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27.カンティア滞在編 到着




 カンティアに到着後、お迎えやら手続き、滞在中に用意された宿泊施設への移動と、かなり待たされてしまった。夕方に差し掛かり、やっと庭付きの豪邸へと到着する。レンブラントに事情を説明して他の従者や小隊達に気がつかれないように、セフィライズを部屋へと連れ運んでもらった。

 医者を手配した方がいいというリシテアの意見に、スノウは彼の事を想い一日だけ様子を見るように懇願する。もし、医者が来てしまったら、胸の腫瘤を見られる事になるだろうから。


 日が沈みかけ、室内は黄昏に染まっていた。眩しい程の閃光が部屋を橙に染めて、彼の眠るベッドの上に筋を残している。まだ眠り続ける彼のそばへ、スノウは膝をついて覗き込んだ。


「セフィライズさん……」


 自分のせいだろうか。あの時、何悪い事をしてしまったのだろうか。彼の左手の浅い傷を、癒したいと思っただけ。だというのに、何故。


 誰もいない室内。スノウは再び、彼が着ている衣服のボタンに手をかけた。一つ、二つ、三つ。外して。そしてあの時は見れなかったそれをはっきりと、見た。


 ちょうど心臓の位置から、放射状に広がる腫瘤。悍ましい見た目をしたそれは、隆起した岩のようなのにほんの少し柔らかく、そして熱い。スノウはそれに手を当てて、目を閉じる。


 使おうか、使うまいか。治癒術を、彼に。


 日が沈み、部屋はすぐに暗くなった。それでも、手を当てたままスノウは目を閉じていた。決心が、つかないからだ。

 癒すための力だというのに。何故か彼を傷付けることばかり。今、使って効果があるのだろうか。思いもよらず、彼に辛い思いをさせてしまうのではないか。


「我ら、癒しの神エイルの眷属、一角獣(ユニコーン)に身を捧げし一族の末裔なり、魔術の神イシズに祈りを捧げ、この者の穢れを癒す力を我に」


 太陽の光がなくなり、少し冷めた空気を吸い込んで。小さな小さな声で、スノウは詠唱を紡ぐ。怖い、もしも、彼にとってよくない行為だったら。でも、これぐらいしか、できることはない。


「今この時、我こそが世界の中心なり」


 詠唱を終えて、ゆっくりと目を開ける。しかしそこには何も変わらない姿だ。眠り続ける彼、胸の腫瘤。


 結局何もできない。私ではダメですか? という言葉の通り、お前では何の役にも立たないという現実を突きつけられたような気分になった。



 スノウはただ、聞きたかった。彼の言葉で、何が起きているのか、何を隠しているのか。


 ーーーーもっともっと、あなたの事が、知りたいのに。


 なのに、教えてもらうだけの能力も持ち合わせていない。心から、彼に、何も、できないのだと。


 いつもいつも守られてばかりで。いつもいつも助けられてばかりで。

 いつも、彼を傷つけて、苦しめているばかりで。


 ごめんなさい、という。きっと彼は聞き飽きてしまった言葉しか、言えない。それでも。


「ごめんなさい。わたしは、いつも、頂いてばかりなのに。セフィライズさんに、何もできなくて。何も……」


 それでも、あなたの事が好きです。

 でも、伝える権利すら、持ち合わせていない気がした。









 スノウが目を覚ますと、ベッドの上にいた。一瞬自分がどこにいたのか忘れてしまって、見慣れない部屋だと慌ててしまう。しかし昨晩、セフィライズが眠っていた場所だという事に気がついた。

 彼が眠っていたベッドに、自分が横になっている。彼はどこに行ったのかと慌てて起き上がった。扉を出てまだどこに何の部屋があるかもわからないまま彷徨う。


「あ、レンブラントさん!」


 ちょうど前からレンブラントが歩いてきて、スノウは足を止めた。


「おはようございますスノウ様」


「あ、あの。セフィライズさんは」


「セフィライズ様なら先ほど朝食をとられた後、庭の方へ出て行かれましたよ」


 レンブラントは他に、スノウの部屋を用意した事、そこに預かっている服が置いてあることを教えてくれた。

 スノウは預かっている服というのが、アリスアイレス王国で購入した服だと気がつくのに時間がかかる。そういえば、あの日忘れて行ってしまい、そしてそのままずっと忘れていた。


「朝食の準備ができております」


「わたし、後で頂きますね。ありがとうございます。あの、庭はどうやって行きますか?」


「そちらの階段を降りた後、右に曲がって頂くとそのまま真っ直ぐ進んで頂いて」


「ありがとうございます!」


 レンブラントの話にかぶさるように感謝を伝えると、スノウは走って階段を降りた。すぐ右に曲がりまっすぐ進むと目の前が開ける。視界に収まる程だが広い庭の真ん中に、探していた人を、セフィライズを見つけた。


「セフィライズさん!」


 起きている彼はスノウに気がついて振り向く。

 それを見て、スノウはよかったと思った。起きている、目を開いて、立ち上がっている。それだけで、本当に心から安心して、心から、喜んだ。



















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