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31.花粧祭編 広場



 彼は小さく震えながら下を向いているスノウに、どう声をかけていいかわからなかった。そんなに怖かっただろうかと、少し考えてみる。

 人通りが多くなったのに油断してしまった。セフィライズが振り返ると彼女はもういなくて。探してみるが、特徴的な髪色だというのに見つからない。広場の入り口に行けば会えると思って来てみたら、見知らぬ男性達に連れて行かれそうになっていて。正直どう対応していいか、悩んだのは事実。


「すまない、はぐれてしまって」


 彼女は首を横に振る。しかしまだ下を向いたままだ。手首を掴みながら震えている、その手にセフィライズ自身の手を添えた。包むように触れ、ほんの少しだけ握りしめて。


「繋ごうか」


 セフィライズは離ればなれになってしまって、そこで知らない人に話しかけられて怖かったのだろうと思った。なら、見失わないようにするにはどうすればいいのか、と単純に考えた結果が手を繋ぐだった。

 震えていたスノウは顔をあげ、驚いた表情のあとすぐに紅潮して視線をそらす。周りを見れば当たり前だけれど、彼氏彼女と思われる二人組がたくさん歩いているのだ。そんなところで、手を繋いで、だなんて。そんなのは、とてもじゃないけれども耐えられなかった。恥ずかしくて、死んでしまう。


「大丈夫です。ありがとうございます」


「そうか」


 断ってから後悔した。彼の手が離れていく、掴みたくて。呼び止めたくて。でも、スノウからはそんな事、できるわけがない。


 背を向けた彼が歩き出す。みんな肩を寄せあって歩いている中で、彼の後ろをついて歩く自分が酷く浮いて見えた。ああ、手を、繋いで貰えばよかったと、心から思う。



「記念のしおりをどうぞ!」


 スノウは声をかけられて顔を上げると、広場の入り口で祭りのスタッフが押し花のしおりを渡してくれた。


「はい、二枚ね。そこの彼氏さんの分も」


「か、彼氏では……」


 前を行くセフィライズが振り向いた。スノウの近くまでくると、スタッフが「彼女さんに渡したので、記念のしおりを貰ってくださいね」と声をかける。それにセフィライズは何事もなかったかのように返事をした。そのスタッフもすぐに別の来場客にしおりを配りに行ってしまうものだから、スノウは彼氏ではないと否定する事もできないまま。下を向いて、赤くなる顔を隠すように、手を突き出して彼にしおりを渡した。


「どうした?」


 セフィライズはしおりを受け取りながら、スノウの変な態度が気になった。再びどうしていいかわからなくて考える。何をいうべきか、何をすべきか。しかし全くどうすればいいかわからない。


「ごめんなさい。その……か、か……」


「か?」


 セフィライズは、「か」から始まるもので、何かあったかなと考える。スノウが顔をあげると、真剣に悩んでいる姿。自分ばかりが意識してしまって。彼はなんとも思っていない。それはそれでとても切ないのだけれど。しかし、相手に伝えない、知られないようにしたい。そう決めたのは自分自身。


「ごめんなさい。なんでもありません」


 誤魔化すように笑った後、一息吐いて、再びスノウは顔をあげた。


「あの、やはり……はぐれそうなので、手を……いいですか?」


 今日、だけは。いいだろうか。今日ぐらいは、いいだろうか。


「ああ、うん。じゃあ……」


 セフィライズはためらいもなくスノウの手を掴む。

 彼からすれば、はぐれないように小さな子供と手を繋ぐような感覚なのかもしれない。それでも、スノウにとって今この時に繋いだ手は、きっとこの先、一生大切にできる思い出になろうだろうと思った。




 



 広場の中央には幹が太くて、もはや向こう側に回っていくのに時間がかかる程成長した大きな木が一本あった。木は枝を大きく広げ、木陰を作り気持ちのよい風に吹かれながら、海辺のような爽やかな音をたてている。その周りを取り囲み放射状に広がる花畑には、彩鮮やかな花が咲き乱れていた。

 スノウはその木を眺めながら、かつてあったと言われる世界樹も、きっとこんな雄大な姿をしていたのだろうかと思う。今まで見たことがないほど立派な木、経験したことがない色が弾けた世界。瞳を輝かせてそれらを眺めた。


「どうする?」


 聞かれて彼へ目を向けると、当たり前だがいつもの銀髪ではない。見慣れない、茶色に少し寄った金髪に、茶色の瞳。


「えっと……」


 何かしたいことがあったわけではなくて。考えてから指差すのは、白い斑点を芝生の上に落としているかのような木陰。多くの人がその上で、気持ちの良い時間を過ごしていた。


「とりあえず、座りましょうか」


 セフィライズがスノウへと柔らかく微笑んで、掴んだ手を引いてくれた。











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