第34話 誰がために
ここはライテシア城の王室内、中央に魔法陣が描かれており、中央にはガルディが座禅を組んで座って瞑想中だ。体の周りには黒い噴煙のような、不気味な瘴気が漂う。そこへ、ダリルが血相を変えてやって来た。
「顔色が良くないな、どうしたダリル…」
「ははっ、ガルディ様… 実は…」
「我らの切り札の正体がばれまして…」
「先ほど、連絡が途絶えました…」
「女神は復活したと思われます…」
ガルディは片目を開けて、ダリルを目視すると、また、目を閉じた。
「あの光の女が来るのだな…」
「はい… ルシファー様」
「恐れるな…」
「迎え撃とうではないか…」
ガルディはそう云って立ち上がり、西の天空を睨らんだ。地上界への進出はこれが初めてではない。その都度、アストライア達に邪魔だてされる。
「やつら… 何故これほどまでに…」
「…そこまでして、この外道達を守護する価値があると云うのか…」
姿形は、ガルディそのものではあるのだが、中身はほぼルシファーと化したその者。これほど時が欲しいと感じた事は無かった。
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「い、今、何と云われました?…」
「わたくしが?…」
フレイアは目を丸くし驚いていた。世の中で一番慕っていた、かのルイーズ・アルマティアだ。その彼女が、今、自分の目の前で跪く、この状況が飲み込めないのに、ルイーズの語り掛ける言葉が更に理解できない。フレイアが聞き返すのも無理は無い。
「封印はフレイア殿か?…」
シーウッドも、女神は石像に封印されていると考えていたに違いない。あっけにとられた様子でルイーズを注視していた。
「汝に命ず、古の約束を果たすべく、今、ここに封印を解き放て」
ルイーズが呪文を唱えると、部屋全体が一瞬金色に輝くと、また元の水晶の部屋に戻った。
水晶宮で金色の光を浴びたガート、メデサ、クム、ルーには古の記憶が蘇り、そして、ルイーズ目の前にはフレイアではなく、女神アストライアが姿を現していた。
女神は目を閉じていたのだが、ゆっくりと目を開けると、最初に目にしたルイーズの姿に笑顔で反応した。
「イーリス…」
「あなた… 戻って来てくれたのですね…」
アストライアは更に周りを見渡し、四神達も全員揃っているのを確認した。だが、その喜びも直ぐに消え去った。アストライアはある事を察すると、表情が曇り出したのだ。
「と云う事は地上界の危機なのですね…」
「再び、わたくしの力が必要と…?」
アストライアの問に、皆ゆっくりと頷いた。そして、目覚めた女神に世界の傍観者のシーウッドが近況を報告する。
「女神よ、この4千年の間、願いの水晶を自己の願いに使用した者はおらずじゃ…」
「約束は約束ですね、ここを守るかここから去るか… 判断の時…」
「だけど… 某は、正直云うと人間などどうでもいい、と思ってる」
「こんな自分勝手な生き物は要らぬ…」
「そ、そんなぁ… あたいは守ってあげたいよぉ」
「お、おいらも、人間は好きだよ…」
思い思いを口にするルー、メデサ、クムだった。その3人の言葉を、難しい顔をしながら聞いていたガートは、腕組みをするとそのまま黙ってしまっていた…
それを見たルイーズは、ガートの思いを知り得たのか、自分の思いをガートに向かって語った。
「人間はまだ未熟なのですよ… 私は、大人に成りきっていない、子供の様な無邪気な人間には、惹かれるところがあります…」
「…冥府の王としての意見も、聞きたいですね…」
ルイーズがそう云うと、ガートはゆっくりと腕組みを外した。そして、右手に握り拳を作ると、神妙な面持ちで重い口を開いた。
「俺は、長年冥府にて罪人の審議をしてきた…」
「その者達は貪欲で、自分勝手で、飽くなき利益を無心する奴らばかりだった」
「そんな人間達に、常に不信感と絶望感、怒りと悲しみ、哀れみを感じていた…」
