聖女希望様ご案内(グロ注意)
後半、少しグロ入ってます。苦手な方はパスして下さい。一話完結なので読まなくても話に影響はありません。
今度の部屋は色で満ちあふれていた。
赤白青のシャボン玉が描かれた黄色いカーテン、パステルカラーが全色ぶちまけられたようなラグ。辛子色の壁にはパンダ子パンダ犬猫等のぬいぐるみが飾られている。
中でも目を引くのがわら人形だ。シュ×社製作とかシ×タイフ社製作、チャ×バリー社製作と自分で説明して飾ってある。
部屋は二間あり、リビングにシステムキッチン、トイレ風呂付き、と今までで一番生活感があった。そのわら人形の集団を除けば。
「前田千恵美さん……あの、千恵美さん?」
リュミは戸惑い声を掛けた。
その肝心の前田千恵美は大きな姿見と三面鏡を行き来し、ちっともこちらを見ない。
おそらく16歳の自分に驚いているのだろうが、パニックとも違うようだ。
「やだっ、若い。お肌すべすべ」「まつげもカールしてる」「しわもシミもない」「髪のボリューム感が違うわあ」
騒がしい。
というかうるさい。
「ブレザーの制服じゃなくて、シャ×ルのワンピースが良いわ」「確か鞄も靴もあったけど今のあたしなら大人っぽいかしら」「というか転生だからこの部屋にあるのかしら……」
ここでリュミ神官を見て「あるわよねっ」と怒鳴り尋ねて来た。
「テレビなど電化器具は使えませんのでありませんが、衛生的に大丈夫なものは前世と同じく揃えてあります」
「ラッキー」
クローゼットに走ろうとした彼女に、リュミ神官は咳払いをひとつした。
「前田千恵美さん。33歳独身。大手会社勤務で隠れ鬼のお局と呼ばれ、イジメで辞めさせたのは23人」
「……」
「小学校からつちかわれた陰湿イジメ技術は3日ほどご教授していただきたいほどですね。呪われて転生なんて聞いたことがないですが、向こうの方々は貴女を含めて呪術にたけた方が多いのですね」
ここで前田千恵美は振り返った。
「あたし、もしかして呪われて死んだの?」
「はい」
「誰よ。あたしを呪ったのは。名前を教えなさいよ」
「それはプライバシーの問題があるので無理です。本来の寿命はあと50年ありますね。理不尽な亡くなり方なので転生救済が発動したのでしょう。心機一転あきらめてこちらで生きなおして下さい」
「そうね。若くなれたし。あちらの世界とやらに未練はないわ」
前田千恵美はあっさりと言い放った。
「ただ恨み買いまくりのお局様から聖女にジョブチェンジをお望みのようですが……」
「なれないの?」
「なれますよ」
リュミ神官はやれやれ、と髪を掻き上げた。
「この説明は二度目なんですけどね。魔法は使ってはいけない規則なのです。聖女にはなれますけど魔法は使えません」
「回復魔法でも?」
「この大陸の住人はある程度の自己回復できますので」
「だけど階段の高い所から落ちたり腐ったもの食べたり誤ってシャーペンの芯を刺したり……」
「貴女が言うと現実味がありますね」
「でも何があるかわからないしい。回復魔法とか復活魔法は必要だと思うの」
「私に媚びは通じませんよ。この大陸には滋養強壮のエキスが大気中に入れられていますし、生死は〈神〉の分野なので介入されても困ります」
リュミは大きくため息をついた。
「イケメンなのにもったいない。若くなったあたしの魅力は通じないのかなあ」
「エロ玉なら鼻の下を伸ばしそうですが、鼻自体、ありませんので無理でしょう」
「……?」
前田千恵美は不思議そうな顔をしているが、リュミ神官は詳しく説明するのは時間の無駄だと判断した。
「じゃあ、あたしはここで何をするのよ」
「スキルに料理名人がありますね。胃袋を掴んで味方にするタイプですか。その割に独身ですけど」
「あんた嫌味な奴ね」
「リュミ神官とお呼び下さい。これなら使えます。料理人にジョブチェンジしましょう。似合わない聖女よりよっぽどいい」
「ちゃんとお給料はもらえるんでしょうね」
「ご希望に沿うことがお給料の代わりです。この転生にあたっての説明書で270カ所にサインしましたよね。その中に給料明細に関しての書類もあったはずですけど」
「いちいち読んで書いてないわ」
「良かった~」
リュミ神官は真面目に微笑み、前田千恵美は笑っていない目で微笑み返しをして来た。
ある意味、この根性がなければ駄目かもしれない。今までの転生者は使い物にならなかった。彼女は期待できる。
「ではその出入口から直接厨房に行けるようにします」
リュミ神官は胸に手をあてた。一瞬だけ部屋が光った。
「――場所移動完了」
「え。もう」
「はい。試しにそこの扉を開けて下さい」
前田千恵美はさすがに戸惑いが隠せなかったのかゆっくり向かって行った。
扉の向こうはステンレス製の長方形の厨房だった。灯りはないが壁自体が発光しているのでよく見える。
「……げっ」
目が慣れたら前田千恵美はその天井の高さと広さに驚いたようだ。四階吹き抜けの億ションワンフロアといった所だろうか。
中央に十五メートルある料理台、壁に掛けられた三メートルの刺身包丁や、ノコギリ、武器として使えそうな数々の鉈。
「道具の手入れは私がしているんですよ」
リュミ神官は微笑んだ。
「あの、あの……あれ」
前田千恵美は指をさして震えていた。
「ああ料理台の上のものですね。あれは〈カチョー〉と呼ぶ食材です」
まだ完全に血抜きは出来ていないようで、半開きの口から紫の唇が、濁って飛び出した眼から赤い筋のような血が流れ出している。
