取り巻き令嬢デイジーの決断と幸せ
ああ、いそがしいですわ。
今日は、ユーリ・ユナイテッド侯爵様のお茶会にお呼ばれ。
私はとりまきの一人として参加。
皆様と同じ流行りのドレスを着て、皆様と同じほどよい笑顔で、皆様と同じ声のトーンで。
場を和ますように、ほがらかに。
「今日は素敵なお茶会にお招きいただき、光栄ですわ〜」
侯爵様は陽光を浴びて、くらくらするような魅力的な微笑みを返してくれました。
もちろん、とりまいた令嬢全員に。
「心ゆくまで楽しんでください」
送り出された私達は、ティーセットやお菓子が並んだテーブルへ。
私はまだ16歳、侯爵様に会うのも嬉しいですが、お菓子も嬉しい年頃。
同い年のご令嬢とお菓子をつまんでいると、年上のご令嬢方がおしゃべりを開始。とりまきの一人として輪に加わらないと。向後のお勉強のためにも、輪ができると入らねばと体が動く。そっと入って聞き耳を立てる。
「聞きまして? あの方の話」
「クラウザー伯爵でしょう? 恐ろしいことがまた起きましたわね」
クラウザー伯爵様のことなら、聞いてますわ。
伯爵様には婚約者様がいるというのに、他のご令嬢と深い仲となってしまい、婚約者様に婚約破棄を突きつけて後に大変なことになったとか。
どんな大変なことがあったのかは、私には刺激が強すぎるとかで、お母様もお姉様も教えてくださらなかった。
「まぁ、クラウザー様と浮気相手のあの人はああなっても自業自得ですわね」
「ええ、ここだけの話、胸がスッとしましたわ」
「私もですわー」
クラウザー伯爵様とお相手はどうなったのかしら?
気になりますわ。でも、ご令嬢方も深い話をしかけて私達若輩をちらと見て口をつぐみ。
やっぱり、知らないほうがいいのかも。
「なんにしても、ざまぁありませんでしたわねぇ」
「ざまぁありませんでしたわぁ」
ざまぁざまぁとカラスのように騒いでしまい、侯爵様がこちらへ。
「なんだ、皆、クラウザー伯爵のことを話しているのか?」
「あらっ、いえそんな〜」
笑って誤魔化してももう遅いけれど、侯爵様は有り難いことに笑顔。
「私も、彼の最期には、ざまぁないと思ったものだよ」
さいご? クラウザー伯爵様はお亡くなりにでもなったのでしょうか?
「婚約者を裏切るなど、どんな理由があれど許せない所業だからね」
そうおっしゃった侯爵様のお顔、素敵ですわ〜。
皆様見惚れています。
美しいお顔に背がスラリと高くて、婚約者も大事にしてくれますわ絶対。理想の方ですわ〜。
でも、私よりちょっと歳上。
それになにより、男爵家の私では身分違いですわぁ……
思った通り、それから一年もしない内に、侯爵様は他の方とご結婚。
初恋だったのですわ。涙がとまらなかった。
ああ、いそがし、いそがし
でもないですわ。
今日は、お近くのご令嬢の開くお茶会にお呼ばれ。
女性だけのお茶会は、終始お菓子を食べておしゃべりするだけ。
お上品さなんて気にせず、お庭に寝転んでゴロゴロしながらお菓子をパクつく。
幸せな一時に、失恋の痛みも消えていきますわ。
「ねぇ、知ってまして? ワルテール国が滅亡寸前になっている原因」
また、お姉様方がなにか深刻なお話を開始。
「婚約破棄が原因でしょう? 王子様が浮気なさって、有力者だった婚約者様になにも考えず婚約破棄を突きつけてしまって」
「そうそう、それで、婚約者様は隣国のブランディッシュ国の王族の方と新たに婚約なさって、婚約者様のお家と共に有力なお家も次々とブランディッシュに行ってしまって、ワルテールはガタガタになってしまったそうよ」
「恐ろしいですわ。婚約破棄一つでそこまでのことになるなんて」
「私達の周りでも最近婚約破棄が多いですから、他人事ではありませんわよねぇ」
「婚約破棄は国で禁止にしていただきたいわねぇ」
本当ですわ。怖くて震えますわ。
「でも、婚約破棄が禁止されたら、浮気男と結婚するなんてことになるんじゃなくて?」
「それは嫌ですわねー。隣国の王族の方はとても美形で優秀な方らしいですし、私の婚約者が浮気者だったらいっそ婚約破棄してもらいたいですわぁ。誰かもっと素敵な方が現れるかもしれないですもの」
「私もですわー」
皆様、のんきに笑っていられるなんて凄いですわ。
私はもし婚約破棄されたら泣きます。
もっと良い方が現れる自信もないし、婚約は絶対一回で決めたいですわぁ。
「婚約相手といえば、聞いていますわよね? バシレウス辺境伯のお噂」
バシレウス辺境伯?
