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33.魂の邂逅





 輪廻に戻っていく魂の輝きが見える。二人は寄り添いながらそれを見上げていた。シセルズが彼に謝っていた事を伝えると、苦笑いで「兄さんらしい」と答える。その姿に目を細めて、スノウは彼の腕にぴたりと体を寄せた。


 いつまでも、この黄昏を生きていけたらいいのに。

 いつまでも、寄り添っていけたらいいのに。




 二人は指を絡めあい、何度か自然と口づけを交わす。ぽつりぽつりと、思い出話に花を咲かせた。

 ふんわりと優しく微笑む、太陽のような笑顔。

 遠慮がちに薄く笑いながら、視線を下に落としている姿。


 しかしいつまでも留まる事は許されない。


 灯火が揺らめく、その向こう側へ。


「必ず、また会える」


「はい。わたしはまたあなたを、好きになります」


 何度でも、もう一度あなたを。

























「おいヴェスペル! 今日はあの鬼教官の日だぞ!」


 黒髪の少年の背を遠慮なく叩くのは、彼の親友のフェオだ。二人は新米兵士で、同じ兵舎のルームメイトだった。


「あの人けっこういい年齢なのに、まじでおっかねぇ」


「なんだっけ。もう滅んだ国の人、なんだよね」


「ああそう、それ。白き大地とかいう。ほんと見た事もない色してるもんな、髪とかやべー」


 フェオは自身の栗色の髪をひっぱって見せる。ヴェスペルもまた、自身の黒髪に触れてみた。まったく違う、異質の銀髪なのだ。最初見た時は驚いたが、今はもう慣れた。


「急ごう。怒られるから」


 そういって走っていくフェオを追いかけ、二人は訓練場を訪れる。すでに何人もの新米兵士が各々に素振りをしたり準備運動をして待機していた。その真ん中に、白髪とは違う異色の輝きを放った美しい髪をした初老の男性が静かに立っている。左目を眼帯で隠し、見えている右目もまた他とは違う銀の瞳だ。


「おはようございます! シセルズさん!」


 フェオがシセルズの前でしっかり敬礼して挨拶をする。どうしてだかわからないが、ヴェスペルは少しこの人が苦手だった。


「おはよう。二人、遅刻じゃないか」


「違います! ギリセーフっす! なぁヴェスペル」


「え、あ……はい。すみません。その……遅れて」


「遅れてねぇ! ギリセーフだって」


「ああ、えっと。うん」


 目じりの皺をさらに深くして、シセルズは微笑んだ。ぽんぽんっとヴェスペルの頭をなでるように叩く。


「ちゃんと目を見て話しなさい」


「はい、すみません」


 毎回こうして諭される。自分たちとは違う異質な目の色が怖いから。なんていう適当な理由をフェオには言ってごまかしているが、なんだか全てを見透かされたような気持ちになるというのが正解だった。


 訓練中、ヴェスペルは軽い怪我を負った。一人抜けて、シセルズから応急処置を受ける。しかしその姿を真っすぐ見れなかった。


「とりあえず、これで大丈夫」


「ありがとうございます」


 低い声がむず痒い。


「どうしていつもそう、あれだ。遠慮する?」


「いえ……その、怖くて」


「怖くない。俺なんてまったく、全然だ」


「そんな事ありません。シセルズさんはアリスアイレス王国で一番強いじゃないですか」


 そう言うと、シセルズは笑った。


「俺は二番だよ。一番は、俺の弟」


 弟がいたなんて知らなくて、ヴェスペルはやっとシセルズの顔を見る。時間を重ね刻まれた皺。しかしどこか異質に整った顔だちだ。


「お前は、ちょっと似てるかもな。あいつに」


 再びぽんぽんと頭を撫でられる。ヴェスペルはむず痒くて体を揺らした。




 訓練を終え、フェオに昼飯を誘われるもヴェスペルは断った。今日はなんだか胸が騒めく。シセルズとたくさん話したからなのかもしれない。彼はそのままパンを片手にお気に入りの場所に向かった。

