乗ってみようと思った。


「……わかっ、た。やって、くれ……」


 俺がそう途切れ途切れで言うと、彼女は目を大きくを見開いたように見えた。


「────あら、信じてくれるのね。普通、何でたらめなことを、とか言うのかと思っていたのだけれど。……時間がないしさっさと始めましょうか」


 彼女がそう言うとナニカが切り替わった。

ソレは明らかに異質だった。

ソレはたとえ死にかけの者でも意識を向けざる負えないものだった。


 真姫は俺の顔に左腕を近づける。

口元まで近づけたところで、いつの間にか右手に持ってナイフで左腕の手首を切った。血が傷口からどんどんとあふれ出してくる。そしてその傷口からあふれ出す血は俺の口の中へと入ってくる。


「飲みなさい」


 彼女はそう一言、口にした。


 口内に入ってきた彼女の血を飲みこむ。口の中は血の味でいっぱいだった。

どんどんと彼女の血を飲み込んでいく。


──ドクン


 俺の中の何かが大きく鼓動した。


 刹那。


「!?」


 全身が燃え尽きるかのような熱さに覆われた。

 

 熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い


……熱い。


「────」


 さっきまでとは比べ物にならないくらいの熱さだった。

身体が焼けるようだ。痛みはない、けれど途轍もなく熱かった。


「朝陽。今は眠ってなさい。目覚めた頃には回復してるだろうから」


 その声を最後に俺の意識は途絶えた。


──────


 少年に真姫と呼ばれた者は月明かりの下で佇んでいた。

銀色の髪をひらひらと揺らし、黄金の瞳で倒れている──いや、眠っている少年を見つめる。


「ごめんなさい」


 一つ少女は謝罪を口にする。

その言葉の真意は果たして一体なんなのか。

変えてしまったことへの謝罪か、

守らなかったことへの謝罪か、

あるいは、これから起こることへの謝罪か、

または、それ以外なのか。


 その答えは、彼女しか持ち得ないのだろう。


 そして手を彼にかざす。

すると少年は黒いナニカに覆われて姿が見えなくなった。

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