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12. 移動と壁越え編 兄



「生まれた時から、あるものなのでしょうか」


 どこまで答えてくれるのかわからない。しかし探りながらも、とぼけるように聞いてみた。


「幼かったから……気がついた時には、もうあったよ」


 ここで嘘がつけないのが、彼らしいと思った。誤魔化すなら「そうだね」や「生まれた時からあったみたい」とか、いくらでも言えるのに。この言い方をする時は、それには何か理由がある、と肯定しているのと同じ。

 しかし、スノウはこれ以上は質問できないと悟る。白き大地の民特有の何か、なのか。それともシセルズだけの何か、なのかはわからない。だが、彼が聞かれたくない事をいつまでも質問したところで、答えはもらえない。


 スノウは聞き方を変えてみようと思った。もう少し、違う切り口から何か見つかるかもしれないん。


「シセルズさんも魔術は、とても上手に使えるのですよね」


「あぁうん。でも……ここ数年は見てないな」


 マナを消費すると疲れる。運動して疲れる感じではない。心が疲弊して疲れるような感覚に近い。思うように体も動かなくなり、ひどい疲労感を感じる。そういった不思議な感覚だ。空っぽに近くなれば、息をするのも辛く、起きているのが苦痛でしかない。

 セフィライズ自身は、マナを全て使い切ったことはないが、そうなれば多分死ぬのだろう。しかしマナを消費して死ぬ場合、白き大地の民の体はこの世界に残るのだろうか。マナになって、世界に溶けていくのだろうか。

 魔術を日に何度も使えたとしてもマナを奪われるというのは、まさに特殊な感覚だ。セフィライズはそれを気持ち悪いと感じるのもよくわかるし、兄ならばあまり感覚的に好まない方なのは納得できた。


「昔から、あんまり好んで使ってるところは、見ないかな」


 セフィライズ自身、好きか嫌いかで言われたら、好きではない。あの妙に体から奪われていく感覚は、少量だとしてもむず痒い。ただそれが、魔術に長けているけれど使わない理由にはなり得ないと思った。なぜなら白き大地の民以外の人たちの方が、その感覚を許容しながら魔術やマナを活用して生きているからだ。どうして、白き大地の民はあんなにも魔術を使う事を生きる上での最終手段としていたのだろうか。


「セフィライズさんは、詠唱の言葉について考えた事はありますか?」


「言葉?」


「はい、今朝……ふと思ったのです」


 セフィライズとスノウの詠唱の冒頭が違う事を説明する途中で彼はあぁ、と声を上げた。


「スノウは、他の魔術師を見た事がないから知らないだろうけど。スノウの詠唱だけが違うんじゃなくて、みんな少しずつ違うよ」


「そうなんですか?」


 確かに、彼女は他に魔術を使っている人を見たことがないのは事実だ。


「信仰の対象の違いで多少変わる。でも、私が使っているのが基本だとは思う」


 魔術は元々ハーフエルフであったイシズが作り出したものだ。スノウの場合は信仰の対象が癒しの神エイルであり、その眷属との契約によってその術が使える。契約を用いて、イシズが作り出した魔術の基礎にあてはめ、力を呼び起こしていると考えられるのだ。

 だからセフィライズは治癒術は使えない。癒しの神エイルを信仰しているわけでも、眷属と契約しているわけでもないからだ。


「これは雑談だけど、イシズはエイルと恋仲だったんだよ」


「そうなんですか!」


 スノウは背中越しに彼が苦笑しているのがわかった。恋バナに飛びついた女の子みたいな目で見られたかなと思うと恥ずかしくなる。しかし、神話の世界だと思っていたが、人間味のある話が存在すると思うとちょっと楽しく感じたのは事実だった。


「世界を維持するマナの殆どが腐敗し、それを浄化しようとエイルが癒しの術を使うも力付き死んでしまった。イシズはその意思を継いで腐敗したマナを体に取り込む事で世界を救った。と、同時にイシズも死に、世界樹も枯れた。というのが一連の流れかな」


 魔術の神イシズは新たに世界を創造したわけではない。人々が破滅するしかない世界を救った事が、創造と同意だという考え方だ。だから《世界を創造せし魔術の神イシズ》と言われているのだ。


「やっぱり。お詳しいですね」


 スノウは聞かなければきっと、一生教えてはくれなかっただろうと思った。やはりまだ知らない事が沢山ある。それはスノウにとって、希望のように感じた。


「でも、詠唱の最後の言葉は、皆さん一緒ですよね?」


「今この時、我こそが世界の中心なり、かな?」


「はい、その……我こそ、って……誰なのかなって、思って」


 スノウのその疑問に彼は驚いた。考えた事もなかったからだ。スノウが話題に出すまで、詠唱の言葉の意味、だなんて。それを言えばいいだけだと思っていたからだ。

 挨拶と同じ、朝はおはよう。夜はおやすみなさい。それぐらい、当たり前の言葉だ。













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