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第31話 戻らぬ記憶

<<あらすじ>>


地上界に戻ったガートとフレイア。


ガートはルイーズと早急に合流したいと考えるが、途中、野営をし、フレイアは朝霧の中でまたティアと出逢う。


フレイアはティアに願いの水晶の事、進化の事を聞くのだが…ティアにも判らなかった。


そこでフレイアは、ティアからルイーズに気をつけろと謎の言葉を聞かされたのである。


そして、更に、ガートが冥府から地上界を彷徨う理由とあの女神の幻想についても明らかになりつつある頃。

ガートとルーが偶然街で会い、たかが銅化20枚で決闘する羽目になってしまった。


決闘は法術戦なのだが、互いにサクセッションを投入する本気度での勝負だった。


ガートは少し生意気なルーを少し懲らしめてやろうと思ったのが、行けなかったのか、ルーを倒してしまう。

 なんと表現をしていいのか分からないが、遠くの標的に適当に石を投げて、偶然当たった時の感覚をお分かりの人は多いと思う。言葉にすると正に「あっ」としか表現できない。ガートの今の思いは、それに似ている。


 「な、馬鹿なっ!」

 「何故に逃げなかった!!」


 ガートは逃げ切るのを想定して標的追尾(チェイス)を入れ込んだ。小生意気な彼を少し懲らしめておいて、いい頃合いを図って呪文の停止をすると云うのはよくある事だ。だが、まさかそれが命中してしまうとは、全くの大誤算だった訳で、彼自身も狼狽えていた。その時、その脇で泣き崩れるメデサの下に、クムとルイーズが駆け寄って来た姿に、フレイアとガートが注視する。


 「ク、クム!」 驚くフレイア、


 「ルイーズじゃないか!」 ガートはもうルーの事どころではない…


 クムとフレイアは手を取り合うと互いに笑顔で飛び跳ねていた。


 「フレイア無事だったんだね」


 「あなたも無事で…」


 その隣では、深刻な表情のガートがルイーズの両肩に手を置くと、熱く自分をアピールしている姿が伺える。だが、今一つその反応の悪さにガートは益々焦りを見せていた。


 「ルイーズ、俺だガートだ、判るか?!」


 「あ、あの、ごめんなさい…」

 「何処かでお会いしてても、あたし覚えてなくて…」


 記憶の無いルイーズからしてみれば、突如現れた筋骨流々の男が、自分を拘束しそうな勢いで迫って来るのだから、恐怖でしか無かったであろう。


 突然の出来事に、両手で口元を押さえると、怯えるような素振りを見せていた。ガートから逃げる様に、一歩も二歩も後ろに後退してしまう様子は、ガートにとってかなりのショックな出来事であったであろう。蹲って頭を抱えて悔しんだ。


 「そうか… 記憶がないのだな…」

 「聞いてはいたが、まさかな…」

 「これは辛いな…」


 更にその隣で、彼氏を失ったメデサが泣き叫んでいた。 


 「ル、ルぅ、ルーが死んじゃったぁぁぁ!!」


 なんだか、一度にあらゆることが起こり、現場は一時大混乱の状態になっていた。


 ガートの耳には、メデサの泣き声が入って来ていた。その声の主と、自分と戦った相手との関係をそこで初めて認識していく。慌ててメデサに語り掛けが始めた。


 「あ、あいつ、お前の連れなのか?」


 そう云うガートの言葉に、メデサは泣きながら何度も頷く。そのメデサを迷子をあやす様に扱うガート。


 「ちょっと待て!…」

 「落ち着け!…」

 「戻せる…」


 「?!…」


 「戻せるんだ…」


 「どう云うこと?!」


 メデサはガートが何を云っているのか全く判らなかった。首を傾げ、どう云う事なのか更に聞き返そうとするが、ガートは両手を大きく広げそれを遮ったのだ。そして右手に精神を集中させるとそれを腰に添え、次に左手を顔の前に持っていき構えた。


 「発動取消(ロールバック)


