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7.エルフの森編 ビフレスト



 セフィライズはしっかりと目を瞑り、胸に手を当てる。そして自身の胸にあった腫瘍が無くなっている事に気がついた。

 スノウは彼の表情の変化に気が付き、手を伸ばす。心臓に指を触れて彼の目を見ると、困ったように笑っていた。しかし何か言葉を発する事はない。


「教えずとも考えれば一角獣(ユニコーン)がどこにいるか貴様ならわかるだろう」


「……エルフの森(ホルトゥラーヌス)。しかしあれはもう、世界とは断絶した場所にあるはず」


 地上の壁を越えて向かう先にはないと言われている場所。人を惑わす幻惑の森を抜けなければならない。しかしその森すら見つける事は非常に困難だ。


「世界樹は、必ず繋がっている。この意味がわかるだろう」


「……」


 スノウは何の話をしているのかわからなかった。彼を見上げた後、うっすらと笑うイシズを見る。


「……あちらにはもう、目覚める手段はない。貴様が手遅れだと思っている終焉は、ここでなら安息に迎えられる。それでも、戻るのか」


「今は……スノウの事が、最優先だから」


「なら虹の橋(ビフレスト)を渡れ。そして肝に銘じろ。貴様の死が、全ての発動条件だ。二度目の救いはない」


 彼が思い詰めた顔をしている。スノウは話している内容がわからなくて、何もいう事ができなかった。


『セフィライズさん。戻ったら必ず、全て教えてください』


「何……?」


 届かない気持ちを伝えるために、彼の手を取った。手のひらに大きく一文字ずつ描きながら口もわざとらしく動かす。


『き、か、せ、て』


「聞かせて……わかった。戻ったら……すぐ話すよ」


 セフィライズは手を差し出した。彼女がはい、と答えたのがわかる。差し出した手を握り返され、そして引いた。イシズの横を通ろうとする時、彼が目の前に立ちはだかる。人差し指で心臓に触れられ、見つめあったその瞬間に消えた。


「友よ、また会おう」


 その横でウィリが言う。遠くを眺め、彼女もまた空間に溶けるように姿を消した。



 スノウは手を引かれながら巨大な根の上を歩く。ところどころ消えかけのそれは、淡い粒子状の光が空に昇ってとても幻想的だ。まるで雪が降るのとは逆だと彼女は思う。その巨木の根の先に、地上で見た壁と同じ揺らぎの空間があった。塊のようなそれは、中心に向けて収縮しているようにも見える。


虹の橋(ビフレスト)の入り口。行こう……手を、離さないで」


 振り返った彼が薄く笑っている。絶対に離さないと、強く握り返し頷いた。

 彼がその空間に手を伸ばす、詠唱の為に口を開こうとした瞬間、まだ一言も発しないうちに目の前が真っ白になった。






 ほんの数秒の妙な浮遊感。そして目を開けるとそこは既に森の中だった。

 今まで見たこともない巨木が真っ直ぐに伸び、続く先までずっと広がっている。木々の隙間から入る光は美しく、静かな空間を通る風は葉を揺らし、まるで漣のような心地よい音を響かせている。


「今のは……」


 セフィライズは自身の手を見た。虹の橋(ビフレスト)の入り口で、魔術を唱えようと思った。向かう先はエルフの森(ホルトゥラーヌス)。しかし唱える前に魔術が発動した感覚を得て、そして気がついたら目的の場所にいた。


『セフィライズさん?』


 彼の顔を覗き見る。スノウに気がついた彼がまた少し困ったように笑った。

 その時、ガサガサと小さな木々を掻き分ける音が聞こえ、彼が身を構える。その木々の隙間からのぞいたのは一頭の雄の鹿だった。しかしその角は内側からうっすらと淡い光を放ち、目は深い金色に光っている。

 さらに後ろから一人の少年が顔を覗かせた。綺麗な褪せたブロンドの髪に色白の肌、垂れ目の黄緑色の瞳、そして尖った耳。


「新しい白き大地の民か?」


「新しい……?」


 セフィライズは身構え、警戒したままその少年を見る。新しい、という事は他の白き大地の民がいる事が考察できた。いまだセフィライズ自身数回しか仲間に出会った事がない。

 雄鹿は真っ直ぐにセフィライズを見たまま固まっていた。それに気がついたエルフの少年がその雄鹿の背に触れる。


「どうしたヘイムダル」


「まさか……ここで会えるとは。白き大地が創った原罪」


 ヘイムダルと呼ばれた雄鹿が急に声を出した。スノウは話せる動物を見たことがなく驚いて口元を抑える。セフィライズの後ろでぼろぼろの彼の服を摘んで見上げると、眉間に皺を寄せながら何かを考えているようだった。


「原罪……お前がか?」


「ここはエルフの森(ホルトゥラーヌス)。君は、エルフかな」


「残念、俺はハーフエルフ」


 セフィライズはハーフエルフがエルフの森(ホルトゥラーヌス)にいることに驚いた。それを察したのかその少年は不快そうな顔をする。


「なんだ、悪いのかよ。お前も似たような存在だろうが。俺よりタチが悪い」











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