彼の口からは、人間達に対する非常に辛口過ぎる言葉であった。だが、紛れもない、冥府の王プルートゥとしての正直な気持ちを打ち明けたのだ。だが、その真意はもっと奥まったところにあり、ガートは更に云う…
「だが、思うのだ…」
「人間達は、苦しみ、悲しみ、絶望感を感じた時、思い出と希望で、それを乗り越える事が出来る…」
「思い出は、喜怒哀楽の4つ感情の積み重なりだ」
「そしてそれは、知恵や勇気の糧となる」
「希望とは望みを実現したいと云う欲だ」
「強欲は人を醜くするが、それを邪気と取るか否か…」
「また、望みを叶えると云う欲がなければ、希望は見い出せないのも然り…」
「その匙加減は人によって違い、非常に扱い難いのだ」
「なのに、ほとんどの人間は、それらをうまく加減出来る…」
「いや、制御しているのだ…」
「愛する人との思い出を残すために団結する」
「それが人間の良い所だと… 俺は思う」
ガートがそう云うと、ルー以外は皆、それに激しく頷いていた。
「だから、人々はそれを四合わせ(四つの感情を合わせる)と呼ぶのね…」
ルイーズがそう云うと、それを聞いたアストライアは嬉しそうである。そして、わざとルーに、にっこりと微笑むのだった。
ルーは、ガートの言葉に焦りを感じていた。自分の意見だけが、なんだが仲間外れ感が半端ではない。ルーはしてやられたと云う表情をしていた。
「あ… あぁ… そ、それは、某も、それには同意するよ…」
「わたくし達も、見習わないといけませんね」
「…放っておく訳にはいかないですわね…」
アストライアは、女神像の寝台から水晶の杖を取り出すと、眉を少し吊り上げ、険しい顔立ちで、それを高々と挙げた。決戦を決意した瞬間である。
彼女が左手を差し出すと、その上にルイーズ、そして、ガートが続いて左手を連ねた。それを見たアストライアは 何かを思い出したかの様に声を荒げた。
「あっ!」
「ところで、あなた達は何時になったら一緒になるつもり?」
「え?あっ!…」
アストライアのとっさの言葉に、ルイーズは顔から炎が出そうになっていた。ルイーズと冥府の王は古からの付き合いで、その仲むつまじさは、アストライアと他の四神達も承知の事だ。しかし、冥府を彷徨う人間を救済したく、ガートが自ら冥府落ちしたため、なかなか進展しなかったのだ。
「こ、これが終われば、そろそろ考えてもいいかもな…」
ガートが照れくさそうに答えると、ルイーズは、頬を赤らめ恥ずかしそうに頷いた。
「良かったわ…」
「そ、それより、間もなくルシファーが完全復活します…」
アストライアのちょっとした茶茶入れに、ルイーズが、慌てて返すと、更に、メデサ、クム、ルーが素早く左手を重ねた。
「これ以上彼らを野放しにはできませんね…」
6人が、手の重なりをじっと見つめると、それぞれの身体は、ルイーズは金色、ガートは朱色、クムは白色、ルーは蒼色、メデサは緑色、アストライアは紫色に輝き出していた。
「やれやれ…これで、やっとわしの役目は終わる…」
6人の身体の輝きを見たシーウッドは、その光景を、満足そうに見ていた。
水晶宮から金、朱、白、蒼、緑、紫、6本の光が束となって一斉に舞い上がった。そして、その光の辿り着く先は… ライテシア城… 6本の光がまるで虹がかかるように大きな弧を描き、そして城へと舞い降りて行った。
-- おわり --
<<後書き>>
皆さま、読んで下さいましてありがとうございます。感謝感謝しかないです。
長らくお読みいただきありがとうございました。
色々諸事情(仕事が忙しくなり、PCのクラッシュによる小説データ消失)により
連載を急遽完結させました。申し訳ないです。
今後の予定としまして、暫くの間、活動を休止したします。
復帰はするので、また、皆さまとお会いしたと思います。
ありがとうございました。




