もういいかい
『もういいかい』
開けた窓から聞こえてきた声。
最近の子どもは公園にいてもゲームを手にしているから、かくれんぼなんて珍しいな。
そんなことを考えながら窓から外を見る。
『もういいかい』
声は聞こえるが姿は見えない。
まぁかくれんぼだから隠れているよな。
『もういいかい』
尋ねる声ばかり。
自分には返事が届かないだけだろうと、特に気にせず窓を閉める。
『もういいかい』
先程より小さくはなったが、まだ声が聞こえてくる。
気にせず浴室へ向かいシャワーを浴びる。
『も・・・・・・かぃ』
かくれんぼの声が聞こえた気がして耳をー澄ます。
だがシャワーの水音以外聞こえるはずもなく、頭からシャワーを浴びる。
「気の、せい。気のせい。」
気にしすぎるのも気持ちが悪いので、シャンプーを手にして髪を洗う。
「髪洗ってるんだし、まぁだだよ。」
小さくだがそう呟き、泡を流していく。
『もぉうぃいかぁいぃ』
浴室に響く声に驚き悲鳴を上げる。
「うわあぁぁあッ!?も、もういいよ!もういいからどっか行って!」
浴室を見渡すが当然誰もいない。
「あー、もう。」
不気味さにうんざりしながらシャワーを終える。
「みィつけたァ」
真後ろから声が聞こえたと思った瞬間、ブツっと意識が途切れる。
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「・・・・・・・・・ぅ、ん?」
気がつくと真っ暗で何も無い場所に居た。
手探りで辺りを触ってみる。
固いような柔らかいような、不思議な感触の床。
床を伝うように這って動くも壁には当たらず、ただ暗い空間が広がっているようにも感じる。
誰か・・・・・・「むぉ・・・」
助けて・・・・・・「ぅいい・・・」
誰か助けてくれ!「もういいかい!」
誰か助けてくれ!「もういいかい!」
誰か助けてくれ!「もういいかい!」
助けを求めるが、口から出てくるのは『もういいかい』だけ。
誰でもいい。答えて!
誰か助けてくれ!「もういいかい!」
誰か助けてくれ!「もういいかい!」
誰か助けてくれ!「もういいかい!」
どれだけ叫んだだろう。
『・・・・・・まぁだ、だよ。』
微かに聞こえた声に向かって走る。
誰か助けてくれ!「もういいかい!」
誰か助けてくれ!「もういいかい!」
『もういいよ』
あはは!応えてくれた!
「見ィつけたあぁ!」
嬉しくて抱き着く。
あぁ、温かい。人の温もり。
「ん?」
目を開けるが腕の中には誰もいない。
そして鏡の中には見知らぬ顔。
『もういいかい』の声には応えちゃならぬ。
助けを求める誰かに取って代わられる。
さぁ新しい身体を探しに行こう。
誰か助けてくれ!『もういいかい!』
終わり