耳をそばだてる私には気づかず、皆様うんうんとうなずかれ、
「聞いてます。突然病に倒れてしまって、それが」
「辺境の地の奇病だとかで、美しかったお顔は見る影もないとか」
「ただでさえ、“いつ、戦が起こるかもわからない”が口癖で、戦の準備ばかりしている野蛮な性格と噂でしたのに、唯一褒められていたお顔までなくされるなんて。言葉もありませんわ」
「ほんと、田舎に嫁ぐだけでも嫌なのに。そんな方のところなんて考えたくもないですわ」
「でも、お歳からいってそろそろ、婚約者を探されるのではないかしら? バシレウス様」
皆様、ゾッと身震い。私までつられてぶるり。
私は「野蛮」は「男らしい」に変換できるから気にならないし、病なのはとてもお気の毒ですけど。
帰るとすぐに、お姉様の部屋に向かいご報告。
お姉様はお兄様の妻で、結婚なさる前は私と同じとりまきだった方。私の持ち帰る話を楽しそうに聞いてくれて、相談にものってくれるし、周りを気遣い上手に振る舞えるようにアドバイスもくださるお優しい方。少しの間、お姉様と一緒にとりまきに加わっていたので、私はお姉様をお手本にしている。
バシレウス辺境伯の話を聞いたお姉様は、いつになく真剣な顔になった。
「私のとりまき時代にも、そんな風に悪い噂ばかり流れる伯爵様がいましたわ」
「伯爵様が?」
「ええ、アスター伯爵という方で、その噂のせいで結婚相手が見つからず、とりまきの中でも身分の低い方が結婚いたしました。それからそのご令嬢がどうなったのかわかりませんでしたが、私が結婚してからお茶にお招きいただいて知ることができましたわ」
お姉様と向かい合う私は、椅子から身を乗り出した。
「どうなっていたのですか?」
「とても幸せそうでしたわ。伯爵様はちょっとお顔が恐くて話し声が低くて野獣みたいな第一印象で、社交的ではありませんでしたが、お優しい方なのは少し一緒にいただけでわかりました。それに、あのお顔も、ずっと見ていると珍しいタイプの美形だとわかりました」
うっとりと笑みを浮かべたお姉様は、私の視線に気づくとまた真面目な顔になり、
「噂などあてにならないと、思い知りましたわ。今回のバシレウス辺境伯様のお話も――」
「嘘でしょうか?」
「嘘とはいわないまでも、尾ひれがついている可能性はありますわね。そして、これからますます酷くなっていくかもしれませんわ」
お姉様の予想は当たり、社交界で語られるバシレウス辺境伯は病のために錯乱して夜毎狼男のように屋敷の裏の野山を彷徨っているとまで噂されはじめた。
私はいつものごとく、このこともお姉様にご報告した。
「辺境伯のご結婚相手は、見つからないかもしれませんわね。デイジー」
私はビクリとして、体を緊張させた。
「はい」
「もしも、バシレウス辺境伯様との婚約話が来たらお受けなさるといいわ」
なにを言われるか予感していたとはいえ、受けるといいとはっきり言われるとは思わなかった。
「お姉様、私は、私はお姉様みたいに生きていくものだとばかり……」
「私も、デイジーには私のように目立たないけれど安全なポジションにいて、いつかジョン様のような方に見つけてもらえればと思っていました」
私の大好きなジョンお兄様は、とりまきの中にいたお姉様を見初めて婚約を申し込み、今はささやかだけれどおふたりは幸せに暮らしている。
「私もそう思っていました。お兄様とお姉様のような結婚をするのだと」
「だけど、辺境伯と結婚すればデイジー、あなたは特別なヒロインになれるかもしれませんわ!」
お姉様の目が、爛々と輝き出した。
「特別なヒロイン?」
