成長する短編小説
【1日目】
私は短編小説の種。
気がつくとある作者の頭の中に埋め込まれていた。
小説の神様の仕業だろうか?
それはさておき。
私はどういう種類の短編小説なのだろう。
読む人を笑顔にするコメディか。
お涙頂戴のヒューマンドラマか。
はたまたテンプレ悪役令嬢モノなのか。
どうやらこの作者はズボラな様だ。
どうかせめて芽が出せますように……。
【2日目】
私は短編小説の芽。
どうにか作者は書き始めてくれたようだ。
人間で言えば「やっと生まれた」と言っていいだろう。
作者の頭の中で長い時間待っていた。
もう忘れられたかと思った頃に原稿用紙の上に種を蒔かれた。
今はどんな短編小説に育つのかは分からない。
ただただ種を蒔いてくれた事に感謝するだけだ。
作者よ……。
【3日目】
私は成長中の短編小説。
ぐんぐんと伸び盛りだ。
しかしまだ結末は決まっていない。
とにかく作者の思いつくがままに肥料と水をいただき、天まで届けとばかりに伸びるだけだ。
ただ心配なのがこの作者は風呂敷を広げるのは得意だが、広げた話を畳むのが苦手なように思える事だ。
私は無事に花を咲かす事はできるのだろうか。
短編小説でエタるなんて、意味不明だぞ……。
作者よ、信じているぞ。
作者よ……。
【4日目】
私は成長が止まった短編小説。
伸び悩んでいる。
伸びに伸びたのだが、ひょろひょろでちょっとした風が吹くともう折れてしまいそうだ。
この作者はどうやら物語の終いを考えるのが苦手のようだ。
ああもうだめだ。
きっと私はこのまま――。
作者よ……。
【5日目】
私は弱った短編小説。
作者が私の傍に支柱を立ててくれた。
私はその支柱に掴る力もなかったが作者が私を柱に縛りつけてくれた。
この作者はまだ私を見捨ててはいなかったようだ。
これならなんとか、まだなんとか、生きていけそうだ。
ありがとう。
作者よ……。
【6日目】
私は元気を取り戻した短編小説。
作者!
何をするんだ。
私の素晴らしい青々とした葉を切り落とすなんて!
私の数少ない自慢なのに……。
おい、不葉ってどういう意味だ?
不要なだけに――っておい。作者。
お前のくだらぬ駄洒落こそ不要とは思わぬのか。
作者よ……。
【7日目】
私はもう少しで花開く短編小説。
作者よ。
私が悪かった。
私が間違っていた。
確かにあの葉は不要であったと今なら分かる。
あの大きな自慢の葉を切り落とす事で栄養が花に回ったのだな。
お陰で私は大きな花を咲かす事が出来そうだ。
ありがとう。
作者よ……。
【8日目】
私は大輪の花を咲かせた短編小説。
作者よ。
私は感激している。
今日は私の御披露目の日。
多くの貴婦人と紳士の皆さまに愛でていただいた。
お褒めの言葉をたくさん掛けていただいた。
ああ。私は生まれてきてよかった。
この日の為に生きてきた。
ありがとう。
作者よ……。
【9日目】
私は枯れかけの短編小説。
作者よ。
私はどうやらたくさんの読者に見てもらえたように思う。
他とは比較できないがそのように思う。
何より作者とすごせた日々が宝物のように感じられる。
ありがとう。
私の事を時々は思い出してくれると嬉しい。
作者よ……。
【10日目】
短編小説の種。
~ おわり ~
,、 ,、
∟\|/ ノ
|
┬┬┬┬┬┬┬
スペシャルサンクス
絵文字協力 九傷氏
・「仲間に裏切られたハズレ職『サモナー』の僕は、魔王に召喚され指揮官兼参謀として新たな道を歩む~タワーディフェンスゲームのテクニックを駆使して冒険者を退ける!~」好評連載中! 九傷氏のマイページ
https://mypage.syosetu.com/695906/