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28.辺境伯屋敷編 巣




 目の前にはザンベル辺境伯。出入り口である扉の目の前にはデューンとネブラ。その後ろにニドヘルグ。そしてここの部屋は二階。この状況で、すんなり帰れるだなんて誰が思うだろうか。


「正解に辿り着いた事は褒めて差し上げましょう」


 高笑いをしながら手を叩くニドヘルグが一歩前にでた。


「せっかくですから、もう少し答えを見たくはありませんか」


「見せちまうんですか」


「かまいません。ただしお一人でついてきていただけますか。それについて、もっと知りたいでしょう」


 ガラスの小瓶を指さされる。黙ったまま、どう返事をするか悩んだ。スノウを置いていけるわけもない。


「彼女も、一緒だ」


「残念ですが我々はその女に用事はありません。必要なのはあなただけです。白亜の残滓」


 セフィライズはゆっくりとすぐ目の前にいるザンベル辺境伯に視線を移した。


「ここでの戦闘は不利だって、わかってんだろ? あんたにはできないだろが、俺たちはいくらでもその女を人質にして、言う事聞かせるぐらい簡単なんだぜ」


 デューンはセフィライズがザンベル辺境伯を人質に取ろうとしたのに気がついたのか、思考をかぶせるように話す。


「彼女の……身の安全を保証してもらおうか」


「いいでしょう。屋敷を出るまでは、保証しましょう」


 身構えるのをやめ、まっすぐ立ったセフィライズが振り返った。スノウを見て、少し微笑む。


「ちょっと、行ってくるよ」


 そう言って離れようとする彼の服の裾を掴んで止めた。離れたら、もう会えない。そう思ってここまで一緒にきた。あの時、カンティアで強烈に思った感情がまた、湧き上がっている。


 離れたくない。


 血だらけの大怪我で、ギルバートを背負って歩いてきた彼の姿と重なった。行かないで、と声をだしそうになる。リヒテンベルク魔導帝国は、彼の事を人だなんて思っていない。それをわかっていて、一人で行かせるなんてできない。スノウの心が伝わったのか、裾を持つ手に彼の手が重なった。


「戻ってくるよ」

 

 スノウの手を振り払って、彼は静かにニドヘルグの元へ進んだ。途中デューンが立ちはだかり手を出す。セフィライズは素直に腰に帯びた剣を外してデューンに渡した。別に、武器などなくともあまり恐怖心は感じない。ここで拒み、スノウの身に何か起きてしまうことの方が怖い。


「では、行きましょうか。ザンベル、ということですのでそのお嬢さんには手を出してはいけませんよ」


「残念ですが仕方ありませんね」


 彼らが出ていく。セフィライズの後ろ姿をただずっと見つめて。ゆっくりと扉が閉じた。






 ニドヘルグの後ろにデューン、そしてその後ろにセフィライズが続いた。セフィライズの背後に立つのはネブラ。挟まれる形で進んだ先は、屋敷一階の奥の部屋だった。扉を開けると窓が分厚い布で全て塞がれており、日中だというのに非常に暗い部屋だった。先に入ったデューンが灯りをつけると、目の前にはよくわからない器具がずらりと並んでいる。大きなガラス容器の半分ぐらいに、黒い液体が入っていた。


「さて、まずは何から聞きたいですか?」


 余裕の表情を見せるニドヘルグが、テーブルに体重をかけるようにしてもたれ、セフィライズを見る。骨張った指を絡め、嫌な笑みをこぼした。


「……目的は」


 それを作ったのはお前達か、なんていう質問はもう不要なのはわかった。おそらくザンベル辺境伯の屋敷内で作り、それを彼の名前で売りに行かせる。貴族にだけ、小さく広げる意味はなんだろうか。


「人間が、どこまで耐えられるのかと思いまして」


 意図がわからなかった。何を耐えるというのだろうか。まっすぐ立ったまま、彼は静かにニドヘルグを睨みつける。この男の考えてる事が読めなかった。ただわかるのは、利益しか見ていないということだ。それに対する犠牲には、目を瞑っている。


「それは邪神ヨルムの体の一部と、白亜の残滓らの血を混ぜて作りました。この意味が、おわかりになりますでしょう」


 セフィライズは自身の手の甲に一滴落とし、舐めた時のことを思い出した。確かに、体が軽くなった。無理やり気持ちを上げられているような感覚。それが、白き大地の民の血と、あのウロボロスと呼ばれた邪神を取り込む化け物の一部からできている。正直吐き気しか起きなかった。


「簡単な実験です。作り出されたマナを摂取して、人間はどうなるのか。結果は残念でした」


 あれは凝固されマナだと言いたいのだろう。邪神ヨルムの持つ膨大なマナが世界に満ちたら、どうなるのかを先に実験しているのだろうか。だとすれば邪神ヨルムによるマナの補填は、人間にとってよい結末をもたらさない。

 それに邪神と呼ばれる存在が、人間によって操れるようなものなのかもわからない。七つの封印を解き完全に復活した神は、果たして世界にどのような変化をもたらすのだろうか。


「邪神ヨルムの持つマナを解き放つのが目的だとしたらそれは失敗している」


「えぇ、存じ上げてますよ。我々の目的は世界の延命です」


「同時に探してるんだよ。例えば……お前らが隠してしまった《世界の中心》とかな」


「次は、我々の質問に答えて頂きましょうか」


 ゆっくりと、デューンがセフィライズの背後に回ったのがわかった。どうせ人間だとは思っていない連中なのだから、聞きたいことを洗いざらい吐かせて殺す気なのは最初からわかっていた。身構え、デューンへと振り返ろうとした、その時だった。


 爆音と共に建物が揺れた。それは何度も何度も繰り返され、全員がその音に警戒する。次の瞬間、布張りの窓が激しく壊れ、筒状の何かが飛び込んできた。それが爆薬であると理解した刹那、激しい音と煙を撒き散らし爆発する。















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