 そう云い、左手の中指と親指で、軽くフィンガースナップを行った。パチンッと軽快な音と共に、ガートの上空に薄暗い歪みが出来た。


 その歪みから、産み落とされた馬の子の様に落ちてくるルー。本人は咳込み苦しみ、メデサの前に醜態を晒すが、取り合えず生きていた。


 「なんか、嫌な予感がしたので、復帰点をマークしておいたんだ…」


 「よ、よ、よかったぁあ」


 メデサはそう云うと、また泣きそうになっていた。ガートは額の汗を拭うとホッと溜息を洩らし、やれやれと云った表情をした。


 ガートは法術の取消(法術を使った事を無しにする)のこの手法で、ふと思い出した事があった。それは、ルイーズと初めて会った夜の出来事で、彼女と”悪は殲滅させるべき”の論争で云い合いになった時の事だ。これがあの時に云った、発動取消(ロールバック)だ。と、心で自我自賛しルイーズにドヤ顔を入れるのだが、残念ながら、彼女から何の反応は得られることは無かった。記憶を取り戻すと云う事は、そう簡単なものでは無さそうだ。


+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+


 「では、全員揃ったと云う事なのか…」


 思いもよらぬ展開での合流の後、互いに持ち寄せた情報を交換し合った結果を、ガート、ルイーズ、クム、ルーの4人で確認し合っていた。左の二の腕に記されたペンタグラムのアザ。改めて全員が腕を捲り上げ見せ合う姿は、豪快と云うよう異様だ。


 「俺が南の朱雀、クムが西の白虎、ルーが東の青龍、そして、ルイーズが北の黒蛇…」

 「と云う事で間違いなさそうだ」


 3人の顔を確認しながら、最後にルイーズを見つめるガート。元々北の神はルイーズであると云う事は、暗黙に承知の事だ。今のところ、彼女からこれらについての反論もない。この4人がリザの言い伝えにある地神の聖者(ティターン)と云う事になる。


 「ねぇ、立ち話もなんだから、何処かで休憩でもしませんか?…」

 

 「(それがし)思うんだが、それには金が…」


 おっとりしたお嬢様育ちの影響か、話の落ちどころが纏まったせいなのか、フレイアのそんなのんきな言葉に、間髪つかずにルーが突っ込みを入れた。


 そう、なけなしの金を稼ぐために、ガートとルーは勝負したのだった。


 「そ、そうでした… わたくしとしたことが…」


 一瞬凍り付きそうになった雰囲気は、フレイアの言葉で皆の失笑を招いていた。

 

 兎に角にも、草原に屯する群衆達は、何か面白いものが見れると思ってやって来ている。暇を持て余しているとは云え、一向に何も起こらない状況は面白くない。口々に愚痴り出すと、痺れを切らした連中は、一人また一人と帰って行った。


 群衆が大方居なくなった頃、最後に一人の老人が切り株に座っているのが見えたのだが、その老人の姿を見てガートは、何故か血相を変えて詰め寄っていく。


 「おい、じじい… そこで何してるんだ?」


 ガートの素行が決して良いとは言い切れないが、にしても、腕組みをして威嚇する彼の様子は普通では無い。


 やがて皆が注目しだすと、褐色のローブを纏い、白く長い髭と白髪の老人が、ガートの言葉をうわの空で聞いている姿が伺える。


 「こんな処にのこのこと出てきて、何企んでいるんだ?」

 「おい、聞いてるのか!!」


 ガートが一喝するも、老人は知らぬ顔… これにクムとフレイアが気付くや、驚いた様子で駆け寄って来た。


 「シーウッド様!」


 「じいさん!」


 「なぁにぃ!!」


 そう、その老人はシーウッドだったのだ。2人の言葉に驚いたのはガートだった。クムとフレイアを見つめ、少し怖い顔をすると、今度は2人に詰め寄る。


 「お前たち、このじじい知ってるのか?」


 「プルートンさんこそ…」


 頭を掻きむしり、何故か湧き上がるもどかしさに見舞われながら、ガートはシーウッドを指さした。


 「こいつ…、あ、いや、この人は俺の法術の師匠だ」


正直、フレイアのシーウッドの印象は良くない。彼女からすると、ただの汚い世捨て人のおじいさんであって、あの洞窟内の事は思い出したくな程なのだ。ガートからその人が師匠と聞いても、そのイメージが変わるはずもない。


 「え、じゃぁ、おいらとガートは、兄弟弟子なの?!」


 「ぬぁにぃ!!」

 「あの野郎! 俺以外に弟子取ってたのか!」


 話をする度に、ガートの怒りが沸々と湧き上がってくるようだ。弟子時代に余程の何かがあったようだが、このシーウッドが、今後の展開の重要な鍵を握っているとは、まだ誰も考え付かなかっただろう。

<<後書き>>


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