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外伝 アリアドネの糸 1

カンティア留学中

セフィライズ18歳 シセルズ27歳

※外伝では性的な話題が上がりますので、苦手な方は読まないようにお願い致します。




 今日の昼以降に、シセルズがカンティアに留学中のセフィライズの様子を見に来る。

 セフィライズは図書館の前で、借りたばかりの本を片手にしながら待っていた。通りかかる学生や、地位の高い人たちが出入りする際に視線が集まるが、彼自身はあまり気にしていなかった。毎日毎日同じ繰り返し。アリスアイレス王国の制服を着て、この銀髪で、この目の色で、肌の色で。注目を浴びないわけがないから。

 かなり長い時間待たされて、どうしようかと思っていた頃。


「やー、遠いなぁカンティアって。待たせたな」


 セフィライズが顔を上げると、数ヶ月ぶりに会う兄の姿だ。いつもは髪を長くしているが、肩にかからない程度の長さになっていた。


「久しぶり」


「おぉ、セフィ、すげぇ切ったな。短かぁ」


 シセルズに指をさされ、髪を触った。アリスアイレス王国では、髪を伸ばさないといけないから。いつも耳にかかるぐらいまでしか切れない。その後は嫌でも伸ばして、大体鎖骨か胸の辺りまでくると切って。そしてまた伸ばしての繰り返しだ。

 しかしカンティアでの留学期間は二年もあり、その間は髪を伸ばさなくてもいい。思い切って短く切ってしまったのだ。


「そうかな……」


「まぁ、長いの鬱陶しそうにしてたもんな。セフィはちょっと女々しかったし、ちょうどいいんじゃないか」


「女々しい……」


「見た目の話だって」


 シセルズは笑いながらセフィライズの肩を叩く。正直、留学の話が出た時は、こいつ一人暮らしできるのか、と心配した。実際、再会するまでの移動中も、本当に心配で心配で。ご飯を食べているか、ちゃんと生活できているか、人付き合いはどうか。何か、変なことに巻き込まれていないか。

 しっかりちゃんと弟が立っていて、それだけでシセルズはほっとした。


「とりあえず飯行こうぜ」


「街に降りる?」


「ん、あー、そのつもりだけど。どうした?」


「いや、見た目がこれだから。まだ降りたことない」


 セフィライズがカンティアに到着して一人暮らしを初めてもうだいぶ時間が経っているはずだ。だというのにまだ一度も街に出たことがない。


「セフィは、学生寮だっけ。食堂とかあるもんな。確かに、別にいく必要ねぇか」


 シセルズは自身の着替えを詰め込んだ大きなカバンを漁る。中から適当に服を取り出して、セフィライズに投げた。


「それに着替えとけ。あと、帽子あったかな……」


「着替えとけって……」


「あ、あったあった。ほら帽子。どっかあるだろ、適当にその辺で着替えろ」


 セフィライズは表情一つ変えず、首を傾げたあと、言われた通り木陰に移動してしゃがむ。気にせず上の制服を一枚脱ぐと、投げられた服に着替えた。上から帽子が被せられる。


「これでいいだろ、ほら行くぞ」


 促すと黙ってついてくる。シセルズは、久々に会ったから、少しは変わったかなと思っていたが。本当に変わらない。

 子供の頃から比べたら、話したり、意見を言ったりするのだけど、どこか人の指示通りに動く。まだ一部の表情が乏しいから。一人で、見知らぬ国で、やっていけるのかと、やはり心配だ。

 




 アリスアイレス王国よりは小さいが、街は賑やかで活気がある。気候がいいので、暮らしやすいのだが、この国に定住するには、元々この国の生まれか、もしくは厳しい審査を通らなければ住めない。留学者や観光者も多いのが特徴だ。


 シセルズは適当に大きめのレストランを選んで中に入ると、開放的なテラス席を選んで座った。光が直接当たる席をわざと選び、帽子をかぶっていても違和感が無いよう配慮する。外には中央の公園に植えられた大きな木が見えた。


「いらっしゃいませ。本日のメニューはこちらです」


 黒い制服を着た女性がたち、メニューをシセルズに渡す。その声に、聞き覚えがあったセフィライズが顔をあげた。


「……ラウラ」


「あれ、もしかしてセフィライズ? どうしたのこんなところに」


「え、知り合い?」


 二人が驚いて互いを見ている。シセルズの方に視線を移したラウラが、首を傾げた。


「え、っと。もしかして、例のお兄さん?」


 例のって、どんな説明をしてるんだ、と弟に言ってやりたくなったが抑えた。


「そうそう。シセルズ・ファインです、よろしく。えっと、ラウラさん?」


「初めまして、シセルズさん。ラウラ・アートルです。すみません、仕事中なので、よかったら夕方またご挨拶に伺いますね!」


「え、あ、うん。えっと、うん」


 シセルズは、ご挨拶の意味がわからなくて混乱した。ラウラが行ってしまい、メニューをセフィライズに渡すと、彼は少し困った顔をしている。


「誰?」


「……普段は、学校の食堂で働いてる」


「それだけ?」


「いや……多分、付き合ってる」


「は?」


 自分の弟が、何を言っているか理解できなくて。シセルズは口をあけたまま固まった。

 いや、だって誰が想像できるだろうか。今まで全力で子供扱いをしていただけに、ショックが大きかった。


「え、ま……え? つ、付き合って、って、え?」


 付き合っている。の意味を、セフィライズは理解しているのだろうか。というか、そういう教育、したかな。どこまで話したっけ。なんて、頭の中で混乱し、シセルズは自身の今までの発言を思い返してみる。


 というかこいつ、わかってるのか、という、そっちが気になってしまった。












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