 世界樹のほとり。腰ぐらいの高さの柵を乗り越えて、一目につかないようにこっそりと根に上る。巨大な木のその入り組んだくぼみに土がたまり、白いフォスフィリアの花が咲いている場所があるのだ。小さなその箱庭は、ちょうど伸びた枝に遮られてまわりと空間が遮断されたかのよう。

 枝をおしのけその場所に向かう。誰もいないはずのそこに、今日は先約がいた。燃えるような真っ赤な髪と同じ色の目をした少女だ。一目見て、ヴェスペルはそれが誰だか理解した。


「あっ……」


 声を上げると少女が振り返る。赤毛は王族の証。


「あの、ごめんなさい!」


 フォスフィリアの花を手に少女は慌てて立ち上がった。同時に自身のドレスに躓く。倒れる彼女をヴェスペルは受け止めようと手を伸ばした。押し倒される形で尻もちをつく。


「大丈夫ですか!」


「はい、あの……ごめんなさい、わたくし……えっと」


 少女がヴェスペルの腕をつかむと、ちょうど怪我をした箇所だった。痛みの声を上げると、少女が驚いてその袖をたくし上げる。包帯にうっすらと血がにじんでいた。


「怪我をされているのですね」


 大丈夫ですと言う間もなく、少女が再び彼のその傷口に手を添える。


「我、癒しの神エイルの寵愛(ちょうあい)を受けし子、今ここに穢れを癒す力を我に。我らはみな、世界の中心」


 少女が言葉を綴ると、世界樹から放たれるマナが可視化されその手に集まりはじけた。痛みが消え、ヴェスペルは慌てて包帯をとるも傷口がない。

 アリスアイレス王の末娘である彼女は、産まれた時から癒しの力が使えた。アリスアイレス王家始まって以来の出来事で、悪用を恐れたカイウスがその力を口外しないようにしたのだ。彼女の能力を知るのはごく一部。


「内緒でお願いしますね」


 人差し指を口元にあててにこりと笑う。柔らかな微笑みが太陽のようにあたたかい。


「ありがとうございます」


 ヴェスペルは驚きながらも少女から目を離せなかった。


「わたくしはアリスアイレス王国王女、フィレイ・アリスアイレスです」


「ヴェスペル……ロータニアです」


 名乗ってから慌てて敬礼をすると、彼女はまた笑った。

 ヴェスペルはその笑顔に強い懐かしさを感じる。初めて会ったはずなのに、ずっと心の奥底に存在していたかのようだ。


「なんだか、わたくし……ヴェスペルとは、ずっと……なんといえばいいのでしょうか。あの……」


「俺も、その……同じ事を」


 そういうと、彼女はまた柔らかく微笑む。くせ毛なのか赤髪はくるくると自然なウェーブかついていた。


「よかった……あの、また……ここで」


「え、っと……はい」


 一陣の風が通り、髪を押さえて二人は空を見上げる。雲で隠れていた太陽が姿を見せると、世界樹の木漏れ日が二人を照らした。

 





 






end

















この後、いつもの長いあとがき。


この度は『終焉の果てに、白銀の灯火を』 綴る章 を読んでいただき、心より感謝申し上げます。


マルチエンディングの両方をついに完結に持ってくることができました。


綴る章で最後に登場するヴェスペルとフィレイの話を書くかどうか永遠に悩んでいます。今のところ何も思いつかないので、いつか書けたらいいなという感じです。その際はおそらく新規連載になるかなと思います。



本当に長い間、お付き合いくださりありがとうございました。


もしよろしければ、評価、いいね、ご感想、レビュー、ファンアートなど頂けましたら泣いて喜びます。





この後、イラストの詰め合わせをもって完結設定にさせて頂きたいと思っています。


秘める章のセフィライズとスノウの続きを書きたいと思ってはいるのですが、R18設定ができるムーンライトで新規連載するか、ここで続きを書いてそのシーンだけムーンライトに行くか、そもそもそういうシーンを書かないか。新規連載にするのか。というところで止まっています。

しばらくゆっくり休んで、またいつかどこかで二人の続きを書き始める時がきたら、ぜひよろしくお願い致します。





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