17.エルフの森編 薬草
次第にその光は薄れ、半透明に見えた彼の体が元通りになる。体内に見えていたその花は、その光が無くなると同時に見えなくなった。
「ん……」
『セフィライズさん……』
セフィライズは目を覚ますと心配そうな表情のスノウがいた。身体中からマナを吸い取られ、動く気力が湧かない。考える事も億劫なほど疲弊して、息をするのも辛い。
一人分では、足りなかった。王の写本は答えなかった。
「ごめん……」
犠牲を払えば答えはもらえるのだろうか。その方法が、あるのだろうか。自分以外の、おそらく白き大地の民を代価として支払う事で王の写本から情報を得れるのか。かつて、セフィライズの父が多くの白き大地の民を犠牲にして《世界の中心》を得たように。
しかし、誰かの犠牲が必要となればもう、彼女の意思に反する事だ。
「どうした? 大丈夫?」
テミュリエの声がしてスノウは振り返った。彼は扉のない入り口の縁に手を当て立っている。その隣にいたヘイムダルがゆっくりと歩みを進め、セフィライズのそすぐそばへ来た。荘厳たる白い角の先をセフィライズの体に触れさせるように首を下げる。
「王の写本に代価を払ったのですね。しかしあなた一人分では足りなかったようだ」
「なるほど、空っぽってわけだ。消えないだけましだろ」
まだ背の低い少年のテミュリエではセフィライズを持ち上げて移動するのは難しかった。スノウと一緒に起き上がらせ肩に手を回しベッドへ運ぶ。
なぜ彼が王の写本を使おうと思ったのか。それで何ができるのか。スノウは聞こうかと思ったが、伝えるのが難しく辛そうな雰囲気を察してやめた。
「原罪がどうなろうと俺は興味ないけど。薬でも煎じてやろうか。それなら少しは早く動けるようになるだろ」
『ぜひ、お願いします!』
嬉しい、ありがとう。そういった気持ちを伝えるために、スノウはテミュリエの手をとる。上下に動かして、嬉しそうに微笑んだ。
「ば、別に、そいつの為じゃないから。ヘイムダルが心配そうだから!」
スノウはこの雄鹿の姿をした魔術の神イシズの眷属とハーフエルフであるテミュリエの関係が気になった。出会った時から常に一緒に行動している。どういうご関係ですかと聞ければ早いのだろうが、声が出ない為に伝え方を悩んだ。
「楔草の実でいいだろ。ほら取りに行くぞ」
テミュリエはヘイムダルの背を叩き、部屋から出ようとした。しかし。
「少し、彼と話があります」
「ついてこないの?」
ヘイムダルがセフィライズのところへ残ると言った瞬間、テミュリエは寂しそうな顔をした。一緒にいない事を不安がる幼児のような雰囲気だ。
そんなテミュリエをスノウは可愛いなと思い微笑んで見つめる。
ハーフエルフはエルフと同様長生きで、見た目で年齢を判断できない。だからスノウは気になった。
少年の手をとり、文字を綴る。おいくつですか? と。
「年齢? 俺はまだ、生まれて十二年。あんたは、いくつなの?」
スノウは少し迷った。自分の正確な年齢を知らないのだ。以前セフィライズに調べてもらった時は十八歳ぐらいと言われたが、それからかなり月日が流れてしまった。
『十九です』
誕生日がわからない、おそらくもう十八ではないだろう、と判断して少年のてのひらに数字を書く。スノウは年齢を伝えると少し恥ずかしくなった。あの頃より、ちょっとは大人になれただろうか。
『楔草の実の採取、わたしがご一緒してもいいですか?』
テミュリエの手のひらに再び文字を書く。一緒に、行きたい。これだけで伝わるはずだ。
「え……スノウが、ついてくんの……別に、いいけど」
テミュリエがあからさまに恥ずかしそうな顔をして、しかし内心嬉しいのが手に取るようにわかる。子供らしい仕草に、スノウはテミュリエの事を再び可愛いなと思った。
『では、よろしくお願いします』
頭を下げて、手を差し出した。スノウよりほんの少し低いだけだが、顔はまだ幼い少年。弟がいたらこんな感じなのだろうかとにっこり微笑んだ。
スノウは横になるセフィライズの元へ移動し、その手に触れる。薄目を開けた彼と目があった。行ってきますね、という事を伝えたいが握るだけで伝わっただろうか。
「気をつけて……」
『はい』
セフィライズは、本当は何もしなくていいと言いたかった。横になって一日眠れば回復するだろうから。しかし、止めれるような雰囲気ではなかった。
テミュリエとスノウが部屋を出ていくのを見送って、深く息を吸った。
本作品を読んでくださり、ありがとうございます。
いいね・ブックマーク・感想・評価を頂けましたら、やる気がでます。
小説家になろうで活動報告をたまにしています。
Twitter【@snowscapecross】ではイラストを描いて遊んでいます。




