死ノ四
え
6 名前を教えて
頭部がひしゃげた焔の体がこちらに倒れてくる。結局、こいつの顔を最後まで一度も拝むことはできなかったな。
「お名前はなんと言うのですか?」
焔をゴミにした少女が話しかけてくる。
薄いピンク色のショートの髪だ。よく整っている。
無機質な赤い眼をこちらにむける。可愛らしい容姿とは裏腹な目の虚さに思わず身がすくむ。長い間忘れていた感覚、絶対的な強者との対峙。
「あいにくながら名乗れるような名前はなくてねぇ。いやほんと、申し訳ない」
少女の右腕は、依然としてこちらに向いている。会話を途切れさせたら死ぬと告げる本能に従い、冷静を保ちながら続ける。
「君の名前を聞かせてもらってもいいかなぁ?いやぁ〜こっちも名乗ったんだし、もう聞いても構わないよね?」
「あなたの名前は聞かせてもらっていませんよ?」
「いやいや、先ほどあなたが殺めた焔くんが、しっかりと自己紹介したじゃあないですか。なら、先ほどの分の精算がまだお済みではないのでは?」
「確かに、そうかもしれませんね。良いでしょう。たしかに、先ほど焔さんとおっしゃる方には名乗って頂きましたし。私はシャエル。オオカミ社で「兎」と名乗らさせていただいているものです」
兎、その単語を聞いた瞬間、幼女の表情がこわばる。「兎」、オオカミ社の十二使徒じゃないか、この子。
「兎さんとは、なんともこのような貧相な島にはふさわしくない位の方がいらしましたねぇ?どう言ったご用件で?」
「あなたが知る必要はありません」
探りを入れるが、当然答えない。垂れてきた冷や汗を舐めている幼女に続ける。
「本題を話しましょう。単刀直入に言いますと、あなたには選択肢があります」
意外な言葉に疑問符を浮かべる。選択肢?生かすも殺すも先ほど見せた力で従わせればいいのに、なぜわざわざ選択権を私に与える....?しかし、そんな思考は後回しだ。一言一句聞き逃さぬよう、少女の声に集中して耳を傾ける。
「一つ目、先ほど焔さんにしていただいたように、恒久的な活動を停止していただく」
「ふむ、それはごめん被るねぇ」
もう一つの選択肢は何か、それ次第で彼女の生存率が変わる。その彼女の今後の人生がかかっている問いとは。
少女が顔を赤らめながら続ける。
「二つ目は、そ、その、、、、」
.......?急に態度が変わった....?え、なんだ?どう言うことだ?
意を決したかのような表情を剥け、少女が再びこちらを見る。
「あ、あなたの見た目が、と、とってもタイプなので、もしよろしければ、私と、つ、付き合ってもらえませんか!?!?」
「..........................................................は......?」
思考が止まる。
全く想像だにしていなかった問いに、思わず声が漏れる。
は?