表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

375/384

26.灯火の源へ 答えを探す


「成功しようがしまいが、俺は興味ない。でもな、それは最大の禁忌だ。どれだけマナが穢れると思ってる。穢れたマナは瘴気となって世界樹を蝕む。どういう結末か、お前ならわかるだろ」


 穢れは世界樹を枯らす原因となるものだ。人の心を蝕み、大地を汚染し、不死者を生み出す。


「やっと世界樹が芽吹いた。またそれを枯らしたいのか」


「世界樹が枯れるとか枯れないとか、そんなものは興味ない」


「お前がなくても!」


 テミュリエは思わずシセルズに掴みかかりそうになった。スノウがすぐに彼の腕を掴む。はぁと短く息を吐き、彼女の顔を一目みて座りなおした。


「シセルズさん……世界樹は、セフィライズさんが残したかった、未来だと思うのです」


 彼が続けたいと思った世界。見たかった未来そのもの。


「それを、脅かすような事は……わたしは、してほしくありません」


 世界樹の存在さえもなくなったら、もはや彼はなんの為に。そう思うとスノウは胸が痛かった。


「辛い気持ち、とてもよくわかります。でも……もう少し、考えてください。もう少し……セフィライズさんの想いを、尊重して、ほしいのです」


 スノウの言葉に、シセルズは目を見開いた。

 そうだ、今も昔も、何も変わらない。セフィライズの為なんていう言葉で着飾って、結局は。


 わかっていた。ずっと。言われなくても心の奥底で、全て理解していた。これはシセルズ自身のわがままであり、身勝手な行動だという事も。

 成し遂げられなかった後悔。生き残ってしまった苦しみ。それらから逃げたい。何かをすることで免罪符にしたい。


 わかっていた。わかって、いたのに。


「ハハ……全部……俺の……」


 乾いた笑いが出た。何かにとり憑かれていたようだ。ソファーの背もたれに体重をあずけ、天井を仰ぐ。


「……いつも、なーんにも見えてねぇのは……俺もか、なぁセフィ。そうだろ……」


 ――――周りを見ろって、あいつに何度も言ったけど。それは、俺にも言えた事だったんだなって


 なんだったのだろう。本当に、どうにかしないと。なんとかしてやらないと。その焦りがずっと心臓に張り付いて離れなかった。


 しばらく天井を仰いだまま動かないシセルズを、スノウは黙って待った。彼女の手元にある無垢の枝を見つめながら思う。彼はきっと、兄にこんな事をしてほしいとは思ってない。

 続いた世界。この未来をきっと、幸せに生きてほしいと願うはずなのだ。


「髪、すごい伸びたな」


 シセルズがぽつりと呟いて、スノウは自然と髪に触れた。あれからずっと伸ばしている。だからこの長さを、シセルズは知っているはずなのだ。きっと今、やっとスノウを真っすぐに、見る事ができたのだろう。


「見たかっただろうな……スノウちゃんの、その」


 長く伸ばした髪。スノウはなんだか恥ずかしくなって、うねる金髪を撫でつけた。


「燐光の、谷で……えっと……」


 会った、と言えるのだろうか。スノウは戸惑った。思い出すとまた、会いたい。伝えたい言葉がたくさんある。わたしのせいでごめんなさいと謝って、その後にしたい話がまだたくさん、たくさん。


「枝だけ、掴んだわけじゃないんだろ」


 シセルズは彼女の持つ枝を指差した。


「いいえ……枝だけ、掴みました。本当に、その……一瞬、だけでした」


「……会いたい?」


 スノウは顔をあげた。目の前には優しく微笑んでいるシセルズがいる。その目じりがとても彼に似ていて胸が詰まった。


「あ……」


 会いたい。声に出してはいけない。


 会いたい。絶対に、口から出してはいけない。


 会いたい。


 でも……。



 スノウは口元を押さえた。目の前にいるシセルズが、ふとした瞬間彼に見える。それぐらい彼らは似ている。


「会いたい?」


 もう一度問われ、視界がゆがむ。気が付けば涙がいっぱいに溜まって、目じりから流れ落ちた。


「……会いたい。会いたい、です」


 膝を抱えて泣き出す彼女の隣で、テミュリエは複雑な表情を浮かべる。スノウの背をさすりながら、シセルズを睨みつけた。思い出させるな、会いたいと言わせるな。そう念力を送り付けるかのように。


「ちょっと、スノウちゃん借りる」


 シセルズは王の写本(トリスメギストス)を片手に立ち上がった。スノウの肩を軽く叩き、外に行くように合図する。彼は先にログハウスから出た。

 テミュリエは王の写本(トリスメギストス)を使って何をするか、容易に想像できた。そして、二人の間でどんな話が行われるかもだ。


 去っていく彼女を止めたい。テミュリエは振り返って手を伸ばす。しかしもう、彼女はいなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