25.海辺の街編 推測
あの人たちが誰なのか知らないスノウは戸惑っていた。セフィライズがとても怖い顔をしながらずっと睨み付けているものだから、きっと過去に何かあったのだろうと思う。
「セフィライズさん?」
スノウに呼ばれて、我に帰った。振り返ると不安そうな顔をしている。どう説明すべきか迷った。彼はスノウの手を引き、とりあえず店に入るよう促す。
「あの……」
「少し、整理したら話す」
テーブルへついても彼は手を絡めて肘を付き、口元に当てながら考え込んでいた。
休みだ、といってもどうしてこの街にいるのだろうか。休暇に来るような場所ではない。
あれが目的、とはなんだろうか。憶測するに、この町に新たな邪神の封印があるという事だろうか。それとも別に何かあるのか。
たまたまだとしたら、という単語も気になった。まるでセフィライズ自身が、彼らの目的に気がついて追いかけて来たかのように感じたという事だろうか。
スノウは彼の熟考を察して黙って待っていた。顔をあげた彼と視線があって、にっこり笑う。
「大丈夫ですか?」
「あぁうん……すまない」
スノウの表情見て少し心が安らぎ、彼女にわかるように説明をする。
コカリコの街で起きたことだ。壁から突然這い出してきたウロボロスと呼ばれた黒い怪物。それが七つに裂かれた邪神ヨルムの封印を暴く事で、その姿をはっきりとさせている事。そしてその時にいたのが、先ほどの二人だった事。
スノウは当時の彼とギルバートが負った怪我を思い出した。あれは彼ら二人との戦闘で起きたものだとしたら、セフィライズとはもう戦わせたくない。もうこれ以上、彼に苦痛を強いることは、耐えられそうになかった。
「……食べましょう。セフィライズさん。お腹空きましたよね?」
話終わった後も深刻そうな表情をしているから、なるべく話題を変えようと手を叩く。
「あ、見て下さいよセフィライズさん。ほら、生魚ですよ! お魚って、生で食べても大丈夫なんですか?」
楽しそうにしながらも驚いているスノウを見て、彼もまた少し笑う。新鮮でなければ、なかなか生で食べることはない。彼自身も、生魚はあまり口にしたことはなかった。
「大丈夫。味はもう忘れたな……淡白だった気がする」
「わたし、食べてみますね」
他にもたくさんの魚や甲殻類の料理があり、彼のおすすめを何品か頼んだ。並べられた料理はスノウの見たことないものばかり。
赤くてツノみたいな長いものがニョキニョキ生えてて、ゴツゴツしていて足が昆虫みたいに何本もついていて、変なハサミみたいな腕をしている見たこともないもの。
流石にそれは気持ちが悪くて、スノウは食べる事を躊躇していた。彼が頭と尾っぽを掴んでそれを割る。中からプリプリとした白い身が出てくると、フォークで突き刺し口元へと差し出された。
「はい、食べてみたらいいよ」
「でも、ちょっと……その、見た目が……」
「美味しいから」
促され、口を開けて彼のもつフォークに刺さった白い身をパクリ。食べたことのない食感、大味だがソースと相性がよい。スノウはあまりの美味しさに驚いて、頬を朱に染めながら味わった。
「美味しい……」
「見た目は確かに、初めてなら驚くかもしれない。行儀が悪いかもしれないけど、割ったあとこのまま食べても美味しい」
そう言って彼がそのまま口にすると、汁が手を伝って垂れた。スノウは慌てて彼の腕を拭く。
「すまない」
「いいえ。ではわたしも、割って食べてみますね」
彼の真似をして食べてみる。少し食べにくいが先ほどとは違う旨味を感じた。しかし彼と同じように手を伝って汁がこぼれてしまう。それを今度は彼が拭いてくれた。なんだかそれがおかしくて、食べながらふふっと笑ってしまう。
「楽しそうで、よかった」
「はい、わたし、セフィライズさんと」
あなたと一緒なら、なんでも、とても、楽しいです。そう伝えようと顔を上げると、彼は窓辺の向こうの海に目をやっていた。彼の皿の上に残された料理は、フォークに添えられているだけの状態だ。
「えっと……」
「……生魚は? これも、食べたらいい」
「はい」
生魚の身を薄くスライスしたものの上に、柔らかそうな葉物野菜が乗っている。スノウはそれを巻き込むようにして食べてみると、彼の言った通り淡白だがとても美味しい味がした。本当に新鮮ではないと食べれないから、きっとこのような海辺の町でしか提供されないだろう。この世界には、食べ物だけでも未知のものが、まだまだ沢山あるのだなと思った。
彼と、一緒に。いろんな街に、いろんな国に行ってみたいと思った。
見たこともないないものを見て、感じたこともないものを感じて。
ずっと、一緒にこうして、過ごしていけたらいいのに。
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