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外伝 兄の憂鬱 4



 翌日、シセルズは頭痛で額に手を当てながら廊下を歩き、真っ直ぐにセフィライズのところへ向かった。スノウはおらず、どうしたのかと聞くと、直行で怪我人の対応に出たらしい。シセルズはちょうどいいと思った。


「どうよセフィ。昨日何か、感じなかったか?」


「何か? ……何を?」


「俺とスノウちゃんが出かけて、なんとも思わないのかってことよ」


「あぁ……」


 セフィライズが暗い顔をするものだから、何か感じるものがあったかと期待して覗き込む。しかしため息をつくだけ。


「行ってほしくないなーとか、思わなかったのかよ」


「……その、スノウが行きたいと、思ったのだったら。それを、行くなというのは、ちょっと……変じゃないかなって思うんだけど」


「んんッ?」


「だから、スノウは、自分で行きたいと言ったのだから。彼女が選ぶものを、俺がどうこう言う、事ではないというか……」


「い、いや? なぁセフィ……お前らって、付き合ってるん……だよな?」


 もしかして、俺の認識が間違っていたか? とシセルズは慌てた。あの時、ずっと一緒にいてほしいと言っていたのは、仕事としてずっとそばにいてほしいとかそういう、頭の悪い言葉だったのかと。


「付き合う……というのが、よくわからないんだけど。それは、どういう事をさすの?」


「おっとぉ……」


 どうしたものか。いや、わかっていた。こいつの心はところどころパーツのないパズルのような状態なのだ。一つ一つ確かに戻して、人間らしくなって、それでも確かに、未経験なのだからわからないのかもしれない。


「セフィは、スノウちゃんの事好きか?」


「それは、うん」


「愛してる?」


「どうして兄さんに言わないといけないの」


 恥ずかしそうに顔を背けたあたり、ちゃんと愛してるという事だろうと思う。なんだ、それなら前提条件はクリアーされているわけだ。


「じゃあ、ずっと一緒にいてほしいっていうのは、ちゃんとそういう意味なんだよな」


「そういうっていうのが、わからないけど。その……ずっと、そばにいてほしいとは、思ってる」


 不器用な奴だなと思うと可愛く見えて、シセルズは自然とセフィライズの頭に手を乗せていた。昔みたいに撫で回すと、やめろと言わんばかりに手を払われてしまう。


「なぁセフィ、思ってる事っていうのはさ。言葉に出さなきゃ伝わらないんだよ」


「知ってるよ」


「じゃあもうちょっと、なんかないか?」


「……何が?」


「何がって……」


 はぁ……と深めのため息をついき、シセルズは頭の後ろをかいた。どうも、直球であれをしろこれをしろ、というのは違う気がするのだ。言えばたぶん、セフィライズはその通り行動するだろう。でもそれは、やってはいけない事だ。

 自発的に、というのが一番のはずだ。その自発的、を促すのが難しい。


「まぁ……その……もう少し、スノウちゃんの事、ちゃんと見てやってほしいっていうか」


「……わかった」


 セフィライズが絶対にわかっていないだろう返事をした。でもたぶん、今はわからなくても少し時間がたてば、咀嚼して当人なりに理解するだろう。そうは思いつつシセルズは、もう一度ため息をついた。









 セフィライズと別れて廊下を歩いていると、ちょうど目の前から側近に囲まれたカイウスが歩いてくる。だるそうな声で挨拶をすると、取り巻きに睨みつけられてしまった。


「シセルズ、ちょうどよかった。一緒に来てほしい」


「え、俺ですか? セフィじゃなくて……」


 俺に用事とはなんだろう。そう思いながらカイウスについていく。ある一室に入ると同時に、彼は側近についてこないよう指示を出してシセルズだけを中に招いた。


「なんですか、人払いまでして」


「いやー……ほんっとに疲れたんだよ……だから」


「ああ、愚痴ですか」


 他の人の前では、アリスアイレス王国の指導者として振る舞わなければならない。妹のリシテアにも甘えられそうもない。気軽に愚痴れる相手は、シセルズとセフィライズぐらいしかいないのだが、セフィライズはあれだ。言われたことをしっかりやって過労で倒れるタイプだ。愚痴など通じない。


「だから少し抜け出したくてね」


「ダメですよ。夜なら付き合いますけど、まだ昼前ですからね」


「そうだよなぁ……本当に、公務も忙しいのだけれど世継ぎはまだかとうるさくて、夜ゆっくり寝てもいられない」


「いいですね、お盛んで」


「はぁあ……」


 そんな話を出されたら、シセルズはふとセフィライズの事を思い出してしまった。あいつをどーしたものかと思うと、カイウスと一緒にため息がでる。


「どうした?」


「いやもう、聞いてくださいよセフィライズの奴」


 愚痴ってやった。シセルズは思いっきり愚痴ってやった。ひと肌脱いで嫉妬を誘う作戦は失敗。そもそものスタートラインが狂っているのだ。どうしたものか、本当に。ただスノウをデートに誘って、それで普通に付き合ってくれればいいものを。

 その瞬間、バァン! と強い音と共に扉が開いた。二人はビクついてその音の方を見る。


「聞きましたわ!!!」


「うげッ!」


 そこには満面の笑みで腰に手を当てて胸を張っているリシテアが立っていた。ずかずかと入ってくるリシテアを、彼女の側近が慌てながらついてくる。


「聞きましたわよ、シセルズ!! わたくしが、このわたくしがひと肌脱ぐしかありませんわね!!」


「い、いや大丈夫ですリシテア様」


「いいえ! 全てわたくしにお任せなさい! 要するに、セフィライズとスノウがもっとイチャイチャすればいいのでしょう!?」


 完全にスイッチが入ってしまったリシテアに、カイウスはあーあと頭を抱えている。お手上げだという目でシセルズを見た。


「後は任せたよ。私は公務に戻らなければ……」


「逃げるんですかぁ!?」







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