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20.華燭の典編 夜



 ギルバートからの挨拶が終わると、次第に食器やコップを楽器にした音楽が始まった。誰かが誰かと一緒に自然と机と椅子を移動させて、ある程度の広さを確保する。その音に合わせて手を叩きリズムを取り合いながら、酒を浴びるように飲んだ参加者が次第に踊り出した。陽気な笑い声と談笑が響くその場所が、他よりも一段と華やかで輝いて見える。

 スノウは今まで体験したことのない雰囲気に圧倒され、口を開けたままぼんやりと見ていた。周囲の輪から抜けるようにギルバートがやってきて手を振る。彼が自然と二人の前に座った。先程までオリビアと踊っていたからか、額に汗を滲ませている。


「結婚おめでとう」


 そうセフィライズが言うので、スノウも隣で慌てておめでとうございます、と頭を下げる。ギルバートが嬉しそうに笑いながらありがとう、と答えた。


「こういうの、初めてだった?」


 スノウがあまりにも目を見開いていたので、ギルバートがやや笑いながら聞く。


「あの、びっくりしました」


「こういう感じのところとか、飲みに行かないのかな?」


「はい、あの……」


 スノウは黙ってお酒を飲んでいたセフィライズの方へ視線をやった。


「あぁー、確かにセフィって、そういうの嫌いそうだもんね。行かないか」


「……騒がしいところはに、確かに行かない。人が多いところにも」


 この見た目では、というのが最大の理由なのだけれど。おそらく普段から、親しい人もいないし騒ぐのも趣味じゃない。休みの日は家に篭りがちだ。


「せっかくだから踊ってみたら? ほらほら!」


 ギルバートはセフィライズの腕を掴もうと手を伸ばしたが、察知されていたのかひらりとかわされた。すぐにスノウの方へと視線をかえる。


「行ってみよ!」


「ええっと、わたしですか?」


「ずっとその朴念仁と一緒じゃ、こういうのは体験できないよ。ほら!」


 セフィライズは愛想がないのはわかっているつもりだったが、こうはっきりと言われるとどう反応していいものかと思う。困った表情で連れていかれるスノウを見送って、適当についだ酒に口をつけた。そういえば、こういうものを飲み、酔う感覚は本当に久々だなと思う。


 陽気な音楽、酒で紅潮した頬で楽しそうに踊ったり、手を叩く人々。ギルバートに助けられながら、ダンスに興じている彼女は、次第に慣れてきたのかうまく体を動かし始めた。腕を高くあげ、別の人とも手を取り合い、楽しそうにしている。その姿は、セフィライズから見てとても光り輝いて見えた。

 眩しい。そう、自然と感じてしまった。彼女のいる場所は、どうしてこんなにも明るく見えるのだろう。目を細め、もう一度お酒を飲む。こうして楽しそうにしている彼女の世界が、永遠に続く事を想った。



 一通り踊ったスノウは、額から流れる汗を拭きながらセフィライズのところへ戻ってきた。頬を赤らめ、気分が高揚しているのか満面の笑み。


「楽しいですね! セフィライズさんも、一緒に」


「柄じゃないよ」


 見ているぐらいがちょうどいい。そう断ったがすぐにスノウの手が彼の腕を掴んだ。


「行きましょう!」


 いつもより少し強引さがある。彼女からふと、お酒の匂いがした気がした。


「スノウ、もしかして少し、飲んだ?」


「はい、あの……喉が渇いたので頂いたら、お酒でした」


 スノウはえへへ、と照れた笑いを浮かべる。だからかと思うほど、スノウはまた強くセフィライズの腕を引っ張った。


「ほら、行きましょう!」


「いや、柄じゃないから……」


 スノウの強引さに押され、ずるずると連れていかれる。盛大に酒に酔っているギルバートが、現れたセフィライズの肩に手を回した。


「やっとご登場ー! ほら、飲んで飲んで!」


 半ば無理矢理に酒瓶を渡され、半分以上残ったそれを飲むようにと急かされる。周囲も嬉しそうに手を叩き声を上げた。こんなにも人に囲まれて、こんなにも明るい雰囲気に出たことがなくて、戸惑うばかり。


「飲める方でしょ?」


「そんなには……」


 そう言った瞬間、ギルバートはもう一つ酒瓶をとり、そのまま口をつけてラッパ飲み。周りが盛り上がり手を叩く様を、彼は一歩引いて見ていた。


「僕がこれだけ飲めるのだから、セフィも行こう!」


 飲んで、飲んでと手拍子をされて、困惑した姿のセフィライズ。それを見てスノウはまた嬉しくて笑った。変わらない姿の彼だ。ついに根負けしたセフィライズがそのまま酒を飲むものだから、一瞬心配する。彼がどのくらい飲めるのか知らなくて、大丈夫だろうかと。


「結構飲めるじゃん!」


 彼はちゃんと飲み干したと酒瓶を下にして見せる。ギルバートから背を叩かれ、満面の笑みを見せられた。酒瓶を雑にテーブルの上に置くと、一瞬目眩がしてよろけそうになる。急激に体の中にまわる酒が脳内をふわふわとした感覚で支配した。思わず額に手を当てため息をつく。


「もうギブアップじゃないよね?」


「ギル、過剰摂取はよくない。中毒になる」


「この程度じゃ大丈夫だって!」




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