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44.黒雨の古城編 尋問




「おら! 目ぇ覚せや!」


 バシャリと冷たい水を頭にかけられた。同時に頭を小突かれるように蹴られ、セフィライズは目を覚ます。


「うっ……」


 鈍い感覚がはっきりしてくる。体をゆっくりと起こすと、目の前にいたのはリヒテンベルグ魔導帝国宰相ニドヘルグ。その横にデューン、そしてスノウの後ろで拘束するように腕を掴み、ナイフを片手に持ったネブラだった。

 どこかの部屋の一室なのがわかる。彼らの背後にある窓から見える空はどんよりと曇っており、雨が叩きつけられていた。木々の端も地平線もよく見えない灰色に塗られている。


「セフィライズさん、ごめんなさい」


 セフィライズは真っ直ぐにスノウを見る。泣きそうな表情のスノウをなるべく安心させるよう柔らかい表情で見つめ返した。口だけを動かして再び大丈夫だと伝え、すぐに視線をニドヘルグに移す。


「さて、今からあなたに聞きたいことがあるのですよ。もうわかりますね?」


 ニドヘルグの声に反応して、ネブラがうっすらと笑いナイフを持ち上げて見せる。無言の圧を感じた。

 何を聞かれるのか、なんてわかり切った事だ。『世界の中心』について。ニドヘルグを睨みつけながら、はっきりとセフィライズは声を出した。


「……知らないものは答えられない」


「知らないわけはないでしょう。『世界の中心』について。あなた以上に知っている者はいるのでしょうか」


 ニドヘルグの核心を得ているような発言に、セフィライズは一瞬焦った。誰にも話していないはずだからだ。自分の事も、兄の事も、家族の事も。知っているのはおそらくアリスアイレス王国のカイウスだけだ。だから、知られているはずがない。白を切る事を選び、再びはっきりと答える。


「何のことかわからないな」


「無駄ですよ。当てて差し上げましょうか。あなたがカンティアで伏せていた、名前を」


 ニドヘルグは嬉しそうに笑い、両手を広げる。その細く骨張った指が、不気味に動いた。


「あなたの存在を知った時、震えました。生き残っていたとは思ってませんでしたからね」


「……」


 知られている。そうセフィライズは確信した。何の話をしているのか、状況が飲み込めていないスノウが戸惑いながら彼を見る。思わずその視線をを逸らしてしまった。

 今までスノウからの多くの疑問を投げかけられた。恐らく言葉に出さず飲み込んだ事もあっただろうと思う。それらを全て、わかっていてはぐらかした。聞こえないふりをして、答えないでいいように、逃げてきた。自分なんかに怯む事なく、真っ直ぐに向かってきてくれている彼女へ。

 せめて、その時がきたら。しっかりと自らの言葉で、伝えたかった。


「あなたの本当の名前は、セフィライズ・ファイン・オーデュリカ。白き大地の民の王であるコーデリウス・アルバ・オーデュリカの二人目の子供。違いますか?」


 ニドヘルグのその言葉に、スノウは驚いていた。黙ったまま無表情でニドヘルグを睨みつけているセフィライズを見つめる。

 白き大地の民の王が手にしたと言われる『世界の中心』

 もしニドヘルグの言った事が事実であれば、それを、誰よりも近くで見たはずなのだ。思い返せば今まで幾度となく彼に聞いてしまっていたかもしれない。それを彼は、どんな気持ちで答えていたのだろうか。ずっと、はぐらかして、言葉を濁して、答えたくない質問に。


「魔術の神イシズ・オーデュリカの直系であるあなたは、お父上が手にした『世界の中心』をご覧になったでしょう。どんなものだったか、そして今、どこにあるのか」


 その質問に、セフィライズは下を向いて沈黙した。どんなもの、だったか。白き大地での子供時代に思いを馳せる。しばらくして自嘲気味に笑いながら顔をあげた。


「覚えていない」


 セフィライズは白を切り通す事を選んだ。ニドヘルグが深いため息をつく。


「仕方ありませんね」


 ニドヘルグはデューンへと目を配る。その合図に薄ら笑いを浮かべ、隆々とした筋肉を見せびらかすように腕を振り上げてセフィライズへと近づいた。


「答えてもらわないと困るんだよ。氷狼(フェンリル)さんよぉ」


「かはッ!」


 デューンの拳が腹を抉る。激しい痛みと共にその剛力で後ろへと飛ばされ、床へと倒れた。腕で顔を覆いつつも抗う事なくデューンの嬲り(なぶり)を受け入れる。激しい暴行に声を押し殺した。


「や、やめて! やめてください!」


 スノウは腕を抑えられた状態で体を捻り必死に声を荒げた。自分のせいで、セフィライズは抗えないのだと痛いほど理解し、涙が溢れる。やめてと何度も懇願し、彼の名前を呼んだ。


「セフィライズさん!」


「ちっと大人しくなってきたじゃねぇかよ。もう終わりか?」


「うっ……」


 ぐったりとしだしたセフィライズの胸ぐらを掴んで起き上がらせる。薄くと目を開けた彼は、デューンの腕を掴みながらその状態でスノウを確認した。

 彼女を巻き込んでしまった。この状況で、なんとしてもスノウだけは。しかし思考を巡らせても抜け出す方法など思いつかなかった。


「さて、『世界の中心』は、今どこにある?」


「だから……覚えていないと……」


「ほうほう、まだ足りないってか?」


 胸ぐらを掴むのをやめると、彼の華奢な体は簡単に床に崩れ落ちる。その瞬間、脇腹に負った怪我をデューンのブーツが深く蹴り上げ、そして捻り込まれるように踏みつけられた。


「あああっ! うッ……」


 激しい痛みで身体中に衝撃が走る。目を見開き、デューンの足を掴み抵抗の意志を示すも無駄だった。傷口を圧迫され、止まっていた血が再び溢れ出すと床を汚す。


「おらぁ! その綺麗な顔でもっと喘いで見せろや!」








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