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8. 安息のひととき編 見張り



 移動に必要なものは、その日のうちにレンブラントがほとんど手配した。ほんの少しの荷物と、馬と。本当に、本当に最小限のものだけで行くつもりだった。


「以前より、不思議に思っていたのですが」


 レンブラントが準備した荷物を彼に手渡しながら話す。


「何故、魔術にたけているのにも関わらず、使われないのですか」


 普通の人ならば、一度使えばかなりマナを消費してしまう。だからこそ、この世界では魔術を普段から使うものはいない。才能があったとしてもその能力を伸ばそうともしない。ただ白き大地の民は別である。特に、セフィライズに至っては些細な魔術ならば日に何度でも、際限なく使える自信があった。

 ただ、改まって聞かれると何故だろうかと思う。シセルズも、一人で壁に穴を開けるぐらいの能力がある。だというのに、使っているところをほとんど見ない。お互いそれが、当たり前だと思って生きてきた。


「何故、だろう」


 思い起こせば子供の頃、まだ白き大地で暮らしていた時。そこには魔導人工物(アーティファクト)は存在しなかった。日常生活を魔術で補う事もなかった。手仕事を好み、自然と共存しながら生活していた。何故だろうか。

 重量のあるものを浮かして移動させる事も、自由に何かを作る事だって、やろうと思えばできたはずだというのに。

 それが当たり前だと思って生きてきただけに、今更聞かれると困惑する他ない。まるで、魔術を使う事は生きる上での最終手段だったように思う。


「火を起こす道具は、減らせそうですね」


「……確かに」


 二人、馬車移動ではなく馬一頭。彼女が一人で馬に乗れないから、仕方がない。忌避効果のある魔導人工物(アーティファクト)はあれど、野獣や魔物といったものの対応はセフィライズだけで行う。なおさら荷物は減らしたい。


「あとは、私がまとめるよ」


「かしこまりました」


 レンブラントが荷物を置いて部屋から出ていく。一人きりになり、静かになった部屋で窓の外を仰ぎみた。


「もっと、色々……聞いておけば、よかったかな」


 あの時はまだ幼かったから。全てから遮断されたように感覚を得るのが難しかった。宿木の中に閉じ込められていたかのように。本当に記憶は曖昧だ。同じ白き大地の民が何を思い、どう生きていたのか。ほんの小さな事しか覚えていない。

 自分の生まれの、その血の、一族の、信念や願いなんかも何も理解しないままだ。セフィライズはシセルズと、もっと会話を重ねておくべきだったと後悔した。





 寝る前に、荷物を準備しながら、セフィライズはカイウスから貰い受けていた剣を机に置く。これでは少し目立つから。使うことはないかもしれないと思いながら持ってきた、ギルバートから貰った細身の剣を並べて確認した。


 明日、ここから発つ。セフィライズは戻るという選択肢を取らなかったこと思い返して目を閉じた。深呼吸をして、冷静に今後の事を考えようとした時、ノックの音がする。返事をすると扉がほんの少しだけ開いた。多分スノウだ、入ることを戸惑っているのだと察し、彼から扉を開けてみる。


「ひゃっ! あ、あの!」


 扉に体重をかけていたのか、突然開いた事で驚いた彼女が少しこけそうになりなら部屋へと入ってきた。


「どうした。もう夜遅いのに」


「えっと、えっと……」


 スノウは白いワンピースの寝巻きを着て、なぜか枕を抱きしめてそこに立っている。


「み、見張りです!」


「見張り?」


 彼は顎に手を当て、考えるように下を向いた。何を見張るのかについて。しかし答えが出なかった。


「何を?」


「セフィライズさんを、見張るんです!」


「ん?」


 どうして見張られるのか検討もつかない。しかしスノウは扉を閉めると床に枕を投げるて置き、座った。


「わたしを置いて、一人で行ってしまうのではないかと思ったので。今日はここで寝ます」


「いやそれは……置いて、行かないよ」


 そう言ったが、彼女は怪しむ表情をしていた。そんなに一人で行きそうだったかと首を傾げる。仮に一人で出て行ってしまったら、多分彼女は追いかけてくる。そのほうが危険だ。ならば自分のそばに置く方が安全だと思う。


「別に窓からでも出れるわけだから。ここで寝る意味は、ないと思うな」


 出入り口だけ死守したところで、本気ならば二階の窓から飛び降りるぐらい、彼にとって造作もない事だ。


「えっと、ではわたし、起きて見張りを……」


「明日から移動で疲れる。しっかり寝たほうがいい」


 彼女をベッドの上でちゃんと寝かせておかないと、セフィライズは体の方を心配した。


「でも、わたし……心配なんです」


 置いていかれないか、一人で行ってしまうのではないか。今離れたら、もう二度と、本当にもう二度と会えない気がして仕方がない。スノウは胸に手を当てる。変な胸騒ぎがするのだ。杞憂であるのは、わかっている。それでも。








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