「本や舞台に出てくるような、誰もが羨むヒロインですわ。現実的に言うと、先ほど話した伯爵夫人のようになれるのです。低い身分から高位の身分となり、素晴らしい方と恵まれた暮らしができるようになるのです」
「……想像、できませんわ」
恐ろしい噂ばかりの辺境伯に嫁いだら、ヒロインになれるなんて。そんな夢のようなこと信じられない。
「もしも、噂が本当だったら?」
「その時は、私が助けに……」
優しく言いかけて、お姉様は厳しい顔つきに変わった。
「いいえ、その時は、病の伯爵様の全てを受け入れて支える覚悟で行くのです。そうでなければ、行ってはいけません」
「――はい」
真剣に考え始めた私に、お姉様がいつものほどよい笑顔を見せた。
「デイジーには、只々幸せになってほしいだけですわ。どんな決断をしようと私は協力いたしますからね」
「ありがとうございます、お姉様」
まだ、辺境伯との婚約話が来ているわけではないけれど、その夜は眠れなかった。そして、部屋を出ると、薬棚の戸を開けていた。
それから間もなく、私にバシレウス辺境伯との婚約話が来た。
私はお父様に呼ばれて、執務室に向かった。
部屋には、お母様とお兄様とお姉様もいた。
「デイジー、お前とバネット・バシレウス辺境伯との婚約話が持ち上がった。噂は聞いていると思うが、バシレウス辺境伯は病を患っている」
「はい、聞いています」
「幸い、人に感染するものでも命に関わる重いものでもないが、その様相がだいぶん痛手を受けたそうだ」
「美しいお顔と評判でしたのに」
お母様が青い顔で呟いた。
この婚約には間違いなく反対するとわかった。
「男は顔ではないのだよ」
ほどほどのお顔のお父様に詰め寄る、なかなか美しいお母様。
「婚約に賛成なの?」
「ああ、有り難い話だと思っている」
「有り難いですって? それは、身分は高くて有り難いですけど、辺境の地で戦の準備ばかりしている野蛮な方と言うではありませんか」
「彼は国境を守る立場にいるからね。戦に備えておくのは当然のことだよ。平和ボケして準備を疎かにするより、むしろ褒められることだ」
「……ですけど、そんな危ない田舎に娘を嫁がせるなんて。ねぇ、ジョン、エレーナ」
お兄様がお母様の方へ踏み出した。
「ええ、私は反対です。デイジーにはそんなところへ行かず、私とエレーナのようにささやかだが平和な場所で幸せになってほしい。なぁ、エレーナ」
「はい、その気持ちもありますが、私はバシレウス様に嫁ぐことも反対いたしません」
「エレーナ!? なぜだ!?」
「エレーナ! デイジーを田舎の野蛮な男にやってもいいというの!? そのうえ病で、どんな苦労をするかわからないのよ!」
うろたえるお兄様とお母様を前に、お姉様は冷静だった。
「お母様、ご存知でしょう? 今、国で一番裕福と言われているアスター伯爵様の奥様がなぜ低い身分出身の方なのか。一時期、伯爵様の根も葉もない悪い噂が流れて、結婚相手が見つからなかったためですわ。ですが、噂などどこ吹く風とおふたりは幸せに暮らしています」
「それは……! デイジーもそうなれると言うの?」
お母様はゆらぎ始めましたが、お兄様はお姉様に向かい足を踏み出した。
「だが、病を患っているのは本当なんだろう?」
「……探せば、いいお医者様が見つかるかもしれませんわ。特効薬ができるかもしれません」
「なにを、そんな深刻な顔で夢みたいなことを言っているんだ? いつもの現実的でほがらかな君はどこへ行ってしまったんだ?」
困惑するお兄様に居た堪れなくなった様子で、お姉様は私を見た。
