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18. 海辺の街編 逃走




 スノウは起きあがろうと彼の腕に手を伸ばす。それよりも先にセフィライズが体を起こし、普段は腰に帯びていない剣の柄に手をかけていた。

 抜かれた刃は的確に、その黒い影を真っ二つに切り裂く。スノウの目の前で、鳥の姿ではなくなった残骸が、赤い血液を広げなから落ちた。


「セフィライズさん、背中……!」


 治療しようとする、その手を彼が引っ張るように取った。


「馬へ、走って!」


 彼はすぐに敵が増えると思った。血の匂いにつられて、ぞろぞろと嫌なものが集まるはずだ。剣を収め、馬の目の前で立ち止まり靴を履く彼女を押し上げ、先に乗せた。自身も彼女の後ろへと飛び乗る。スノウを包むように伸ばし手綱を取って馬を走らせた。


 しかしまだ、苦しい。背中の痛みではない。顔を歪め耐えるも、段々と意識が薄らいでいくのがわかる。ここで諦めたら、彼女は一人だ。



 彼の額が、コツンとスノウの肩に当たった。


「セフィライズさん?」


 スノウが振り返ると同時に、崩れた彼の体が簡単に馬から投げ出される。地面に鈍い音を立ててセフィライズが落下した。スノウは馬の止め方もわからず、自身もまた馬から投げ出されるようにして落ちる。身体中を地面にぶつけて、痛みを感じながらも這い上がるように立ち、彼の元へ走った。


「セフィライズさん!」


 投げ出された彼を必死に揺らし、大きな声をあげ耳元で名前を呼ぶも反応がない。顔を覗くと意識がないのがはっきりとわかった。どうしたらいいのかわからない。治癒術を使おうと、手をかざしたその時だった。

 唸り声を上げて、茂みから野獣が飛び出してくる。数匹の群れをなして現れたそれは、灰色の毛を逆立て牙を剥いていた。彼の血の匂いに反応しているのか、今にも飛びかかる勢いだ。

 スノウは彼の腰に帯びた剣を抜こうと手を伸ばす。しかし同時に野獣が襲いかかってきた。間に合わない、そう思い、彼に覆いかぶさるようにして顔を伏せる。


 ーーーーダメっ!


 そう心の中で叫んだ刹那。


 男性の雄叫びと共に、鈍い音がスノウの耳へ届いた。顔をあげると目の前で大柄の男性が一人、野獣を次々と切り殺している。それに驚いて見ていると、彼女の真後ろから声をかけられた。


「大丈夫か、あんたら」


 振り返るとそこにも、同じような大柄の男性がいる。二人とも非常によく鍛えられていて強面だった。


「あ、あの……」


「俺たちは通りすがりだ。ほら、こっち来て!」


 その男性は地面に倒れているセフィライズを軽々と持ち上げる。視界の少し先に麻布貼りの荷台がついた馬車が止まっていた。その男がセフィライズを連れてそこへ向かうものだから、スノウは慌ててついていく。この状況で、助けが来たことに心から感謝した。


 男が雑にセフィライズを荷台へと放り投げ、スノウの体を強く押す。無理やり荷馬車に乗せられ、その乱雑さに違和感を覚えた。

 しかしスノウは慌てているだけだと思い、彼の方へ擦り寄る。彼の体を仰向けにさせ、顔にかかる髪を避けた。まだ少し、呼吸が浅い。

 と、同時に馬車が揺れる。先ほどの男が手綱を取り、馬を走らせたのだろう。ガタガタと非常によく揺れる乗り心地の悪い馬車だった。この感覚を、どこかで感じた気がして変な恐怖心に駆られる。


 雑に走る馬車が進むと、すぐに荷馬車にもう一人乗り込んできた。先ほど野獣に襲われそうになったところを助けてくれた人だ。スノウはその男に向き直り、感謝の言葉を述べようとする。しかしそれよりも先に、男が声を発した。


「片方は男か?」


「女かと思ったら男だった!」


 二人の男がスノウを無視して大声で会話をする。それに、スノウは覚えがあった。これは、あの時と、一緒だと。見渡すと、荷馬車の中に置かれたものも、なんだが見たことがあるのだ。縄や、鎖や、雑な布類が。

 スノウが振り返ると荷車を覆う麻布の隙間から見える外は、ものすごい勢いで景色が移り変わっている。何度も激しく揺れる荷馬車からも、かなりの速さで移動しているという事がわかった。スノウは斜めがけにしたままだった彼の鞄を強く握り締める。


 この人たちは、この人たちは。

 奴隷として捕まった時の事を思い出す。そうだ、この雰囲気も、この男達の品定めをするような目も、全部全部あの時と一緒。


「あ、あなた、たちは……」


 声をあげたスノウを、荷馬車に乗り込んできた男が見た。強面の口元がニタリと笑う。すぐに筋肉を取ってつけたような太い腕が伸びてきて、スノウの手首を掴んだ。


「なんだ、気がつきました、みたいな顔してんなぁ」


 痛い程に握られ、離れようとしても動けない。強い力で押し倒された。










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