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6.灯火の源へ 祈り




 翌日、スノウは暖炉の前で目を覚ました。昨晩はテミュリエと共にログハウスに戻り、彼に二階の部屋を案内したあと、崩れるように眠った事を思いだす。少し体がきしんだ。

 朝は肌寒く、くしゃみをしてから起き上がる。昨日見た世界樹の根に囚われたセフィライズと、神器を奪って姿をくらませたシセルズの事を考えながら。


 白き大地に行けば、すべてわかる。あれはただの幻で、スノウ自身が見たかった妄想に過ぎない。

 いまだ立ち止まっている。あの時からずっと、スノウの時間は止まったままだった。片づけられないでいる気持ちを。大切にしまってたまに取り出して、懐かしんで眺める宝石に変えるのだ。


 これは、スノウの心の痕跡に、お別れをしていく旅。








 最初の目的はコカリコの街だ。そこからコンゴッソを経由し南へ下り、森を抜けて南西の山脈を超えた先に、白き大地はある。

 スノウとテミュリエは数日かけて南西の街道を進んだ。白銀の世界だったはずのその道は緑あふれる平原に変わっている。その世界を、まだ慣れないと感じるのは何故だろうと彼女は思った。寒く無くて歩きやすい、靴が濡れる事もない。だというのに、あの雪がとても恋しく感じるのだ。


 五年ぶりに見るコカリコの街は、完全に復興が終わっていた。以前よりも立派な建物が並び、通りは整備されている。今日はここで泊まることになり、スノウは率先してギルバートの宿を案内した。新しい街並みに迷ってしまいながらたどり着いたその宿は、あの時と変わらない。見上げるとバルコニーが見えた。二つ並ぶそれ。そこで。


「スノウ?」


 テミュリエはバルコニーを見上げたまま固まってしまったスノウの顔を覗き込んだ。


「ごめんなさい。ここです。行きましょう」


 首を振り、スノウが宿に入ろうと歩き出した時だった。宿屋の扉が激しい音をたててひらき、二人の女の子が笑い声をあげながら飛び出してきた。


「こら! ソーニャ、ティアナ!」


 その小さな二人の女の子は、目の前にいるスノウにぶつかった。それを追いかけてきたのはギルバートだ。


「おっと、スノウさん!」


「やだー、パパ怖いー!」


「ねー!」


「ぱ、パパ?」


 スノウは足元にまとわりついて笑っている灰茶色の髪の女の子を見て、もう一度ギルバートを見た。この小さな子二人に、パパと呼ばれたのま紛れもなくギルバートだ。


「あーえっと、僕の子なんだ。それにしてもスノウさん久しぶり!」


「ねぇねぇパパの知り合い?」


「うちに泊まる? 泊まるのおねえちゃん!」


 スノウの両手を女の子達が嬉しそうにひく。二人は見分けがつかない程そっくりだった。同じぐらいの背丈、服装も似ている。スノウが戸惑って何も答えない間に、次々と質問を投げかけてきた。


「こら、お姉ちゃん困ってるだろ。うちに戻って、お母さんところに行っといで」


「「はーい!」」


 クスクス笑う、ソーニャとティアナは双子だった。仲良く手をつなぎながら、宿屋に戻っていくのを見送って、ギルバートは頭をかきながらため息をついた。


「び、びっくりしました。お子さんが……あの時、その、妊娠されていた時の」


 セフィライズとギルバートの宿に泊まった時、奥さんのオリビアは妊娠していた。次に会うときは、家族が増えている。その言葉を思い出し、スノウは目を細めて喜んだ。本当に、月日が流れた事を実感して、同時にとても切ない気持ちになった。

 まだ、スノウ自身立ち止まっている。それを実感してしまったのだ。


「そうそう、双子だったんだ。その後もう一人生まれて、つい先日もう一人。ちょっと驚くよね」


 ギルバートは元々天涯孤独の身だった。自由気ままでいいと、本人は気にも留めていなかったつもりだったが、実際は寂しかったのかもしれない。冒険者をやっていた頃の仲間たちはみんな家族がいた。定期的に実家に帰ったりしている姿を見て、いつかは自分にもと淡い希望を持っていたのは事実だ。


「でもあと三人ぐらいほしいよ」


 ギルバートは照れ笑いを浮かべる。スノウの隣に立つ見慣れない青年、テミュリエを見て頭を下げた。


「えっと、初めましてかな? 僕はギルバート。スノウさんとはえっと……旧知の仲かな?」


「初めまして。俺はテミュリエ。ハーフエルフです」


 はっきりと髪の隙間から覗く尖った耳を見られていたのに気が付いていたテミュリエは、臆せずに述べた。ハーフエルフは忌み嫌われている呪われた人種だ。だいたいはエルフと嘘をつく。


「そうなんだ、よろしく!」


 テミュリエは正直、ギルバートが嫌悪を示すと思ったのだ。しかし種族を珍しがっただけで、満面の笑みで握手を求められてテミュリエのほうが戸惑った。


「お、俺はハーフエルフで……」


「聞いたよ。色々旅をしたけど、ハーフエルフと会うのは初めてなんだ。何か面白い話があったら聞かせてよ」


 臆する事も、嫌悪を示す事も、怖がる事もしない。なんの偏見も差別意識もないギルバートの手を、テミュリエは困った顔をしながら握り返した。













 

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