死ノ
10 運の反対
「わはははははははははははははっははは!」
眼前の幼女風貌を見て思わず笑ってしまう。
大爆笑だ。
「君、服どうしたの?まさか責任とって今度からその服装で今度から一生過ごすの?最高、いやはや、これはロアンくんを見直しちゃわずにはいられないよ」
自分の身長の半分にも満たない幼女を指差して嘲る。一つ付け加えておくとするならば、頭に猫耳をつけている少女を。
「.............なぜだろうね、嘲笑されているはずなのに、怒りの感情どころか、安堵感が湧くのは」
「ん?なんかいった〜?」
「いや、なんでもない」
思わず口に出してしまった。先日、ほんの少しの時間ではあるが、殺してきたり告白してきたりするキチガイに絡まれた弊害であろうか、会話が通じる相手であれば例え目の前で私を嘲笑っているクソ同期相手であっても、幾分かマシに思えてしまうのは。
「で?なんでそんな可愛らしいもの身に付けてるわけ?」
目の前の女の問いに答える。
「なんでもロアン曰く、私の心臓の損傷を回復できる装置がこれしかないようだね。はずしたらクビを切るらしい。まぁまだマシな類のペナルティだ」
胸の内を悟られぬよう、わざと大幅に忌々しそうに答える。コイツに肯定的な感情を抱いているなんて、私自身でも認めたくないのに、これに知られるなど屈辱の極みでしかない。
「クビを切るってどんな意味でかな?」
「さあね〜」
にやけ顔で分かりきった質問をしてくる同期に意志のこもらない返事を返す。
はぁ....
ーーーーーーーーーーー
〜30分前〜
「さてと、では初めに言い訳を聞いておこうかな? 」
椅子に深く腰をかけ、机に両肘をかけ手の上に顎をのせた男が問いかける。
「言い訳はありませんねぇ。全て、ひとえに私の判断力の欠如により陥った事態でありまーす」
直立不動の体制で、敬礼をしながら形式ばった言葉を返す。あくまで、棒読みで。
ふむ、と男が呟き
「理解しているならばよろしい」
と告げ、続ける
「ではなぜこのような事態に陥ったか説明してもらってもよろしいかな?」
「どれのことですか?」
「それもそうだね。では、炎焔を殺され、ウサギ狩りも果たせず、我らが偉大なる菅局の本部に激突し、挙句の果てには負傷した件についてと注釈を加えておくかな」
つまり、全部ってことか。
「というかロアンさん、堅苦しい話し方やめてくれないかねぇ?いつからそんな嫌な男になったのかな?元々嫌な男だけど」
「..........なぁ、あんたを殺す許可っていつおりるんだ?」
「さぁね〜」
ロアンの懇願とも取れる問いを適当に流す。
そして先程までの敬礼を解き、普段の彼女に戻る。
「はぁ...................................」
幸薄そうな顔の具合を一層悪化させながら、大きくため息を吐く。なんだって私の部下はどいつもこいつも......
「まぁいい...」
いつものことだ、と胃の痛みが悪化する気配を感じ、小言を全て呑み込む。
何言っても意味がないからな。
「大まかな事情はツントからの報告で理解している。ウサギの中に兎がいるなどとふざけたことに気が付かなかった我々にも落ち度はある。殲滅ができなかった点は不問にするがね...」
うむ?
ロアンの言葉に疑問を感じた幼女はそのままその疑問を口に出す。
「ちょっと待ってくれるかい?兎を排除することはできなかったがねぇ、ウサギの化け物自体は全てイート発現前に駆除を完了させたが?」
殆ど焔がやったんだがねぇ、と心の中で注釈を加え、言う。
「いや、残念ながら、まだ分体が残っていた」
本当に、残念ながらね。そう付け加えたロアンの言葉すら耳に入らず、幼女は驚愕した。
そして先程までの余裕を失った少女に向けて、続ける
「幸いにも、ツントと角の戦闘の際に、巻き込まれて死んだがね」
ロアンの言っている事が理解できない。
私が、仕事を、失敗した?イレギュラーがあったとは言え、それは仕事を達成した後の話だ。ということは、単純に私のミス...?
ありえない。
そう苦悩している幼女に、男は静かに告げる
「そういうわけなので、通常の罰則は受けてもらう。まぁ安心したまえ、イレギュラーが起きた事実は変わらない。君の失敗は、残念ながらそこまで大きな罰にはならない。罰ゲームを受ける感覚でいい」
そう告げられた幼女は、しかしながらそんな言葉に悪態をつく余裕は失われていた。
そうして放心状態の彼女は
失敗、男が放ったその言葉を、頭の中で、ひたすらに反芻していた。