プロローグ
プロローグ
人の見た夢の話を聞かされる時ほど聞き役として退屈なものはない。
と、一般的によく言われるけれども、俺はそうは思わなかった。それは単に、話し手の話し方であったり、見た夢の内容の面白さであったり、話し手との関係性であったり、いろいろな事柄が関係してくるのだと思うけど、
「ね、伊織くんはどう思う?」
「え?」
「だから、これってもしかして夢じゃなくてパラレルワールドに迷い込んでたんじゃないかって話だよ!」
この場合の彼女の夢の話は、なんとも表現の仕様がないものだった。
それは、彼女の夢の話が面白くなかったとかそういうわけではなく、なんというか、その、
「ねー! ちゃんと聞いてた?」
「え? あ、うん。聞いてたよ。そう思う。俺もそう思うよ」
「やっぱり!! もし、そうじゃないとしてもその方がロマンがあるよね! パラレルワールド!」
身に覚えがあったのだ。
他人の夢の話に身に覚えがあるというのもおかしな話だが、とにかく俺は彼女が話してくれた、パラレルワールドを、知っていた。
コインに裏と表があるように、この世界にも同様、裏と表が存在する。
二つの世界は同位置に存在し、決して交わることのないパラレルワールドである。それぞれの世界には、姿かたちが全く同じの人間が住んでいるが、その性質・性格は真逆のものである。
人は、自分自身が存在するこの世界に全くの疑問を抱かない。唯一無二の存在であるはずの個人に、もし、“ストック”が存在するとしたら?
知っている。俺は知っている。俺だけが知っている。
「なんかね、みんなね、違う人だった。見た目はあたしのよく知ってる人たちなんだけど、中身が全然違うの! 不思議だよね。でもね、」
知っている。でも、知らない。どうしてこんなこと知っているのか知らない。
「伊織くんだけは伊織くんだった。なんでだろうね? あたしさ、安心してさ、ワーワー泣いちゃって。そこで目が覚めたんだ」
彼女があの世界に迷い込んで来た瞬間、運命だと思った。本来ならば、干渉すべきではなかったのに気が付いたら俺は彼女に話しかけてしまっていたのだ。やっと見つけた、そう思った。
やっと見つけた。俺を観測できる人に。
「ねえ、やっぱりただの夢だったのかなあ。それにしてはなんかリアルだったっていうか、」
この物語は、本来ならば交わるはずのない二つの世界の均衡が崩れたことによって起こった、悲劇であり、遠くから観測したのならば、喜劇である。