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33.洞窟のアジト編 バレバレ


「あの、そんなにもその……わたし……」


「え? バレバレよ。あの男の事、好きなんだなーって、見てすぐわかった」


「それは、それはまずいです。ど、どうしましょう。隠さないと」


「なんで? 隠さないといけない理由でもあんの?」


「それは、その……」


 今の関係を、変えたくないから。断られるのが、怖いから。一緒にいられなくなる事が、恐ろしいから。

 でも本当は、その先を望んでいるのを知っている。それはダメだと必死に言い聞かせて、でもナツネから見たらバレバレなのかと思うと、どうしていいかわからない。


「別にいいんじゃないの? 人生一回きりなんだから、遠慮なんでしないで言っちゃえばいいじゃん」


「そう、なんですが……」


 彼にこれ以上、煩わしい悩みの種を増やさせたくない。もしも伝えたらきっと、彼は困るし悩む。優しいから、傷つけない言葉を探そうとしてくれる。どうして自分なんかと聞いてくるかもしれない。どれもこれも、彼を困惑させてしまうと思った。


「やっぱ男って、スノウみたいな可愛い子がいいんだろうなぁ」


 ナツネは川に深く浸かるように腰を落としながら上を見た。真っ暗で、空なんか見えない洞窟。ナツネから見てスノウは、可愛らしい女性そのものだと思った。おとなしくて、献身的に見える。自分なんかとは大違いだと笑う。


「誰か、気になる方がいらっしゃるのですか?」


「うーん……あたしさぁ、結構自分の腕に自信あったんだぁ。でもさ、最初はそんなに強いって知らなかったとはいえショックだったのよ。それでほら、あれ……自分より強い男って、かっこいいじゃん」


 ナツネは何を言っているんだろうと思った。

 そんなつもりはなかった、本当に、そんなつもりはなかったのだ。

 セフィライズに最初の蹴りを入れた時、ナイフを弾き飛ばすのに成功した。だから次の蹴りは、顔面に一発入れて倒せると思った。しかし紙一重で避けられ、拳打も全て防がれてしまった。それどころか間合いに入られ一発、腰に一発入れられるとは思ってなかったからだ。負かされたと思った。その敗北感と一緒に思ったのは。


 でも、先ほどの二人のやりとりを見てしまって、ああそうなんだって。思って。


「えっと……」


 スノウはナツネが何を言いたいのかわからず首を傾げた。誰の話かわからないけれど、気になる人がいるのだろうという事は理解できる。


「あーはいはい、今のはナシナシ! ほら着替えよ! スノウおっぱい大きいから、ヤタ族の服は似合いそう!」


 何かを揉むように動かした手を、スノウの背後から胸へと回す。しっかりとそのふくよかな彼女の乳房を掴んだ。


「きゃっ!」


「えへへ、でかー。これは揉みがいある!」


「やめてください!」


「いいじゃん、女同士だから!」


 川の水をバシャバシャと跳ね飛ばしながら、二人は戯れ合う。途中から楽しくなってきて、お互い大声で笑い合った。


 ナツネから渡されたヤタ族の服は、今まで着た事のない種類の服だった。なんというか、もう下着じゃないかという厚手の胸当てとパンツ。その上から着る服の布の部分がうっすらと透けている。腰に巻いて着るスカート状の布も同じだ。透けた布には丁寧に刺繍が編まれ、紋様が民族的な印象を与えている。腰回りは小さなタッセルが並んでいて、動くたびに揺れた。


「ほ、ほとんど下着じゃないですか」


「えぇ。ヤタ族の格式ある衣装なんだから! スノウの服は洗っといてあげるから、乾いたら着替えたらいいじゃん」


 たしかにナツネが着ている服も、上半身は胸元を隠すだけだ。下はショートパンツのみ。元々露出の多い服が基本的なのはわかるが、今まで着たことがないせいか抵抗があった。


「でも……」


 強引に着るように促される。確かに手の込んだ仕事が端まで張り巡らされた美しい服だと思う。細やかな装飾品ひとつひとつも美麗だ。ただ、問題はデザインである。


「男はそういう格好好きだって。あの男に肌とか見せた事ないんだろ?」


「は、肌なんてそんな。その……アリスアイレスは寒い国ですし。露出する服は」


「そんなの着たら凍死するって? 確かに言えてるー」


 あまりにもスノウが恥ずかしそうにしているものだから、仕方なくナツネは棚を漁る。ヤタ族の伝統的な織物で作った厚手のストールを手渡した。


「これでも羽織って。でもいいなぁスノウは。おっぱいでかいし、肌も綺麗……」


 ナツネは笑いながらスノウがストールを羽織って体を隠す姿を見る。ヤタ族とは違う一般的な肌の色。自分と比べて色白に見える。自分と違う目の色、自分と違う髪の色。ああ、いいなぁと、本当に思う。


「まぁ、なんだっけ。セフィライズだっけ? どんな反応するか見てみたらいいよ」


「あまり想像できません……」


 誰か他人と、女性と親しく話しているところを見ない。すれ違う露出の多い女性を目で追ったり、綺麗な人に目を止めるようなところも見たことがない。当たり前だけれどスノウの前で性的な話をする事もない。男性だという事は理解しているけれど、そういったものとは無縁そうに見える。シセルズの方がよっぽど男性らしいというか。


「性欲ない男とかいないって」


「わ、わかってます……」


 直接的な言い方をされると恥ずかしい。彼も同じ人間なんだから、それぐらいわかっている。わかっているけど。

 スノウはストールをめいいっぱい引っ張って、露出を隠した。










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