表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/384

外伝 アリアドネの糸 2



「付き合ってる、の、意味わかってる、よな?」


 落ち着いて、冷静に、冷静になって聞いた。シセルズにとって、弟はまだ子供という印象が強すぎる。これが反抗期かというぐらいの衝撃だった。実際のところ、セフィライズには反抗期は無かったが。


「そのつもりだけど」


「えっと、どういう、経緯で?」


「兄さんが夜に、お酒を飲みながらよく言ってたよね。向こうからきたら、とりあえず行っとけって」


 シセルズは、弟に真っ直ぐに見つめ返されて、今すぐ頭をテーブルへとぶつけたくなった。と、同時に過去の自分を絞め殺したくなる。それはつまり、向こうから告白されて付き合いだしたという事だろう。


「ま、待って。え? 俺そんなこと言った?」


「留学するなら、とりあえずヤッとけとも、言ってたよ」


 それはいつの話だろうか。シセルズは大体お酒を飲むと、いつもより適当な事を言う癖がある。ただ、今回は本当に、本当に後悔した。


「え、まさかもうあれ、え?」


「何が?」


「男女のあれこれは、あれ?」


「何回かは」


 その発言に、シセルズは我慢できずにテーブルへ頭を打ちつけた。


「やべぇ、俺。教育間違えたわ……ごめん、なんかごめん」


 そうだった。変なところで無垢だった。言われたことをそのまま鵜呑みにする奴だった。しまった。本当に心からそう思った。


「好きな子なら、いいんだ。俺は、好きな子なら、いいと思うぞ。うん」


 シセルズは動揺しすぎて何にショックを受けたか、わからないぐらいだ。


「好き、かはちょっと、わからない」


「いや、好きでもない子とは付き合わないだろ」


「どうして、兄さんはよく好きでもない人と付き合っているよね」


「ああ、マジで。もう俺が悪かった、俺が悪かったからっ! 待って、ほんとちょっと待って……」


 まるで自分の醜態を晒しているようだとシセルズは思った。確かに、思い返せばセフィライズが小さな頃から遊んでいた。お酒も、ほんの少し早い段階から飲んでいた。酔っ払って、弟の世話になった事もあるし、朝帰りなんかもいくらでもした事がある。二人で暮らすあの家に女性を連れ込んだ事は……なくはない。完全にやってしまったと、シセルズは思った。


「あぁ、これが子育てか……失敗したわぁ……」


 セフィライズが首を傾げている。何がそんなに慌てる事なのか、全く理解してない顔をしていた。そういう話っていうのは、他人との関係性で学ぶものだ。友達とか、そういうので知識を得たりして常識を養っていくものだと思う。ただ、こいつは例外だと、わかっていたのに。

 親がいないのだから、親代わりの自分の詰めが甘かった。


「大丈夫?」


「俺は、大丈夫。セフィライズ、ちょっと、今晩話そうか。色々と、話そうか……」


 セフィライズの肩に手を当てて、全力で反省した。








 街の観光スポット的な場所を適当に歩いて、学生寮に戻る。寮といっても、かなり豪華な建物だった。各国から選ばれた学生だけが来るのだから、それなりの地位の人を対象にしているのだろう。部屋も広く、明るく、快適そのものだった。セフィライズの部屋は一階にあり、すぐ外は貴族街のメインストリートで、その通りの先に図書館がある。


「セフィ、ちょっと、こっち座って」


「何?」


 シセルズは真剣にセフィライズを見ながら、言葉を選んだ。表情はまだ乏しいところはあれど、子供の頃からの成長を思えばかなりしっかり人間らしくなった。素直さと無垢さは残っているけれど、意見を言うようにもなったし。だからちょっと、油断していたというか。完全に油断していた。


「いいですか、まず好きでもない子とは付き合ってはいけません」


「兄さんは」


「俺は、俺はいいの! 今は俺の事じゃなくて、セフィの話ね。いい? わかった?」


「わかった」


 シセルズ自身は、加減がわかっていて、遊べるのなら、別にだらしなくてもいいと思っている。ただ、そんな事がわかっているようには決して見えない。むしろシセルズの今までを鵜呑みにしていたら危険だ。これぐらい大げさに言う方がいい。


「あと、好きでもない子と、してはいけません。いいですか?」


「でも、兄さんは」


「わかった! 言いたいことはわかったから! ちょっと俺の話は置いといてくれるかな?」


 やってきた事は隠せないので仕方ない。ここでは一旦置いておくしかない。それに対して不満とか疑問を抱かないのも、セフィライズらしいといえば、らしい。


「いいね、わかった?」


「うん、わかった」


「えっと、じゃあラウラちゃんと今後どうするかだけど。とりあえず、相手に失礼だから、好きになる努力をしようね。わかった?」


「好きに、ならなかったらどうしたらいい?」


「その時は、ごめんなさいするんだよ」


 無表情のままに首を傾げて。少し考えてからセフィライズが返事をする。と、その時、窓を叩く音がした。コツコツと、響いた音。外を見るとそこには丁度ラウラが立っている。


「お兄さんすみません。仕事がない時は学生寮には入れないので」


「ああ、えっと。大丈夫ですよー。ラウラちゃんはあれ、セフィと付き合ってるんだよね?」


 シセルズは、とりあえず事実確認をとった。まさか勘違い、なんて事はないだろうが、念のため。


「はい。お兄さんのお話は、よく聞きます」


 はたしてどんな話をしたのか、気になって仕方がない。思い返せばいい兄ではなかったかもしれない。すぐ酒に酔うし、女は連れ込むし、ダラダラしてるし。
























評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