私もお姉様をじっと見ていた。同じ考えだったから。
賛成二と反対二、私の決断次第で決まるなら。
「私、お受けしたいです」
踏み出した私は、一斉に視線を受けて、まずお兄様に肩を掴まれた。
「デイジー! どうして?」
「お兄様、私、お兄様とお姉様に憧れていました。でも、バシレウス様のことが気になって忘れられないんです」
とりまき行動も、うわの空になってしまうほど。
「なぜ忘れられないんだ? わからない」
「気になってって、いつぞや、なんでもないのに薬棚を開けていたのを侍女が見たというのはそれで?」
お母様の質問に私はうなずいた。
「はい。お姉様のおっしゃるように、いいお医者様とお薬を探して持っていけばよいのではないかと」
「そうか! 優しさか。優しさゆえに気になるのだな?」
そうはっきり言われると気恥ずかしいけれど、お兄様には素直にうなずいておこう。
「野蛮な方なのよ? 優しさなど伝わらないかもしれないのよ?」
「私、野蛮さは気にいたしません。優しさも、伝わるまでお伝えします」
恥ずかしさを隠せなくなり笑うと、お母様はもう言葉もないご様子になった。
「では、医者と薬を探すとしよう」
お父様は私に笑いかけてくださると、お母様を見た。
「いいね? 悪いが、これ以上の縁談は私には持って来れないよ」
「ええ、わかりましたわ……でも、あまり苦労するようなら帰してもらいましょう」
「お母様、心配してくださってありがとうございます。ですが、私は帰りません。しっかりとお支えします」
私に向けられたお母様の瞳が潤んだ。
「立派だわ。デイジー……バシレウス様は狼に変身するまでになっているそうだから、祈祷師も連れて行った方がいいんじゃないかしら?」
「はい」
うなずいた私の肩に、お姉様が優しく手をおいて微笑まれた。
「大丈夫よ、私のとりまき時代の勘が上手くいくと言ってるわ」
「はいっ、行ってまいります」
私はもう一度覚悟を決めて、笑顔を返した。
到着したバシレウス辺境伯のお屋敷。
おどろおどろしく古いお屋敷を想像していたけれど、大きくて綺麗で、雷鳴が轟く空を想像していたけれど、晴天でとても素敵な嫁入り日和。
通された応接間。
バネット様は、しっかりと立って出迎えてくださった。
きちんと正装していて、綺麗な黒髪と青い瞳の、背の高いお方。病だとはわからないくらい、たくましいお姿。
でも、そのお顔には銀の仮面をつけている。
磨かれて輝く仮面から覗く、キラキラした双眼が私を見つめた。
「はじめまして、デイジー。バネット・バシレウスだ。よろしく」
仮面は口の形に開いていて、はっきり聞こえたお声も元気があった。
けれど、私のために無理をしているのかもしれない。
「はじめまして、バネット様。デイジー・グレイでございます」
「よく来てくれた。私の病のことだけでなく、それにまつわる噂も聞いているのだろうな?」
バネット様の声と目つきが、少し鋭くなった。
「はい。お加減はいかがですか? 私を出迎えるために、無理をしていらっしゃるのではありませんか?」
今度は、バネット様は微笑まれた。
「いいや、大丈夫だよ。最初は寝込んだが、幸い、日常生活にそれほど支障はなかった。ただ」
バネット様は、仮面に手をかけた。
「女性は、容姿を気にするのだろう? 心の準備はいいか?」
「はい」
私は目を逸らさないように、恐らく眼力も凄まじくなっているはず、慎重にうなずいた。
仮面が取られた。
現れたのは、見たこともない美貌だった。
「あら、バネット様?」
思わず肩の力が抜けてほうけた私に、バネット様は微笑まれた。とろけるような甘い微笑みで、肩の力が抜けるどころか溶けそう。