それは料理台を伝い、地面にどろりと溜まっていた。
「あれは私が今朝仕留めて来たやつです。勇者さんに頼んだんですけど、どうもまだ慣れていないっぽくて」
顔は見えないが厨房の隅で体育座りしているのがそれだろうと前田千恵美は思った。そこまで端にいればこの生臭い死臭から逃れられるかもしれない。そう考えるほど立ち上るケモノの遺骸――食材は臭かった。
「――これを……あたしにどうしろと……あのどうすれば良いのか教えて下さい」
「刻むだけ」
「……は」
料理台に置かれているダチョウに似た鳥の生き物は周囲に毟られた羽が落ちている所を見ると少しは手がかけられているのだろう。羽を毟られた跡の肌は血で盛り上がり、イボが幾つも並んでいる。
「みじん切りでお願いします」
「はい?」
「そこの壁に掛かっている鉈を使って下さい。貴女なら一番小さいこの鉈がいいかな。刻んでそれを下のバケツに入れるだけ」
「……バケツ」
想像からかけ離れ過ぎてよく見えていなかったようだ。厨房にはバケツとみられるものも多く積んであった。
「これはまだ新鮮なのですけど急ぎますから仕方がありません。向こうの世界でいうバナナの黒点が出る頃が一番美味しいのですよ」
つまり料理は腐る直前がベストということだ。
前田千恵美には伝わっただろうか。
「これを刻んで
刻んで
刻んで
刻んで骨も皮も筋肉も脂肪もすぺて刻んで刻んで刻んで」
前田千恵美はなぜが身動きひとつしていない。あちらの世界の料理はもっと簡単なのだろうか。試しにやって見せた方が良いかも知れない。
「では私が最初に」
リュミ神官は鉈を持ち、〈カチョー〉という食材に近づいた。
「あっ」
ここでリュミ神官は嬉しそうに声を上げた。
「これ、当たりですよ」
「……あたり?」
「そう、この腹の膨らみ。改めて見るとちょっと盛り上がってますね」
リュミ神官は言うが早いか喉から下腹までを一気に掻っ捌いた。
「……え」
中からドロッとした粘液に包まれた目玉がこぼれ出た。
どれも視線は定まっていないが、幾つかのものは黒目に当たる部分が動いている。その数は切り口から覗いているだけで5、60はあるだろう。大きさは大小さまざまある。
「寄生獣です」
「き、せい?」
「ええ。そちらの世界でもあるでしょう。違う生き物に卵を産み付けるヤツ。同じです。この〈カチョー〉は寄生されていたんですよ。この目玉に見えるのは卵です。乾燥に弱いのでこうしてゼリー状の粘液に包まれているのですよ。奥にまだまだ隠れていますね」
リュミ神官は引き裂いた腹の傷を広げる。すると目玉が粘液の糸を引きながら外にぬとっと流れ落ちた。
ステンレスでできた床を黒目がちな目玉がぼとぼとと埋めてゆく。血溜まりの上に広がってゆく。
下の溜まりがうぞうぞ動くと、鳥肌が立った。その上、ただでさえ生臭い死臭が凝縮し、塊となって前田千恵美に襲い掛かって来た。
「そちらの世界にも卵というものがありますよね。しいていうならこの獣は殻のない卵です。ゼリー状に見える白身に栄養があるんですよ。いやーこれだけの数は久しぶりですね。増殖しまくってます。もうちょっとしたら腹を食い破って出て来るところでしたね」
「……いや、違うし。卵は黄色い……けどあれは黒いし……血まみれじゃないし」
ブツブツと前田千恵美がつぶやいている。
「てか、あれ何なの……ドロっとして大きさはあたしの手くらいあるし……小さいのは金魚の目」「無理。生理的に無理」「臭いくさいクサイ」
リュミ神官は久しぶりの栄養豊富な寄生獣にテンションがあがっていた。だから前田千恵美の様子が変わったことに気がつかなかった。
彼女の元の世界にも動物をさばいて食べる習慣があると調べていたし、生食、そして魚を生きたまま刺身にすることもあると知っていたせいでもある。
「これってそちらの世界で言うキャビア……いや、イクラみたいなものなんですかね。似ています?」
「……う」
「この寄生獣はハラワタに食いついて栄養にしているのですよ。だから卵同士は毛細血管で栄養を送りあっている。このゼリー状は乾燥を防ぐと共に栄養を共にするために必要なんですね」
「…………」
「みじん切りした身体は後で腐葉土とまぜますが、この寄生獣はそのままでいいです。できるだけつぶさないよう、ひとつひとつ丁寧にバケツに入れて下さいね。根っこは腸に食い込んでいると思いますので、こうして指で腸を千切って……あれ?」
リュミ神官はここで我に返った。
「どうしたんですか前田さん、寝ているんですか、おーい」
前田千恵美は立ったまま気絶をしていた。
『で、今回の転生者もまだこっちに適合していないんじゃな』
〈神〉は幾分悲しそうな声をしていた。
「まあ、似て非なる世界ですからね。即戦力としては難しいかもしれません。ただ今回は『ステータス・オープン』という謎の言葉は口にしませんでしたし」
『個体差が大きいってことじゃな』
「はい。どちらにせよ早く慣れて行ってもらいたいんですけどね。なんせ人材不足が著しいので……」
『じゃな』
「イザとなったら魔界から何人かさらって使いましょうか」
『お願いやめて、ワシ一応神様だから』
「立ってる者は悪魔でも使えと向こうの世界にことわざがあった気がします」
『ホント?』
「たぶんね」
リュミ神官はためらいなく微笑んだ。
読んでいただきありがとうございます。
ルビ機能初めて使いました ← 何度やりなおしたか(なぜか失敗する。カチョーの祟りかっ)