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外伝 兄の憂鬱 7



 ああこれで全部丸く収まった。弟はスノウちゃんと仲良くできているし。幸せそうで何よりだ。だからもう、何も心配することはない。こうやって、二人の恋愛事情に口を出すことも、もうない。ああよかったよかった。




 そう言って、安心したのはもう数ヶ月前の話だ。そして今、なぜかシセルズの前に、スノウが座っている。一緒にランチを食べて、ソワソワした表情の、どこかで見たことのある彼女がいる。


「どったの……」


 いやもう流石にないだろう。二人の関係は順調だろう。俺にできることはもうない。シセルズはそう思いながらため息をついた。


「あ、あの……あの、シセルズさん……」


「なぁに?」


 もう半分諦めた顔でスノウを見た。これは絶対、何かセフィライズの事での相談にきまっている。どうして弟カップルにここまで振り回されないといけないのかわからない。聞いてもないがどう考えてもまた、苦労する話だなと思った。


「……シ、シセルズさん、は……! き、き……」


「木?」


「き、キスをいつされましたか!」


「っ、あーーー……」


 察しがついてしまった。もうつまりそれはそういう事だ。そういう事なんだ。

 シセルズは深いため息が出た。ああこれで全部終わった、よかったよかった。そう思ったあの頃に戻りたい。


「俺、結構早かったから。十三とかだよ。って、そういう事が聞きたいんじゃないよね?」


「そう、そうな、ん……です……その、そのその。いつ、その……」


 いつどのタイミングで、どうやってキスをするのか。ということだろう。思い返せばこの二人が付き合い始めてもう半年以上たつ。前半はデートすらしていなかったが、後半からはよく一緒にいるようだったし、順調だろうと油断した。普通に、付き合っていたらキスぐらい。いや、その先だってもう終わっていてもおかしくない。


「そうねぇ、こう二人っきりでいい雰囲気になってさ、それで自然とするもんなんじゃないの?」


「いい雰囲気、ですか……」


「そうそう。普通にこう、ちゅって……すげぇ簡単だから」


「簡単……」


 真剣な表情のスノウが下を向いている。シセルズはニヤリと笑って手を伸ばした。彼女の顎を掴み、顔を上に向かせる。


「そう、例えばこうやって……」


 そう言って顔を近づけた。スノウの唇に自身の唇を近づける。

 彼女は驚いて怖くなり目を閉じ身をすくめた。


「驚いた?」


 スノウの唇を奪う、その寸前で止めた。手をパッと離して笑う。スノウは顔を真っ赤にして手で覆い隠していた。


「まぁ、そんな感じよ」


 と言っても、だからスノウからキスをすればいい。というのは何だか違う気がした。そもそもこれはどちらを聞いているのだろうか。してほしいという事なのだろうか。それとも、自分からいくという事なのだろうか。


「スノウちゃんは、どうしてほしいの?」


「どうして……その……恋人同士ですから、いつかその、するものかなと思うのです。でも、どのくらいお付き合いしてからするのが、自然なのかなって。全然そういう、一切ないものですから。だからまだ、なのかなって」


「あぁ……」


 シセルズは腕を組んで天井を仰ぐ。ああ、いい作りの建物だなって。全然関係ない感想が頭をよぎった。そういえば同じ事を数ヶ月前に思った。全く同じ状況である。


 しかし、今回はなんとなくセフィライズの気持ちがわかった。キスはまだわかる。別にそれは、それぐらいはしてもいいだろう。しかしその先はどうだろうか。スノウの癒しの力は、穢れれば使えないのだ。つまり、男女の関係を迎えたら、その時点でスノウは能力を永遠に失う事になる。

 それは、大きすぎる代償だ。セフィライズが躊躇するのもわかる。もしかしたら一生手をだすつもりがないかもしれない。


「俺は気にしないけどさ……」


「はい?」


「いや、こっちの話ね。それで、スノウちゃんはあいつとしたいとか思うわけ?」


 もはやオブラートなんて言葉は皆無。直球に聞くとスノウは顔を真っ赤にして慌てた。


「あの、あのわたし、あのっ!」


「ああごめん。そうだよな」


 普通思うよな。そうだよな。って妙な納得をする。今回ばかりは俺に任せとけとはいえなかった。どうしたものかと再び天井を見る。


 スノウの能力の喪失を恐れているのか。それともそもそもそういうものと疎遠なのか。遠慮しているのか。全くわからない。ただ、欲がないわけではないだろう。初体験でもないし。


「あーーー……」


 何に巻き込まれてるんだ、俺は。と、シセルズはめまいがしそうだった。




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