「実は、少し前に名医が見つかってな、病は完治しつつある。顔もこの通りだ」
「そうだったのですね……!」
「ああ、都ではまだ私が狼に変身しだしたとか、ありもしない噂が流れているのだろう? 早く社交界に復帰して、噂を消さねば土地に風評被害を招くな」
バネット様は、片手を差し出した。
「一緒に行ってくれるな? 妻として」
「はい」
笑顔で手をのせたけれど。
「なぜ、病が治ってから結婚相手を探さなかったのですか? 元のバネット様に戻ったのなら噂も消えて、私に婚約の話が回ってくるほど相手に困らなかったはずですのに」
「病の時だからこそ探そうと思ったんだ。また、こんな事があるかもしれない。その時に、容姿が変わったからと逃げずに私を支えてくれる人に来てほしかった」
「そうだったのですね」
覚悟を決めて来て、よかった。
私は逃げない。もう一度誓って、バネット様に微笑み返した。
部屋を出たバネット様は、私の持って来た薬の山とお医者様を見て驚いた。
「こんなに沢山の薬をありがとう。それに、ラング医師ではないか。また来てくれたのか」
「はい。バシレウス様の奥方になられる方の頼みとあっては、断れません。また戻ってきましたよ」
「え、前にもいらしたのですか?」
「ああ、このラング医師が治してくれたんだ」
「回復してきたので、都に帰ったところだったのですよ」
「そうでしたの」
お父様はとても素晴らしいお医者様を探し出してくださいましたわ。お母様も――
「もう一人いるな? 彼は?」
「祈祷師の方です。狼に変身してしまうと聞きましたから」
「あ、ああ、そうか。ありがとう。あいにく無駄足を踏ませてしまったが、歓迎しよう」
笑ったバネット様は私を抱きしめてくださった。
「君のような人を待っていた」
それから、社交界に復帰したバネット様を皆様驚愕の顔で迎えた。特に女性達は婚約話を突っぱねた後悔の色を滲ませているようだった。
お姉様の助言がなければ、私もあちらにいたに違いない。
さすがは、とりまき令嬢達に「エキスパート」と陰で噂されていたお姉様の経験則。そのおかげで、私は特別なヒロインになれましたわ。
バネット様と家を訪れるとお姉様は、
「読みが当ってよかったわ〜」
と、いつものほがらかな調子で喜んでくれた。
お兄様とお母様も、お姉様と私を見直してくださって、本当によかったですわ〜。
私もこんな風に、とりまき時代の調子が結婚後も出てしまう。
「バネット様〜、都で流行りのお茶菓子ですわぁ〜」
「日々の癒やしだ。デイジーのほがらかさは」
そう言って、バネット様はとろけるような笑顔をくださる。
そして、戦に備えていたバネット様の日々も無駄ではなかった。
例のブランディッシュ国がワルテール国を吸収し勢いのままにこの国まで手を伸ばそうとした時、バネット様が準備していた武器と戦法が功を奏し、国境を見事防衛してブランディッシュ軍を撃退することができた。その際のバネット様は、野蛮どころか頼もしくて素敵過ぎた。
我が国とブランディッシュ国は平和条約を結び、我が国ではワルテール国が滅亡しブランディッシュ国が力をつけるきっかけとなった「婚約破棄」に関する規定が厳しく見直されることになった。
私は幸い婚約破棄を経験することなく、一度で決めることができた。
バネット様は今では英雄と讃えられている。
そんなバネット様の妻として、かしこまった微笑みで隣に立つのもいいけど。
とりまきの一人に加わって、
「素敵ですわ〜!」
と、とりまきたい気持ちも少しありますわ〜。