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外伝 ファヴニール 1

メインストーリーから4年前

セフィライズ23歳 シセルズ32歳 の頃の話




 アリスアイレス王国の背に連なる山々では、特産品となっている魔鉱石の採掘場がある。寒い中鉱石を掘り起こす鉱夫の仕事は、過酷だが収入も非常に高く人気の職業だった。鉱脈は王国側が管理し、採掘に関しても全て取り仕切っている。

 その魔鉱石の採掘場である男がいつもと変わらず作業をしていた。ツルハシを使い丁寧に鉱脈を掘り進めていく中、ある巨大な空間を発見する。魔鉱石がその洞窟の至るところから高純度かつむき出しの状態で存在していた為、思わず欲にかられ中へと一人赴いてしまった。

 中央に巨大かつ他とは発色の違う魔鉱石を発見し、報告の為にとそれにツルハシを当て表面を削ったその時だった。当たった箇所から亀裂が広がり、中から巨大な竜が姿を現したのだ。黒光りする鱗を全身に纏って、耳をつんざく程の咆哮を上げる。次の瞬間、その男はその竜の尾で叩きつけられ絶命した。








「と、いう感じで。採掘場に魔獣が突然現れ、落盤事故が起きて数人取り残されてる」


 セフィライズの執務室で、テーブルの上に鉱内の図面を広げながらシセルズは言った。


「その竜が発見された場所がここ。んでもって取り残された人達がいるのが、ここ」


 竜は眠っていた地下空間で酷く暴れた、そのせいで落盤が起き大規模に坑道が潰れてしまっているのだ。奥に数人の鉱夫が取り残されている。その人達を救出するには、図面で確認する限りだと竜がいた地下空間の入口からちょうど反対側にある壁付近を掘り進めば、道ができるのではないかという目算だ。


「どう考えてもその竜をどうにかしないと」


 シセルズの丁寧な説明に、セフィライズは図面を眺めながら呟いた。


「何時間たった?」


「ざっと四時間ぐらいか。今から出発したとして、到着は二時間後。早く対応しねぇと中の人間の精神ヤバそうだな」


 ちょうどその時、執務室の扉が開く。一人の兵士が入ってくると背筋をしっかりと伸ばして敬礼した。


「シセルズさん、出発準備完了しました!」


「おう、お疲れ。今から行く」


 シセルズはテーブルの上に拡げた図面をを巻き取りながら返事をする。セフィライズもまた、外に出る為の防寒具に手をかけた。


「お前、なんか持っていけよ。ツルハシとかシャベルとかしか落ちてねぇぞ」


「あぁ、確かに……でも、持ってない」


「ったく。なんか俺が適当に持っていく。先に行っとけ」


 セフィがいてくれてよかった、なんて笑いながらシセルズは弟の肩を叩く。弟は遠征や同行やらでアリスアイレス王国内にいない事も多いからだ。




 最初に一報が入った時、ちょうどそこそこに指揮力のある人材のほとんどが、少し遠い場所で訓練を行っている最中だった。呼び戻してもいいが、今回は閉じ込められた人達の存在もあり、カイウスから真っ先に白羽の矢が立ったのはシセルズだった。大急ぎで集められた兵士と救護班の部隊の指揮を任される事となる。

 俺にはちょっと荷が重いんだよなぁというのがシセルズの本音であった。実際竜なんて相手にできそうなのはセフィライズぐらいしか思いつかない。が、セフィライズに部隊の指揮はできない。自分に役が回ってくるのは、頭では理解できているのだが。シセルズは複雑だった。


「はい、今回の作戦の指揮を取ることになりました。第一王子直轄後方支援部隊所属のシセルズです。とりあえず、人命第一で行きたいと思ってるので!」


 出発前の挨拶で、全員の前に立ったシセルズは臆する事なく話す。それを少し離れたところで眺めていたセフィライズに向け、指を差した。


「竜の相手はそいつがするんで。補助よろしく!」


 いきなり指名されてセフィライズはどう反応していいかわからなかった。全員の視線が注がれて、それにもどんな表情をしていいかわからない。


「じゃ、出発!」


 これでいいのか? と、セフィライズは思ったが何も言わなかった。シセルズと同じ馬車に乗り込むと、兄が親指を立てて笑った。


「とりあえずそういうことで」


「そういうことって……別に竜なんて相手にする事ない」


「まぁーかといって、普通の人間には無理だから。そうだ、ほらこれ使えよな」


 シセルズが取り出したの剣は、刀身がやや長めで平たい印象の剣だった。そこには何やら文字が多く掘られている。古びた印象を受ける柄や鍔の部分も全て金属で作られていた。


「これ……は、持ち出して、いたの……」


「竜となるとこういうのがいるだろ。いざっていうときに使わねぇと」


「だけど、これは。この剣は兄さんのだ」


「まだ俺のじゃない。というかもう、誰のものでもない。白き大地はもう無いんだ。使えるものは使っていこうぜ」


 シセルズがセフィライズの膝の上にその剣を置く。これは代々、白き大地の民の王族に伝わる魔剣グラムだ。これとヨルムの封印を受け継ぐのが王になるものの役目。シセルズもまた、10歳の時にその役目を引き継ぐ最初の儀式に参加している。この魔剣グラムが正式にシセルズの持ち物になるのは、真に王位を継承した時だ。








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