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37.図書館編 交流



 ルードリヒは図書館の特別室に案内してくれた。従業員に何冊かの本を取りに行かせ、スノウをソファーに座らせる。図書館司書をしている女性が、スノウにコーヒーを運んできた。ミルクと砂糖を促される。

 実のところ、スノウは少しコーヒーが苦手だった。ほとんど口にした事はないが、ごくたまに、彼が飲んでいるから。

 ああまた思い出してしまったと、胸に手を当てながら視線を前に移すと、ルードリヒが不思議そうに首を傾げた。彼の切長の目は、少しセフィライズに似ている。そしてまた、考えてしまったと繰り返す。


「スノウさんは、お仕事は何をされているのですか」


「はい、あの。セ……アリスアイレス王国第一王子親衛隊所属の、セフィライズさ……の補佐をしています」


「ほぅ、氷狼(フェンリル)の二つ名を持つ彼ですか。ですが、人を寄せ付けるような方ではないと存じておりますが」


 スノウは詳しいな、と思った。それは侯爵として持っていて当たり前の知識なのか、それとも国立教導院の責任者としての立場だからか。


「そう、ですね。確かに……ですが誤解されやすいだけで。とても……とても、優しい人です」


 スノウは胸に手を当て目を閉じる。浮かぶのは、どんな時でも彼の姿だ。伏し目がちに振り返って、困ったように薄く笑って。ああ、本当に本当に、本当に好きだと、心から思った。


「なるほど……」


 ルードリヒは口元に手を当てて何かを隠すように笑った。


「では、明日ぜひ連れてきて頂けませんか。お会いして、色々とお話をお伺いしたい」


 少し悩んだ。彼が明日、何事もないという確証がない。でも断るのは変だ。スノウは曖昧な返事で濁してしまった。


「白き大地の民。『世界の中心』を手に入れてしまったが為に滅んだ一族の生き残り。色々と楽しい話が聞けそうですね」


 そう言って、ルードリヒがスノウに笑顔を見せる。しかしスノウはその表情に、またも強烈な違和感を覚えた。その正体がわからないまま下を向く。


「スノウさんは、彼から『世界の中心』について何か聞いたことはありますか?」


「いいえ、何も。あまり、自分の事を話すのは苦手な様子なので」


「なるほど……実は私は、探しているんですよ。全ての病や怪我を治す技を。それで治癒術を学んでいます」


 『世界の中心』は全ての知恵、富、権力を手に入れる事ができるといわれる伝説上のもの。そして噂かもしれないが、この世界にひとときは存在していたかもしれないもの。

 スノウ自身、今までは興味のなかったそれだが、全ての病や怪我を治す技、それは今、心から欲するものだ。彼の得体のしれない何かも、治るかもしれない。

 『世界の中心』を手に入れる事ができれば。


「しかし『世界の中心』はすでに存在しない。もしセフィライズ殿が存在を知っていれば、アリスアイレス王国が手にしているはず。そんな噂も聞きませんしね」


 言われてみれば確かにそうだとスノウは思った。今や世界中から消失していくマナ。世界樹から無限に吐き出されていたであろうそれは、今はもう無い。その代わりを『世界の中心』が担う事ができるのなら。そしてその存在をセフィライズが知っているなら、隠す理由が思い浮かばない。つまりは、何も知らないという事。


「スノウさんは『大いなる願い』というものを、彼から聞いた事はございますか?」


「い、いいえ」


「『大いなる願い』とは、白き大地の民が信仰する、魔術の神イシズが残したと秘術と言われています。『世界の中心』が物であると言われているなら『大いなる願い』とは、特別な力みたいなものですね。しかし、どんな願いも一度だけ、叶える事ができるとされる秘術と聞きます。『世界の中心』が既にないのであれば、白き大地の民ならばこの秘術について、何か知っているのではないかと」


 ルードリヒいわく、一般的に『世界の中心』と『大いなる願い』は同じものとして扱われがちだという。そもそも『大いなる願い』という存在が、一般的に知られていることがない。だから、セフィライズと会いたがっているようだ。

 彼が何の目的で、強大な力を求めているかはわからないが、スノウが求めている事と利害は一致していた。知っているのなら、聞きたい。答えてくれるかはわからないけれど。


「ですので、ぜひセフィライズ殿とお会いしたくて。色々と、お伝えしたい事もございますし」


 含みのある言い方だった。スノウが首を傾げると、ルードリヒが苦笑する。コーヒーに口をつけ、少し間をあけてから彼は話題を変えた。スノウの生い立ち、治癒術について。スノウは答えられる範囲でなるべく答えた。


 帰り際に、スノウは数冊の本を手渡された。この国を去るまでの間に返してくれればいいとのことだった。ルードリヒが選んだ治癒術に関する書籍だ。スノウは深々と頭を下げ、西日が眩しい通りを歩いて帰った。






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