15.灯火の源へ 友達
声のする方へ振り返ると、テミュリエの知らない女性が立っていた。黄色味の強い大きな瞳に、褐色の肌。露出の多い服から垣間見える体は全て美しく鍛え上げられた筋肉に飾られている。
「ナツネさん?」
「わー! やっぱりスノウじゃん! 生きてた!」
晴れ渡った空のように明るい笑顔を浮かべ、彼らの前に立つヤタ族の女性。スノウは再開を喜ぶのもつかの間、あの後どうなったのかと、ナツネの腕を掴んで食い気味に質問した。
「あ、ああ。あれね」
セフィライズがヨルムの祭壇を見に行き、ナツネ達と一緒に洞穴の中で待っていた。突然ネブラが入ってきて交戦状態となり彼女たちと引きはがされて捕まってしまったその時の事。
「大丈夫。死人はなかったよ。大けがは何人かいたけどね。スノウが無事でほんとによかったよ」
あの後何があった? なんて色々聞かれるものだから、スノウも口早に説明する。それにうなずくナツネは、落ち着いてから近くに立ったままのテミュリエを見た。
「あ、ごめんね。ちょっと久々の再開で、テンション上がっちゃった」
そう声をかけたあと、周囲を見渡したナツネから、スノウにとっては二度目の質問を受ける。
「セフィライズはどうしたの? 一緒じゃないんだ」
ナツネの顔をまっすぐと見上げたスノウは、一瞬止まった。しかし後ろでテミュリエが声を発するよりも早く、スノウが答える。
「はい。あの……お亡くなりに、なりました」
ギルバートから同じ質問を受けた時、スノウは最初答えられなかった。いや、答えたくなかった。自身の口からはっきりと、その言葉を発したくなかったのだ。
しかし、はっきりとナツネの目を見てスノウは答えた。
「え?」
衝撃のあまりナツネのほうが固まってしまった。息を飲んだ後、そっか……とだけ小さく呟くと、胸に手を当て目を閉じる。スノウはしばらく彼女の沈黙を見守っていた。
「今日、どこ泊まるか決まってんの?」
目を開けたナツネは空気をいっぱい吸い込んで、最初に見せた時と変わらない笑顔をスノウに向けた。
「あ、えっと。まだです」
「じゃあさ、あたしらのとこ来なよ! 街はなんか、雰囲気があれだろ?」
テミュリエを見たナツネは「いいだろ?」と声をかける。スノウの表情をちらちらと確認しながら、そっけない態度で頷いた。
ナツネに連れられて向かったのは、以前の洞穴かと思いきや違った。街を出て北へしばらく行ったところに小さな集落を作っていたのだ。以前と同じく男性ばかりが目立つが、女性の姿もちらほらと見てとれた。どうやら別のところで暮らしていたヤタ族とも合流し、新たな生活をはじめたらしい。
出迎えてくれる小さな子供たちに挨拶をしながら集落の中心付近まで向かう。最初、ナツネが子供たちに対して「みんなあたしの子供だよ!」なんて言うものだから、スノウはとても驚いた。
しかし、以前ヤタ族は一夫多妻制で、一族の子供はみんなの子供。という話をしていた事を思いだす。
どうやらこの集落を取り仕切っているのはナツネらしい。通りすがる他のヤタ族から「族長!」と声をかけられ、挨拶に応じている。
「ヤタ族は一番強い奴が一番偉いからね」
えへへ、と照れ笑いを浮かべるナツネはいたって普通の女性なのだが、この集落の誰よりも強い。
ナツネは一人のヤタ族の男性に声をかける。屈強な体つきと面構えのその男性は、ナツネより一回り以上だというのに、彼女に対して腰を低くして頭を下げた。ナツネが何か耳元でささやくと、覇気のある声で返事をしている。
すぐにどこかへ行ってしまう男性を見送って、彼らは夕暮れまでの時間をナツネの家で過ごした。
日が沈むと外が騒がしくなりはじめる。巨大な焚火を取り囲み、自然と物を叩く音が旋律になり人々が手をつないで踊り始めていた。スノウ達もとナツネに呼ばれ外に出ると、敷物の上に座る人たちが食べ物を配っている。それを受け取り、焚火を眺めながら座った。
「毎晩こんな感じなのですか?」
「んや、今日はほら。悼み火ってやつ」
ヤタ族は死者を弔う時、大きな焚火を囲み夜通し踊り騒ぐという。誰かお亡くなりになったのですか? とスノウが聞くと、ナツネはおかしそうに笑った。
「なんで? スノウが言ったんじゃん。あたし、好きだったんだー」
なんの話だろうかとスノウは思った。隣で焚火を眺めるナツネは憂いを帯びている。
「スノウは言ったの? 好きだって」
「え、ええっと。え?」
その話の主語が誰なのか、スノウよりも先にテミュリエが気が付いた。そわそわしだしたテミュリエを見て、ナツネが笑う。




