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1.魂の回廊編 光る人



 ふわふわと、体が浮いている感覚にスノウは瞼を開けた。目の前にセフィライズが浮遊して、そして自身もまた足場もない空間に浮いている。

 深い青、どこまでも続くその空間で無数の光が淡く足元のずっと奥の方から螺旋を描いて登っていく。光は体に触れてもすり抜け、ずっと頭の上の方の暗闇まで続いていた。


 スノウはその空間を泳ぐようにして体を動かし、セフィライズへと手を伸ばした。必死に掴もうとするも一向に彼に近づけない。


「セフィライズさん!」


 声をあげた。しかし目を覚ますはずもない彼は、その空間に漂うだけだ。


 壁を、越えられなかったのか。ここは、壁の中なのか。



「ふふっ」


 どこからか、笑い声がが聞こえた。次第に笑い声は増えていく。周囲に白い光の玉が無数に集まり出し、セフィライズの体へと近づいていった。


「おかえり、おかえり」


 光は次第にセフィライズの体を取り囲む。くすくすと笑いながら、何度も何度も「おかえり」を繰り返していた。


「ま、待って!」


 その光はセフィライズの体をゆっくりとスノウから遠ざけ、足元の明かりに向けて進んでいく。離れていくセフィライズの体に手を伸ばし、必死に掴もうともがいた。


「ダメ! 連れて行かないで!」


 段々と足先の下、渦の光の中に溶けていく彼に手を伸ばす。離れていく、彼が逝ってしまうのだと強く思ってしまった。


「にんげん、器があるにんげん」


 光の玉の一部がスノウの方へと集まった。体に取り付いたそれは強い力で上へ上へと押してくる。どんどん彼と離されてしまう。


「器があるにんげん、ここじゃない」


「離して! セフィライズさんをどうするの!」


「にんげんいらない。にんげんこっち」


 スノウはその光の玉の正体が、背に透明な羽を生やした小さな人である事に気がついた。妖精と言われるものだろうか。何人もの妖精が寄り集まり、小さな手でスノウを押す。


「いやっ……」


 泣きそうになった。離れたくない、離したくない。手を伸ばしても届かない。


 その時、全体が白く淡い光を放つ人型の何かに強く肩を掴まれ、そして抱き寄せられた。人だとわかるのに顔は全く見えない。だというのに、その光る人が真っ直ぐ妖精を見ているのがわかるのだ。


「僕が戻す。帰ってウィリにそう伝えろ」


 光る人の発言で妖精達の手が止まる。スノウからゆっくりと離れ、足元の光の渦に消えていった。


「器を得たまま人はここに来れない。元の世界に戻してあげるよ。そこで終焉を待つといい」


 顔を覗き込まれたのがわかる。何故か淡く光る白いその人が、顔がないのにはっきりと笑ったように感じた。そしてそれが、何故だかわからないがとてもセフィライズに似ていると思ったのだ。


「セフィライズさんと、一緒にですか?」


「あれはもうダメだ」


「わたしは、セフィライズさんと一緒じゃないと行きません! どこに連れて行かれたのですか、ご存知ですか!?」


 手をその光る人の胸に当て、懇願するように顔を見上げた。困ったように笑っている。


「……スノウ、だったか? わかっているんだろう。あれはもう手遅れだって」


 その問いに、スノウは戸惑った。手遅れだ、もうダメだ。そんな事を理解したいとも思えなかった。ただ、まだ間に合うと強く。

 そう、思いたいから。


「スノウだけは特別に戻してあげるよ。あれは諦めろ」


「諦め……られるわけ、ないじゃないですか!」


 諦められるわけない。どんな時でも、何を見ても、たとえ目を閉じていても。ずっとすぐそこにいる彼への想いを。そんな風に簡単に、諦められるわけがない。

 いつも会話に困っている姿。どこか物悲しそうに遠くを見たり、目を伏せたり。手を差し伸べて、優しく笑っている。ほんの少し、困ったように。その全てが。

 全てが、愛しくてたまらないのに。


 もっと、ずっと。手を繋いで。


 もっとずっと、この先も一緒に。



「諦めない!」


 両手で必死にその白い人を押し、離れようともがいた。足元の光の渦に必死に手を伸ばす。また間に合う。絶対にまだ、間に合う。

 スノウが浮遊する光を掻き分けるように手を伸ばす。何度も求めて、必死に抗うその姿を見たその白い人は下を向いた。目を閉じ、そして何かに想いを馳せるように天を仰ぐ。


「なら、魂の回廊を進むといい。その先に、全てのはじまりの場所がある」


 その言葉にスノウは振り返った。淡い光を放つその人がスノウに背を向け去っていくのがわかる。その一瞬、見えなかった顔がはっきりと彼女の瞳に映った。

 白い肌、長い銀髪を揺らし、黄昏に染まる瞳を宿した男性。その滑らかな髪の隙間から、尖った耳がのぞいている。


「あなたは……」


「僕はーーーー」



 その瞬間、その空間が破壊されたかのようになくなり、その人はもういなくなっていた。











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