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35.夜の街編 違和感



 スノウはセフィライズとシセルズの二人が目の前に座って何か話しているのをぼーっと眺めながら、黙って食べ物を口に運んでいた。スノウが作ったスープと、セフィライズが作った食事。なんだか、恥ずかしくなるほどに味が違うのがわかる。美味しくなかっただろうな、と思うと自然と顔が赤くなった。


「お前、体はどうなんだ?」


「別に、ただちょっと依存性があるのかなとは思う」


 二人の話す横で、スノウはセフィライズのコップの水が減っているのに気がついた。デキャンダを手に取り、おかわりを入れる。それに気がついたセフィライズは、小さな声で様子を伺うように感謝の言葉を綴ってくれた。しかし、その彼をまだ、スノウは直視できない。


「依存性って、まさかもっと欲しいってことか?」


「もうだいぶ薄れてはきてる」


「奪うなよ。もう俺が預かっとくからな」


「暴れたら兄さんが止めてくれればいい」


 シセルズは、それは絶対無理だろうといった表情を浮かべた。多分、いや世界中探しても、セフィライズが暴走したら止めれる人間は少なそうだ。まずこの国には一人もいない。スノウの出身地であるカルナン連邦には、雷帝(オクソール)と通り名がつく程の男がいるというが、アリスアイレス王国からは遠すぎる、つまり、終わったも同然だ。


「そうだ、あのエリーって子の部屋から出てきたぞ。これ」


 シセルズは持ってきた荷物からガラスの小瓶を取り出す。スノウがリリベルから回収した液体入りの小瓶、タナトス化した兵士とエリーが持っていた空の小瓶の三つを並べる。精巧で透明感のある高級な作りの小瓶が、一般従者が共通して持つには、やはり違和感しかない。


「原因は、これという視点で動いても問題なさそうだな」


 液体の入った方の小瓶をシセルズがさっさと片付けてしまう。セフィライズは苦笑した。空の小瓶を片手に、持ち上げて見る、何度見ても一般的な小瓶ではない。


「リリベルさんから聞き取った内容もあるぞ」


 鶏肉を口に頬張りながらシセルズがリリベルの聴取をまとめた書類を出した。それを片手に、内容を読んでいく。ほとんどは聞いていたのと同じ。

 城下町の酒場でエリーと一緒にいたところを、初老の男性から話しかけられた。二人はお互い少し疲れていて、色々と親身になって話を聞いてくれた。ガラスの小瓶を出され、体力回復、気持ちを向上させる効果があるといいそれを飲み物に混ぜて飲んだ。体が軽くなり、気持ちが落ち着いた。今後困ったら使うといいと渡された小瓶を受け取った。リリベルはこれまで四滴ほど飲み物に混ぜて飲んでおり、今もなおまだ飲みたいという依存性を感じている、との事だった。


「なぁセフィ、アスパラガス残してもいい?」


「野菜も食え」


 今だ聴取の書類を読んでいるセフィライズは兄を見もしなかった。


「はい、ルバーブも追加しとく」


「それはお前が嫌いなだけだろ!」


 セフィライズは鶏肉のソテーの添え物であるルバーブの塩味コンポートを兄の皿に移動させる。それを防がれ、危うくテーブルの上に落ちそうになったそれを、すかさずフォークで刺し、口に入れた。


「嫌いじゃない、苦手なだけ」


「それを嫌いって言うんだよ」


 そのやりとりをただ黙って見ていたスノウは、思わず吹き出してしまった。なんだかとても二人が仲良くて、微笑ましかったからだ。いつも静かなセフィライズが明るく他愛のない話をしているのも、とても新鮮だった。

 セフィライズは一瞬彼女の存在を、目の前にいて認識していたというのに忘れていた。油断していた、が近いかもしれない。


「仲がいいんですね」


 嬉しそうに笑っているスノウを彼もまた直視できないでいる。変な間があいてしまった。


「スノウ、その……すまなかった」


 伏し目がちなままでセフィライズは謝った。何に対してか、は本人もわからないし、聞いたスノウもわかっていない。でも、何が言いたいのか、気持ちだけはよく伝わっていた。


「わたしも、ごめんなさい」


 だからその気持ちに、答えようと思ってまっすぐ目を見つめた。まだ彼は伏し目がちで視線をそらしているけれど、ちゃんと真っ直ぐに。

 スノウがニコニコしながら真っ直ぐセフィライズを見ているその横で、シセルズは内心、楽しくて仕方がなかった。茶化してやろうかとも思ったが、あまり弄ると後々面倒臭い。タナトスの件で色々あった後というのもあって、ただ微笑ましい顔をしながらそれを眺めてやるだけで、勘弁してやる事にした。







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