死ノ七
8 故に
「.....これはちょっと予想外かな〜」
角という少年に打ち上げられた少女は塔の上で独り嘆く。
「投げる方向には注意してよね〜全く」
そう、彼女は現在塔の頂上にいる。そこは、先刻、焔という少年とその上司が怪物を見下ろしていた場所である。
角に投げてもらったは良いものの
「まさか引っかかるとはね〜」
角の私を投げる方向は確実に会社に辿り着くルートであった。しかしながら道中の障害物のことまで把握していなかったらしい。いや、分かってはいたのかもしれないが、構わず投げたという可能性もある。あの速度だったら、何かにぶつかってもそのまま突き抜けるだろう、そう判断したのかもしれないが残念ながらこと私に関してはそうはいかない。
そう、彼女は塔と激突したにも関わらず塔にも彼女にも傷ひとつないのだ。付け加えておくと彼女が抱えている幼女にも、傷ひとつない。
「全くもう。私はあの子たちみたいな普通の人じゃないから、足が遅いからわざわざ角に来るように頼んだのに、、、これじゃ結局帰れないじゃんか〜」
予期せぬ事態に、嘆息をする。
しかしだからと言って起きてしまったことはしょうがない。
「これは、もう私にできることはないね!うん!これはしょうがない!また連絡さんが助け送ってくれでしょう」
開き直る。だってしょうがないじゃん?
そして彼女は塔の頂上で、幼女の遺体を抱き抱え
「だからもうしらなーいーどーでもいーい。おやすみ〜」
そう半ば投げやりに言い残すと、あぐらをかいて、寝た。
「..............」
彼女は気づかなかった、否、可能性を見落としていた。確かに通常あり得ることではないが、彼女が生き人形であると自信が語ったのに関わらず、見落としていた。
腕に抱えている幼女の頭の傷が、塞がっていることに。
彼女の意識が戻っていることに。
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(状況を整理しようじゃないか?とりあえず)
心の中でそう呟き、思考を続ける
(私は頭を撃ち抜いた、そしてツントがきたはずだ、なのになぜ彼女はこんな場所にいる?奴と戦闘をして勝ち抜いた、または逃げ出したのかねぇ?)
いや、と否定する
(奴に限って取り逃すということは、あり得ない)
私が気絶していた時間は五分程度、その間に奴の目から掻い潜り逃げ出す、はたまた打ち倒すなどあり得ないだろう。いくら兎とはいえ、それは不可能だ。
そうであって欲しい。....そうでなければ私は...
いや、と脳裏にチラつく思考のノイズを振り払う。
切り替えだ。考察を続ける
(確か焔はこの子には戦闘能力がない、って言っていたねぇ?)
私も焔ほどではないが、人の戦闘能力を判断する能力には長けていると自負できるぐらいの能力はある。こと自分より力量のあるものに関しては特に。
(私も焔の言う通りだと思っていたよ。この子が目覚めるまではね)
そう、この少女はとても戦闘に長けいているようにはとても見えないのだ。眼前で警戒心の欠片もなく眠りこける様など弱者のそれでしかない。しかしその警戒心の欠如が弱者であるからではなく、自身の絶対的な力からくるものであったと理解したのは、愚鈍の極みであるが、目の前で焔の頭が消し飛んだ時だ。
(まぁ、反省会はこの場を切り抜けてからにするとするかねぇ?この子にはおそらく、仮に今私が落下して逃走した場合、追いかける手段はないはずだ。なら、この子のお仲間が来る前に逃げ出すとするかねぇ)
殺すことはできない。私の銃では彼女には怪我ひとつ負わせることはできない。
(だからこそわざわざリスクを冒して、ツントを呼んだんだがなぁ。あいつが取り逃すのは想定外だなぁ)
いや、反省会は後ですると決めた。
今は
(では行こうかねぇ?)
そうして心の中で静かな覚悟を決めた幼女は
本日2度目の、高高度からの自由落下を行った。
そして、彼女が落下し始めたのと、全く同じタイミングで
「.......ァァァァァァアアアアアアア!!!!クソがあああああああああああ!!!」
遥か遠い地上からの、島全体に響き渡る獣の如き雄叫びが、彼女の鼓膜を震わす。
「.......クソッタレが」
口に出して、声の主に悪態をつく。
「.....!!.....???.....あれれれれ!?なんで落っこちてるの!?」
落下し始めると同時に響き渡った声で、シャエルが目覚めた。
それは即ち、逃亡の露呈を意味する。
私は呪われているのか。