第29話 ティアの言葉
<<あらすじ>>
地上界に戻ったガートとフレイア。
ガートはルイーズと早急に合流したいと考えるが、途中、野営をし、フレイアは朝霧の中でまたティアと出逢う。
フレイアはティアに願いの水晶の事、進化の事を聞くのだが…ティアにも判らなかった。
そしてフレイアはティアからルイーズの事を聞かされる…
フレイアがガートと行動を共にして、1夜目…
ガートが冥府に落ちる前までは、あれ程見ていた悩ましい女神の幻想。今は全く見ないようになっいた。一体何だったのかと思う。
そして、ガートと云えばやはり野営だ。クムの時もそうだが、フレイアと共に行動する男達は野営好きらしい。と云うか、アウトドア派だと云った方が判りやすいのかも知れない。
昨夜も野営をしたのであろう、街道を少し逸れた所にある樟の木の下で、暖を取った後があった。夜はまだ明けておらず辺りはまだ暗いが、そろそろ明けの時刻となり、少々白んで来た様に思われる。
どうやら、フレイアは寝つけなかったらしい。白み始めた空に形を変えた水晶を晒して見ていた。その側で横たわるガ-トがいた。そう言えば、水晶が形を変える前にも、同じ様にこうして水晶を見ていた事を思い出した。
辺りに靄がかかり、薄っすらと白い世界へと変わっていた。まったくあの時と同じ状況に、何故か心がざわついていたのだ。
その予感が的中したのか、激しい耳鳴りが彼女を襲う。これもあの時と状況は一緒だった。もしやと思い、辺りを見回す。
「…?」
「ティアね」
『…!』
『驚きました。 判るのですね?…』
聞き覚えのある声に、フレイアは笑顔になっていた。しかし、ティアは何故、自分の事がフレイアに判ったのであろうかと、疑問を感じたに違いない。姿は当然ながら見えぬ、そして実態もないので、気配などもあるはずもないのだから…
『あなたが願いの水晶を使ってしまい…』
『落胆しておりました…』
『再びこの世界に戻っていたとは、驚きです…』
『…また、逢えて嬉しく思います』
だが、更にフレイアの言葉に驚かされることになる。
「ねぇ、ティア」
「こっちに来て下さらない?相談があるの…」
『私の姿が見えているのですか?』
「いいえ」
「見えると言ってもシルエットだけですもの、顔は見えないわ」
驚いた様子を見せるティアとは対象的に、フレイアは平静に答えていた。顔は見えないと言う言葉に、ティアは残念と言う気持ちと、それで当たり前という感が複雑に混じり合っていた。
しかしながら、光の一族である精霊のティアの姿が見えると言う事は、フレイアが光の一族に近い位置にいると云う事になる。それが水晶のためかどうかは不明だ。
『そう…』
『でも、今の私は知性のみで、この世界では実態すら持ちません』
『それが見えるとは、あなたには驚かされるばかりですね』
「わたくし、丁度逢いたいと思っていたところなんです」
「聞きたい事がたくさんあって…」
『どうしたのです?…』
『野宿が辛くなったのですか?…』
何時もなら、どう云うお告げがとか、どういう導きがとか、受け身なフレイアなのだが、いつもと違っていた。
「ティアなら願いの水晶って本当は何なのかご存じ?」
『いきなりですね…』
冥府でも散々聞いて来た事なのは十分承知だ。だが、腑に落ちない事、納得できない事については承服しきれない思いがあるのだ。だが、ティアはそんなフレイアに興味深く聞き入ってくれた。その後、考え込んでしまったものの、悩んだ挙句言葉を続けた。
『実は…』
『願いの水晶は… 地上界再構築の器です』
『人間達はあまりにも争いを好み、私利私欲を極めようとしました、その度に神は地上界を再構築してきたのです』
『そしてついに、神はそれを自動化と云うか器に任せる事にしました… それが…』
『…願いの水晶です…』
『千年に一度、水晶に願いし者を代表者とし、願いの内容により地上界の再構築を審査する事にしたのです』
『全ての判断は水晶がします』
『願いが貪欲で傲慢な場合は願いは拒否され世界は再構築され、そうでない場合は願い受諾されます…』
『ですが、いづれの場合も願いし者は冥府へ落とされる事になります』
多少言葉の表現や内容の違いがあるものの、やはりティアも冥府の王と同じ事を云う。説明を終えるティアにフレイアは更に疑問を投げ掛ける。
「千年に一度、人類の評価をすると云うことかしら…」
「じゃぁ、願いの水晶はどう云う時に形を変えるの?」
『形を?…』
ティアが困っていると、フレイアは左の腕を指差した。
「プルートウさんが云ってました」
「これは、願いの水晶が進化したって」
『…』
噂や云い伝えのレベルではなく、明確なルールが欲しいと思っているフレイア。願いが成就された後は、罰を受けるのみと思っていたのだから、その後、水晶が進化だの新しいミッションだのと云われ困惑していたのであった。
『…ごめんんさい、それは私にもわかりません…』
『水晶は千年経過するまで姿を現さない筈なのです…』
「そう…」
「判ったわ、ティア…」
「また、何かあったら、聞いてもいいかしら…」
『ええ…』
…良かった…
…やっぱり、ティアに話して良かったかも…
フレイアは、ティアに古くからの親友の様な感覚を感じていた。そのためか、ティアには何でも気軽に聞け、相談も出来る。また、そのやり取りも心地良く、非常に安心出来るのだ。
『そう云えば…』
『今、旅を供にされているお連れのあの方…』
『…彼は…』
『闇の一族である自分を戒め、自ら冥府堕ちしました』
『それは、誤って送られたり迷い込んだ罪なき人々を救うためでした…』
『時々闇に支配されてしまい、自我を喪失するのが難点ではありますが…』
ティアが更に何かを話そうとしたが、何かに気付く様に、ガートが目を覚ましムックリと起きあがって来た。それを察知するや、ティアは逃れる様に慌ててその存在を消してしまった。
『彼に、ルイーズ・アルマティアには気をつけろと伝えてください…』
「え!? 待ってティア、どういう事!?」
引き際にティアの云った言葉が、まだ微かにフレイアの耳に残っていた。ガートは大きく伸びをすると、眠気眼で不思議そうにフレイアを見つめていた。
「おい、今、一人言を云ってなかったか?…」
「え?…」
ボ-とした顔で不思議そうな表情をするガート。そのガートが "一人言" と言った事に当初フレイアは暫く理解出来ないでいた。
やがて、ティアは言葉では無く、直接フレイアの意識に語り掛けていたという事を悟ると、それを理解した。そして、今はティアの事は伏せて置いても良いのではと考え、ガートには"一人言"で通すことにしたのだ。
「あっ、"一人言"… 云ってたわよ。 云ってた…」
「どうでもいいけど、大丈夫か?」
「頼むぞ…」
「う…うん…」
ガートは、変人でも見るような感じでフレイアを見つめていた。だがフレイアはそんな事に気を取られず、ティアが去り際に行った言葉が気になっていた。
…ルイーズ・アルマティアさんに気を付けろとは一体どう云う事なんだろう…
そう考え込むフレイアの顔を不思議そうに覗き込むガート。フレイアはそれに気付くと、にっこりと微笑んだ。
後書き
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