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32.灯火の源へ 愛してる



 ウィリがいなくなったのにスノウは驚き周囲を見渡した。彼女の名前を何度か呼ぶも反応がない。


「スノウ……?」


 セフィライズはまだはっきりとしない視界に、彼女がいる事に驚いた。すぐにスノウが彼の手を取る。ゆっくりと体を起こし、何度か息を丁寧に吸い込んだ。


「……どう、して。君は、本物?」


 まさか魂が枝に変わりゆき、遂に幻覚を見せていると思った。ここは魂しか来ることができな場所だ。


「はい、会いに、きました」


 そういって、スノウは感極まってセフィライズに飛びついた。受け止めきれなかったのか再び芝生の上に倒れる彼の上に覆いかぶさって抱きしめる。嬉しくて涙が溢れた。


「まっ……て……会いに、きたとは……どういう」


 最後に見た時と違い、スノウの髪は長くなっている。顔も大人びたようだ。再び会えた事の喜びより戸惑いのほうが強く、抱きつく彼女の肩を押した。


「ここに、来るって……」


「最後に、言ってくださった言葉の意味を、どうしてももう一度聞きたかったから……だから、来ました」


 セフィライズは体を再び起こした。目の前で座りなおした彼女に、驚きを隠せない。本当にスノウ本人だとしたら、この場所に来るにはどうすればいいかなんて、セフィライズにはすぐに理解できてしまう事だからだ。


「君は、死んだ、のか……?」


 器がある状態では来れない。現世で生命としての()を迎えない限り、魂がここにやってくる事はない。


「違います。会いに来たんです」


 自らの意思で会いにきた。それは、自らの意思で死を選んだというのと同じ意味だ。セフィライズは酷く傷ついた表情を浮かべた。最後に彼女へ必要のない事を伝えてしまった。だから彼女はここまで来たのだ。そう思うと、なんてことをしてしまったんだろう。


「セフィライズさん、わたしが自分で来たのです。そんな顔を、しないで」


「続く世界を、君に……そう、思ったのに」


 彼女に生きてほしかったから。でも結局、いまスノウは目の前にいる。


「……セフィライズさんのくださった、続く世界はとても……キレイでした。皆さんが生き生きしてて、明るくて。すごく、素敵でした」


「なら、どうして」


「その世界には一つだけ、わたしにとって必要なものが、なかったからです」


 スノウはゆっくり、眉間にしわをよせながら何かに耐えている彼の手を取った。色白のその、大きな手を。


「わたしは……ずっと、あなたを……今も深く、愛しています」


 彼のいない世界は、モノクロのようだった。どこを見ても思い出されるのに、どこに行っても会う事はできない。楽しい出来事も、悲しい出来事も、なんだか他人事のように遠のいていく。そしてぽっかり空いた胸は、いつまでたっても満たされない。

 本当に大切なのは、生きていく事じゃない。スノウにとって本当に大切なのは、心から想う人の幸せを支える事だ。それがセフィライズだった。人として会えないのなら、魂になって会えばいい。無垢の枝になってしまう彼を助けて、そしてもう一度その幸せを支えたいと願う。


 再会できた喜びから満面の笑みを浮かべているスノウ。

 セフィライズは手を伸ばした。今度は彼からスノウを抱きしめる。耳元でごめんとつぶやくと、スノウは笑った。


「ごめんより、ありがとうのほうが、わたしは好きです」


 スノウから抱きしめ返され、震える手をスノウの頭に添える。


「ありがとう」


 そうつぶやくと、その瞬間涙が溢れた。本当は会いたかった。本当は一緒にいたかった。いまそれを、セフィライズが全身で抱きしめている。

 愛しいという感情が胸の中で溢れて、腕に力がこもった。


「俺も……君を、愛してる」


「ほんとう、ですか?」


 スノウは強く抱きしめるセフィライズの胸を押した。そして彼の顔を見上げる。


「ほんとうに、その言葉は、ほんとうのほんとうですか?」


「え……そう、だけど」


「ならお願いします、もう一度お願いします!」


 そう言われるとなんだが恥ずかしくて、セフィライズは小さな声で繰り返した。しかしスノウが再び、本当ですか? と聞くものだから、さらに恥ずかしくて仕方ない。


「本当、だから……」


「わ、わたし……セフィライズさんは、お優しいから……だからその……合わせてくださってるのではないかと、その……」


 嬉しいはずなのに、素直に受け止められない。心は大喜びなのに、胸の中では戸惑っている。自分なんかでいいのだろうか。許されるのだろうか。


 セフィライズは両手を胸元に集めて下を向くスノウの頬に手を添えた。顔を上げた彼女の唇に、優しく重ねる。柔らかくてあたたかい。


「俺の幸せは、君の幸せだよ。ありがとうスノウ。愛してる」


 そしてもう一度、二人は深く口づけた。







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