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10.エルフの森編 一角獣





『あの……』


「清浄なる子。しかしあなたは神々の泉を口に含んだ。その代償は計り知れません。おそらく声だけではなく、ゆっくりと下り体を中から腐らせるでしょう。その時、わたしとの契約も終わる」


『わたしは、死にますか?』


「いいえ、人ではなくなるだけです」


 体が完全に人ではないものになってしまえば、それは穢れと同じ。一角獣(ユニコーン)との契約は終了し、癒しの術は使えなくなる。


『不死者……ですか?』


「そうですね。それを止めるには、わたしの血が必要でしょう。それしか方法がない」


『はい……でも、わたしは……』


 深く考えた訳ではない。しかしおそらくそれは、自然の摂理に反していたのだろうと思う。スノウ自身のために、彼に生きて欲しかったから。彼ともう一度話したい、そのもう一度を願ってしまったから。代償だというのなら、受け入れるしかない。一角獣(ユニコーン)を殺してまで、生きながらえたいと思うだろうか。


「わかっていますよ。エイルの意思を継ぐ子……会えてよかった。わたしもそう長くはない」


 スヴィーグは遠い昔、数多くいた一角獣(ユニコーン)の最後の一体。神々の眷属である生き物は皆、満ち満ちたマナによってその存在を維持している。スヴィーグの仲間は皆、マナが薄れる世界に耐えきれず息絶えてしまった。それらを全て見送り、また自身もこの世界で存在を保つ事ができない。終わりの時は近いのだと、感じていた。


「消失していく世界で、我々眷属がその個体を保つ事はできません。おそらくこれが最後となるでしょう。あなたが望むのなら、受け入れても構いません」


『いいえ。もしそうだとしても、どうか最後まで生きてください。わたしも、最後まで生きたいと、思っています』


 スノウは祈るように両手を握り、額に当てる。

 きっと、彼がこの話を聞いたら怒るのではないかと思った。スノウが彼に生きてほしいと願ったように、きっとセフィライズもまた、彼女に生きてほしいと願っている。一緒に生きていきたいと思うのなら、この話には乗るべきだ。それでも、スノウには選べなかった。今ここに生きている眷属への冒涜は、胸をえぐる程の重罪だと感じる。


「そうですか。また会いましょう。清浄なる子よ」


 頭を下げたスヴィーグの角が湖面に触れる。そして体を捻り、スノウから遠く離れるように歩き出と、その姿は次第に周囲に溶け見えなくなった。

 しばらくその姿を見送り、湖からゆっくりと上がってきた。目の前にやってきた少女が体を拭くようにと大きな白いタオルを渡してくれる。銀髪に白い肌の可愛らしいその子は、満面の笑みだった。


「会えた?」


『え?』


「スヴィーグ、会えた? 心清らかでないと、現れないんだよ」


『あ、はい。会えました』


 うんうんと何度も頷いてみせる。ちゃんと会えたと伝わったのか、女の子がまた嬉しそうに笑った。


「じゃあこっち、今度はお洋服着よう!」


 女の子に手を引かれ、裸のまま別の場所へ移動する。タオルを恥ずかしそうに体に巻いて歩いた。振り返ればその湖畔に、あの白いスヴィーグの姿が見えるような気がするが、実際は遠くに見える石の大きな扉だけ。

 スノウは、今度はもう少し別の話がしてみたいな、と思った。




 案内された家の中は質素な作りだった。木をうまく組み上げしっかりとした家なのだが、照明用の魔導人工物(アーティファクト)はなく何本も蝋燭が置かれている。

 再び数人の女性に取り囲まれ、髪の色や目の色を珍しがられ、肌の色を比べられた。渡された服は白を基調としたシンプルなものだった。体に巻き付けるように着たあと、丁寧に編まれた紐で結ぶ。


「お腹すいたでしょう? もうすぐ食事だからね」


『あ、あの。あのセフィライズさんは?』


 身振り手振りでなんとか伝えようとしてみる。両手を振って、指をさして。スノウの動きに全員が首を傾げた。


「何かしら? 我慢できないのかしら」


「先に少し食べる?」


『違います、セフィライズさんはどこかなって』


 一人の女性の手をとり、その手のひらに彼の名前を書いた。ようやく伝わったようで、手をパンっと叩き、ああ! と大きな声を出した。


「大丈夫よ、ちゃんと案内するわ」


 その場にいた全員が、セフィライズが生きている事に再び喜んでいた。スノウはそれをみてなんだかとても幸せな気持ちになる。

 今まで、どこか人と一線をひいていた彼はおそらく、その存在を喜ばれる事が少なかったのではないかと思う。人ではない物として、接せられる事も多かったのだろうと。だからなおさら、なんだかとても嬉しくなった。











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