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外伝 黒曜と黎明 3



 黒曜君が言うに、窓から侵入して寝ているところを連れ去った、ということらしい。まぁ、五歳の子が一人で窓から出て行くとは確かに思えない。夜の出来事だしね。

 じゃあ次に問題になるのが、連れ去る目的だ。金目的の誘拐なら、早々に連絡が来てもおかしくない。なのに三日も経っているのに連絡がないのはなぜだろうか。

 黒曜君が何か考えているけど、思いついたのか黙って部屋から出ていく。僕に何か一言でもかけてくれたらいいのに、慌ててあとを追いかけた。


「ちょっと、どこいくの?」


「ギルドに戻る」


「え、なんで?」


 しかし彼は答えてくれなかった。僕は娘さんのお父さんに挨拶をしてその豪邸をでた黒曜君を必死に追った。


「待ってって! なんで戻るの?」


「……狼は、洞窟を占領したりしない」


 突然なんの話かと思えば、他の依頼の話だ。黒曜君が言うに、凶暴化した狼が集団で洞窟を占領したりしないってことが言いたいみたい。そもそも狼は集団を組むとしても多くて十匹程度らしい。それならすぐに片付く依頼だというのに、長く依頼が出されている。意図的に誰かが、狼を操っているということが言いたいらしい。


「近づいて欲しくない。ってこと?」


 近づいて欲しくないってことは、悪いことをしている、ってことだよね。僕はそこまで聞いて理解できた。


「見に行くの? ならギルドに戻らなくても、僕は場所知っているよ」


 その言葉で、黒曜君は足を止めた。見た目より歩く早さがあるから、追いつくの大変だったんだよね。


「案内しようか? あ……黒曜君何にも持ってないね。まるごし……?」


 格闘家、には正直見えない。華奢すぎるから。でも、剣とか槍とかも持ってないし。


「拾うから」


「拾うって、狼が占領してる洞窟に剣も槍も落ちてないと思うな」


「……」


 え、僕のを拾うつもりだったのかな? いや、あげないけど。


「えーっと、あ。通り道に、僕達が荷物とか置いてる酒場があるから、寄ってくれるなら貸してあげるよ」


 剣も持ってないし、ひょろがりだし。本当に大丈夫かな。心配になるけど、僕はとりあえずいつもねじろにしてる酒場に黒曜君を案内した。もちろん今の時間、お店はやってないけど。自由に入れる。

 裏の倉庫に入って、適当に剣を拾って彼に渡した。投げたそれを黒曜君は軽々と受け取る。


「いつも仲間たちとここで飲んでるんだけどね。あ、仲間はみんなちょっと地元に帰ってて。お祭りやってるからね」


「ギルバートは帰らなかったのか?」


 質問してくるなんて思ってなかった。少し心を開いてくれたのかな? と僕は嬉しくなった。


「あー、うん。えっと、僕は家族みんな死んでるから。みんなお祭りで家族と楽しくするだろうけど。ちょっとね……」


 もう一人っきりになったのはだいぶと昔だし。言ったところで傷ついたりもしない。なんか昔の話を懐かしんでするぐらいの気持ちだったんだけどね。


「そうか……」


 あれ、僕より黒曜君が傷ついた顔してるのはなんでだろう。聞いたらまずかったなとか、思ってるのかな。


「それにしても、剣も持たないし。もしかして、素人? 腕に自信がないなら、全部僕がやってあげようか?」


 こう見えても僕は古参なんだよね。腕にも自信があるし。新人にお兄さんぶってみるのは、ありだよね。ちょっと腰に手を当てて、ふふんってしてみたんだけど。黒曜君を見たら笑ってたんだよね。

 僕はこの笑い方知ってる。これはね、自分の腕に自信がある人の笑い方だよ。




 僕が案内したのは、コンゴッソの北側にある山だ。歩いて行ける距離にある。コンゴッソの地域は土地が痩せているのもあって、森になってるところが少ないけど、この辺は生い茂ってるから、野獣とか魔物とかたくさんいるんだよね。

 

 慎重に進むと、例の洞窟の入り口が見えた。これ以上近づいたらいけないだろうな、というギリギリのところで止まる。いや、確かに占領って言うぐらいいるよ。ざっと三十匹以上はいてる。もちろん、外から見る限りは、だけどね。


「おう、ギルバートじゃねぇか!」


 後ろから声をかけてきたのは、ジラルドだった。相変わらずの巨体にすごい筋肉だ。彼が得意とする武器は斧で、見るからに重そうなそれを持ってる。後ろには数人、ジラルドの仲間がいた。


「この仕事を受けたのは俺様達のはずだが、お前どうした。しかもなんだ、そのヒョロガリは。お前の新しい仲間か?」


「うんまぁ、成り行きで? 今回一緒に行動してるんだ。黒曜君って言うんだけど」


 ちらっと黒曜君を見た。挨拶するかなーって思って見てたけど、完全無視を決め込んでて、あーーどうしようか。なんて思ってたら、やっぱりジラルドから絡み行ったよ。


「おいヒョロガリ、見ねぇ顔だな、新参か? そんなんで狼にすぐ食われちまうぞ」


 しかし話しかけられてもジラルドをちらっと見るだけで、全く答える気がない黒曜君。雰囲気が悪くなってきて、僕の方が慌てるよ。


「おいこら! テメェしゃべれねぇのか!」


「ジラルド、黒曜君は人見知りなんだよ。僕もあんまり口聞いてくれなくて」


 変なフォロー入れたけど、ここでジラルドがヒートアップしていっても困るし。抑えてもらうしかない。











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