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第30話 思いよらぬ決闘

<<あらすじ>>


地上界に戻ったガートとフレイア。


ガートはルイーズと早急に合流したいと考えるが、途中、野営をし、フレイアは朝霧の中でまたティアと出逢う。


フレイアはティアに願いの水晶の事、進化の事を聞くのだが…ティアにも判らなかった。


そこでフレイアは、ティアからルイーズに気をつけろと謎の言葉を聞かされたのである。


そして、更に、ガートが冥府から地上界を彷徨う理由とあの女神の幻想についても明らかになりつつある頃。

ガートとルーが偶然街で会い、決闘する羽目になってしまったのである。

 俺が地上界に戻ってから2日目だ。


 とは言え、何故、冥府の王の俺が、地上界を彷徨うのか… と云う疑問にぶつかるだろうが、う~む、それが、俺にも分からないのだ。いや、正しくは覚えていない、と云うのが本当のところだ。まぁ、目的かどうかは判らんが、闇に塗れていると直ぐに己を失い、暗黒へと取り込まれてしまうのだが、ここでは、光の一族であるエルフ達の力を浴びることで、それを回避出来るのは確かだ。その過程で転生前の記憶がクリアされる時があるので、100%完璧なものではない。


 また、我が一族には代々伝わる役目がある。一族と云っても俺の他に一族の者がいるのかどうかも分かったもんじゃないのだが… その役目と云うのが、南の聖域を守るという役目。


 当然ながら、南の聖域があれば、北の聖域もある、西、東もしかりだ。そして、それらを守る一族達も別にいると云う訳だ。そして緊急事態下ではその(おさ)達が招集される事になっている。今回の様に、願いの水晶が使われたり、ギルマ神話の女神が復活しようとする時には、各聖域は緊急事態下に置かれる。


 …そう、願いの水晶が使われた今は、緊急事態下なのだ…


 当然、招集は発令されたと思われる。俺の左腕にあるペンタグラム型のアザが、激痛を伴う赤い腫れを起こしている。これが、その招集の合図なのだと考えているのだが、確信は持てない。昨今、地上界にもここまで闇が溢れかえると、果たしてそれを覚えている者達、反応する者達、気付く者達がどれだけいるのか判らない。招集場所は西の聖域の外れにある、信託所(オーラクルム)メナである。


 俺は、ルイーズに再会後、すぐにそこに向かう予定だった。


 今から思えば、あの女神の幻想云々については、この招集を予告していたと考えるのが正しいのかも知れない。


+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+


 さて、ここは城下の街ザ-ルからほど近い、ナイルと云う両外商の小さな街なのだが…。フレイアが父親から託された、ライテシア時代の軍票(軍用手票)を所持しており、それが通用するかを確認する為にここを訪れた。いざと云う時に備えて持っていなさいと云う事なのだろう。だが、あまり期待できそうではない。


 ガートは辛気臭いところは大の苦手であるので、店には入らず外で待機する事にし、フレイアが一人中に入って行った。個人の両外商達と云えど、やはりお役所関連となるとどうしても時間がかかるんだろう。結構待たされた挙句、ようやく彼女が姿を見せたと思うと、沈んだ表情でガートに首を左右に振った。


 「ライテシアと云う政府はもう存在しないので、やはり、軍票は紙くず同然と…」


 「そうか… 紙幣すら変わるかも知れぬからな…」

 「今、信頼できるのはギルド硬貨ぐらいか…」

 

 金が無いのはいつもの事。ひとり旅には慣れているガートだが、女性の連れがいると少々勝手が違う。軍票と云う聞きなれない物に、一時の期待を持ってしまっていた自分がいた。そんな2人が肩を落として途方に暮れていると、路地の外れで"勝負して勝ったら銅貨20枚"という手書き看板を発見した。


 さすがに、肝心の”何で勝負するのか”という言葉がないのが気にはなる。だが、ガートとしては全身の筋肉が踊ってくる思い一杯で、これは挑戦するしかないと勇み出て行ったのである。その手書き看板は、ボロボロの布切れに、赤い色素のものを使って書かれていた。通路の一角に立てたのみの看板はまるで物乞いを思わせる。隣を見ると、地下手に胡座かいて寝ている店番がいた。日よけのために帽子を顔にかぶせて居たのだが、ガートはその帽子を取り、声を掛けてみることにした。


 「よう、この勝負とはどんな勝負なんだ?」


 日よけがなくなり、眩しさに気付いた店番が不機嫌そうに起き上がって来る。なんと、メデサの幼馴染のルー.レキサスだった。しかし、2人は今回初めて顔を合わせたのだ。お互いの事を知る由もない。


 ルーは、ガートの体格を見ると、とても腕力ではかないそうにないと考え、何で勝負しようかと模索しだした。ま、相手を見て、勝負する内容を変えるという事である。そうなるとこの勝負、色々と怪しい所が出てきそうある。


