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50.黒雨の古城編 まだ



 腕の中で、彼が微笑みながらゆっくりと目を閉じる。全身の強張りが消えたかのように、重くなった。


 現実を理解出来なくて、スノウは目を身開いたまま彼の顔を見る。

 目を閉じているだけ。瞑っているだけ。眠っている時と、何ら変わらないその彼は、恐らくもう。


「いやだ……いや……まだ、わたしはまだ……何も伝えていないのに、聞いてないのに……」


 好きだと、伝えなかったことを心から後悔した。もう答えは聞けない。本当に、終わりなのだろうか。ここで。


 より一層白くなった肌。変わらない彼の瞑る瞳。


「セフィライズさん……」


 セフィライズの頬に手を添えた。そのまま顔を抱きしめ覆いかぶさる。大声で泣いて、耳元で何度も叫んでも届かない。


 手で彼の体をなぞる。首元から、その心臓に向け手を添えた。


「動いてる……?」


 その心臓の上に張り付いている腫瘍が、強く脈打っているのだ。手で触れてわかるほど熱を帯び、ドクドクと音が聞こえそうなほどに。


「まだ、間に合う! まだ。死なせない、絶対に!!」


 咄嗟に、まだ心臓が動いているとスノウは思った。


 立ち止まっていても、悔やんでいても、悲しんでいても何も意味がない。手遅れだと言われても、無駄だと笑われても。

 それでも、スノウは彼の腕に手を回し、背に乗せるように立ち上がった。スノウよりも背が高い彼。見上げなければいけない、彼。華奢とはいえ男性の、自身よりも重い体を持ち上げる。

 やるのだ。諦めない。せめて、こんなところで死なせたくない。間に合うと信じて。


 雨で滑りやすい道を、あの時を思い出しながら進む。彼の体を持ち上げて、決死の思いで歩く。沢山の思い出を蘇らせながら、その黒く塗られた先へ進んでいった。


 あの時、川が見えたら平行に下って、そして壁があった。その壁を越えれば、コンゴッソ側にでるのだ。コンゴッソにつけばギルバートがいるはず。

 優しく手を添えて歩いてくれた。岩だらけで雨に濡れた歩きにくい道を、こけないように気をかけてくれていた。黒髪の彼は、茶色の瞳で真っ直ぐにスノウを見ていた。酷い疲労感を覚えていたスノウに、おぶっていこうかと声をかけ薄く笑っていた。その全てが、セフィライズと重なる。


 あれは、セフィライズさんだったんですね。

 思えば最初からずっと。全部、あなただったんですね




 川に当たり平行に進む。そしてあの時と同じ、壁を見た。

 向こう側は見えず、天高く伸びた壁。ゆらゆらと何色とも言えない無彩の輝きが揺れている。壁そのものがうっすらと発光しているそれ。触れれば人は消えていなくなる。そして二度と帰って来ることはできない。


 スノウは一旦セフィライズをおろし、彼のブーツに触れる。確かここからナイフを取り出していたはず。探すと靴底に収納された薄い刃のそれを見つけ、彼の血と雨と泥で汚れた銀髪へと当てる。しっかり束ねて、一気に切り落とした。髪を握りしめ、再びセフィライズを背負う。


 スノウ自身、もう限界だ。それでも振り絞って、立ち上がった。

 壁を越える。

 一人で使えるかなんてわからない。

 それでも、彼が最後の力で自身の髪に宿してくれた力を使って、必ず超えてみせる。


 こんなところで、死なせたくない。こんなところで、置き去りになんてしたくない。



 その闇の中を、一緒に歩いていきましょう。


 そう言って、彼に手の差し伸べたのだ。まだ二人、ずっと闇の中にしかいない。いつも引かれてばかりの手を、今度こそスノウが引くのだ。

 そして必ず、光の中へ連れて行く。



「我ら、世界を創造せし魔術の神イシズに祈りを捧げ、我の前に立ち塞がりし残痕を払う力を我に」


 目を瞑り、壁の前で唱える。お願いします。どうか。どうか向こう側へ、行かせてほしい。

 彼の切り落とした髪が握られた拳を、前へと突き出した。



「今この時、我こそが世界の中心なり!」




 瞳を開くことなく、セフィライズを背負ったスノウは



 無彩の狭間へ向け、勢いよく走った。





























4章 無彩の狭間へ e n d














 この先少し長い感想。

この度は4章 無彩の狭間へを読んで頂き、心か感謝申し上げます。

日頃より更新時等にチェックしてくださる方々

ブックマーク、いいね、感想、評価をくださった方々のおかげて、ここまでたどり着くことができました。

必ず全部回収し、エンディングまで持っていけたらいいなと思っております



以下

4章の雑談と次章の紹介























4章は、主に最初にあったのは一番最後のシーンと、ヤタ族のシーンの一部だけでした。そこから、話を広げてこんな感じになって、自分でもびっくりしました。


やりたかったこと

少し感情的な表現が増えた主人公(焦ったり顔を赤らめたり)と、我慢できず期待したり押したりしてみちゃったりするヒロインの、じれじれ両片思い。

あとは読んでたら誰でもわかりやすくしておいた、最初の黒曜さんがセフィライズだったという話。スノウに知ってもらう事が目的で、同じ場所同じ境遇をやりたかった。

前回はセフィライズが助けたけども、次はスノウが助けるという流れをやりたかった。



いままでのんびり展開でしたが、5章は各所色々な設定回収をしたいと思っています。北欧神話感が強くなります。

本来は6章で終わりのつもりでしたので、6章をエンディングとし、エンディング後のストーリーを分岐させたいと思っています。短いものを先に1本仕上げてから、7章という枠を取ってメインのエンディング後を描けたらと思っています。


このあと、外伝を2つ。

1つは、お兄ちゃんを忘れてほしくないので兄弟推しの話を、色々設定出せるようになったのでその辺の話。

最後は4章の最初の方レンブラントに持たせたシセルズ宛の手紙の話で短いです。


その後、5章 原罪と金碧 に続きます。



ここまで読んでいただき、心より感謝申し上げます!






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