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23.燐光の谷編 青白いマナ



 セフィライズは大岩を背に、再び腕を組んで目を閉じていた。青白い可視化されたマナがフヨフヨと浮いている。目を開けて、ちょうど前を通った青白いそれを、指で追った。その時、唐突に意識が途切れそうになる。痛いわけでも、苦しいわけでもない。ふらついて、額に手を当てた。


「体調がすぐれませんか?」


「……いや」


 目を閉じると、再び今すぐにでも意識が無くなりそうになる。原因がわからない。ただ、彼が以前この燐光の谷へ訪れた時も同じだった。 


「もうそろそろ、お声がけしましょうか」


 まだ少しふらついているように見えるセフィライズを察し、レンブラントは胸元から時計を取り出した。もういい時間だろうと、セフィライズに見せると彼も頷く。大きな声を出し、もうそろそろ帰る旨を伝えると、リシテアから反感の声が上がった。


「もうおしまいですの」


 リシテアはぶーたれた顔をしながら上がってくると、すかさずミジェリーが世話を焼く。体を拭いて服の着替えを手伝っていた。

 レンブラントは彼女達の準備が終わるのを待ちながら、もう一度横に立つセフィライズの顔色を伺う。別に体調が悪い訳ではなさそうだ。しかし、どこか様子がおかしい。


「覗かなかったのね、セフィライズ。あなた達も入ってきても宜しくてよ」


 着替え終わったリシテアが、髪を拭きながら大岩にもたれかかるセフィライズのそばまで歩いてきて声をかける。


「あら、眠いのかしら?」


「いえ、問題ありません」


 リシテアを背にして戻ろうとするセフィライズの前に、湯上がりのスノウが立った。彼の左手を掴んで向けさせると、既に出血は止まっているものの生々しい傷口がある。


「治療、してもよろしいですか?」


「これぐらいなら、別に」


 彼はすぐに左手を下げそれを隠そうとした。しかし、それを彼女は逃さず掴む。


「わたし、まだどこからマナを持ってくるのか、うまくできないんです。ここは丁度、マナの量も見えるぐらいありますし。練習に、付き合ってきただけませんか?」


 言ったことは事実だけれど。でもこう言えば、きっと彼は受け入れるとわかっていた。

 スノウの意図が伝わったのか、静かに微笑み、左手を再び前に出してくれる。それを両手で包み、スノウもまた彼に微笑みかけた。


「じゃあ、頼むよ」


 セフィライズは丁寧に流れの感じ方を伝える。意識を、どこに持っていくのか。自身の内から湧く灯火と、外に溢れる灯火と、その全てを感じ取れば、セフィライズにとって選択するのもさほど難しくない事だ。ただ、ほとんどの人がこの流れを意識せず行う為に、手っ取り早くわかりやすいところからマナを引っ張ってきてしまう。


 スノウはセフィライズの言葉を意識しながら、目を閉じる。彼の手を握り、流れ、というのを意識してみた。セフィライズからではなく、この燐光の谷に満ちている青白いマナを集めることを考え、詠唱の言葉を紡いだ。

 ゆっくりと、空中に浮遊する青白いマナが彼女の手に集まってくる。その光の流れを見たセフィライズは、ちゃんとできている事に頷いて微笑んだ。目を閉じ、彼女の言葉が紡がれていくのを静かに聞く。繋いだ手の先から、送られてくる暖かさ、しかし、どこか違う。いつもの、感覚と違う。


 ――――会いたい。


 自分ではない何かが、胸の中で叫んだ気がした。人としての声ではない、感情のようなものに近い。目を見開くと、彼女の集めた青白い光の中にいた。


「今この時、我こそが世界の中心なり」


 詠唱が終わろうとする、耳に届くか届かないか。彼女の声ではない、男の声が聞こえた。


『今、この時。僕こそが、世界だ』


 スノウの声と重なるように響いたそれが、耳の奥で反響する。頭の中を、体の中を、音が駆け巡るかのように、振動が伝わるかのように。

 誰、だろう。セフィライズは知っている人のような気がした、その声の主を。


 その時、意識が途切れた。



「セフィライズさん!」


 急に崩れ落ちるセフィライズを、隣にいたレンブラントが慌てて支える。眠ってしまったかのように、静かに意識がなくなって、全員が騒然となった。

 彼の左手を慌てて確認すると、怪我は無くなっている。彼のマナを集めすぎたのかと思ったが、大怪我ではなかった。使いすぎた訳でもなく、どうして彼が気を失ったのか、検討がつかない。

 ただ、ただとても。とても、彼女の胸を締め付けた。


 自分のせいなのだろうか、また彼を、傷つけたのだろうか。辛い思いを、させてしまったのだろうか。

 スノウを察して、リシテアがいち早く冷静さを取り戻した。衝撃のままに、小さく震えているスノウに声をかける。


「スノウ、きっと疲れていたのよ。大丈夫よ」


 レンブラントが糸が切れた操り人形のようになってしまったセフィライズを背負った。


「取り急ぎ、戻りましょう」


 帰ろうとするリシテア達に、スノウはついていけず立ち止まったまま。

 空っぽになっている心に手を当てる。


 どうして、なのだろうか。

 どうしていつも、わたしは、彼を。

 助けられないの、だろうか。











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