 「そうだな、あんた、法術使えるか?」

 「法術で勝負するのはどうだ?」


 「法術だと…」


 『法術』と聞いて、ガートの頭に浮かんだのはまたもや法術の師匠の言葉だ。『人前では使うな』と云われている。だから、法術ならやめだと考えていた時だ。ルーが余計な一言を付け加えた。


 「丁度、来る奴来る奴、筋肉バカばかりで嫌気が差していた所なんだ」


 この『筋肉バカ』と云う言葉がガートの怒りに火を着けたのは確かだ。師匠からの言葉など一気に何処かへすっ飛んだに違いない。


 「どうする? 悪いが(それがし)もそこそこの使い手なので手加減はしないぜ」


 「判った、それでいい、だが、法術戦となると何処でやるんだ?」


 「じゃぁ、決まりだな…」


 勝手に事を進められ、移動しだす2人にフレイアはやきもきしていた。しかも、その報酬の額が、たかが銅貨20枚などと云う子供のお使いのような額ときたもんだ。


 2人はしばらく歩くと、馬でも走らせるには丁度良さそうな広さの草原へと出て来ていた。その後をフレイアと何が起こるのかと興味半分で付いてくる民衆がいた。すると、ルーはここでどうだとジェスチャーでガートに問うと、ガートもそれに頷いた。


 「いいか、そっちが負けたら逆に同貨20枚頂くぞ」

 「勝負は、どちらかが参ったと云うか、倒れたほうが負けだ」


 「ああ、判った」


 ルーは魔法陣の描いた護符を2枚取り出すと、両手に仕込み構えた。そして、その構えを確認したガートは、右手に精神を集中させる。赤く光るその右手を、ルーへと向け攻撃態勢の構えを見せた。


 「延伸氷爪(エクステンドクロー)!」

 「ウィズ連荘(サクセス)っ!!」


 「連荘発動(サクセッション)!」


 ほぼ同時に2人が相手に聞こえるように力強く呪文(ルーン)を唱えた、双方、真っ先に連荘発動を唱えた。お互い手加減しないつもりらしい事は此れで分かった。


 早速、ガートにルーの氷の爪が降り注ぐ。さっと2、3回の跳躍を行い回避をすると、ガートの居た場所に槍サイズの氷の爪が重量音と共に次々と地に突き刺さった。


 レベルで法術戦の強さが必ず決まる訳ではないのだが、ルーは法術技量はレベル1(有陣有唱発動(オールレンジ))、ガートの法術技量はレベル2(無陣有唱発動(セカンドレンジ))だ。恐らくガートには総合的に勝敗の行方を知り得た事だろう。


 それを確信してなのか、ガートは小声で呟いた。


 「発動点記憶(トランザクション)


 シュゥン、ガートの赤く発光した右手が音を立てて出力落ちする様子が見て取れた。ダリルの時であれば、速攻で攻撃に入っていた筈のガート。なにやら攻撃に躊躇しているようだった。


 だが、ルーにはそんなことはどうでも良かった。攻撃に攻撃をかけるのみだ。サクセッションによる氷の爪は留まる事を知らない。


 ガートは結構技術的、戦法的な自画自賛が多発しがちな所があり、それが原因で隙を作り足をすくわれてしまうのが弱点と言えるのだが、結果を客観視する事は忘れない。


 だが、問題なのはルーだ。ガートに輪を掛けて自尊心が高過ぎるこの男。自己に(おご)れることはあっても、己を客観視することはない。他人から『嫌な奴』と見られがちな所がある。


 やはり自己分析と云うのはどれ程大事であるかが判る。


 「こらぁ!、あんた達何やってんの!!」


 民衆の騒ぎを聞きつけてか、そこへ姿を現したのがメデサだった。腕組み姿で仁王立ち、顔は真っ赤、明らかに激怒しているというのが判った。


 「え?!」 ルーが驚き、


 「え?!」 フレイアが叫び、


 「ま、まって!」 ルィーズが騒ぐ、


 一瞬だが、誰もが時間が止まるような思いをした事だろう。だが、戦いの最中(さなか)であるガートの時間はそうでは無かったのである。


 「圧縮破壊(デカント)!ターゲット標的追尾(チェイス)

 

 躊躇していたガートがやっと呪文(ルーン)を唱え終わったのである。しかも標的追尾のエンドレス付きだ。呪文は(いにしえ)の言葉で綴られる。法術の知らない者にはその内容は理解できないだろう。唱え終わった呪文に誰も気づく者はいなかった。


 空間が何度となく、鈍い低い音と振動で次々と歪み圧縮される。そして、それは確実にルーを追っている。


 ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボーンッ、


 「あっ兄貴危ない!!」 クムが叫び、


 「あ"ー!」 メデサが叫び、


 「きゃー!」 フレイアが騒ぐ、


 目の前で、圧縮された空間と共にルーが閉じ込められ、その空間は圧縮されたしまった。周りの民衆がまた騒ぎ出した。これに、メデサは血相を変えて駆け付けた。戦いは終わった、と云うか勝敗は決まった。メデサは愕然とその場に崩れたのだった。

<<後書き>>


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