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3.掴み取る未来 



 常闇の中。とても狭いようで、どこまでも広がっているような場所。足元はふんわりと輝き、淡い粒子が大樹の根のようなラインを形成しながら天高くその深い闇の中を上っていく。その美しいマナの流れの中で、セフィライズはゆっくりと目を開いた。

 しっかりと彼の手を握るスノウは、白く光放つセフィライズがだんだんとその姿をあらわにしていく様を見る。開いた彼の目と視線があった。


「よかった」


 いっそう強く掴まれた彼女の手が、小さく震えているのに気が付いた。セフィライズはそこに自身の手が見えることに、彼女の手の温かさを感じている事に、今ここに、存在していることに驚いて、まっすぐスノウを見つめる。


「いなくなって、しまわれるかと思って。ほんとうに……」


「どうして」


 どうして、体があるのか。どうして、スノウが目の前にいるのか。どうして、いま。

 スノウは戸惑うセフィライズに再び微笑みかけた。色白の肌、筋張った男性らしい手。それをより一層強く握った。


「セフィライズさんに手を伸ばす前、ものすごい数の枝が生え広がっていくのを見ました。それをかき分けて必死に、隙間があって、それで……」


 光の壁を切り裂き踏み込んだ瞬間。スノウは大樹が成長する様を見た。すぐに目をあけていられない程の輝きを放ちだす。必死に前へと足を進め、その空間の中に裂け目があった。そしてその中に、セフィライズがいる気がしたのだ。

 迷わず手を伸ばした。今度こそ、絶対に。この人を光の中へ連れていくのだと。


「すごい光でした。エルフの森(ホルトゥラーヌス)で見たものと似ていました。全部マナでしょうか」


 少し興奮気味のスノウが、セフィライズの手を握っていない方を胸へあてる。戸惑う彼と視線が合うと、柔らかく微笑んで見せた。


「あの木も、とても大きくて……」


「あれは……」


 嘘をついていた。『世界の中心』について。本当は、新しい世界樹の種子だという事。白き大地の民の体がマナで作られている事も。芽吹かせようとすれば最後、器は分解されてしまう。

 もし彼女が知ればきっと、心に重りを抱えてしまうと思った。言えなかった。いや、知られたくなかった。

 一人で決めて、一人で、背負うつもりだった。


「ずっと、嘘をついて……ごめん」


 穢れたマナを蓄えた魔術の神イシズの器が完成した時。目の前で、世界中のマナを吸い上げ始めた時。これが最後のチャンスだと思った。

 スノウの癒しの力と、一角獣(ユニコーン)の角で、芽吹かせるだけのマナに足りえると。


 覚悟を、決めたのに。


 セフィライズはうつむきながらスノウに全てを話した。しばらく黙っていた彼女は、セフィライズの手を強く握りなおす。そして小さな笑い声をこぼした。


「知ってました……というのは、嘘です。でも、少しだけ、気が付いてましたよ」


 セフィライズが何か別の事を隠しているぐらい、わかっていた。しかしスノウは、わたしではダメなのだ。そう自分に言い聞かせていた。


「でも……一緒に生きて楽しかった。ありがとうって言われた時。これでもう二度と会えないって、思ったら。それはとても嫌で、ずっと……生きていてほしいって、一緒じゃ、なくてもいいから……後悔したくないって、思ったんです」


 お日様みたいな暖かな笑顔で、スノウはセフィライズの頬に手を伸ばす。うつむいていた彼が顔を上げた。


「やっと、全部聞けてよかった。ちょっと、遅かったですね。でも、間に合いましたよ」


「スノウ……」


「行きましょうか」


 彼が発する、好きな言葉だ。行こうか、と声をかけてくれる。


「今度はわたしが」


 わたしがあなたの手を引いて。必ず一緒に、光の中へ連れて行くんだ。



 スノウはセフィライズを引っ張りながら一歩踏み出す。その足先から白い光が零れ落ちるかのように広がって、彼ら二人を包んだ。












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