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17.カンティア移動編 会話



 もしかして、これがカンティアに着くまでの間ずっと繰り返されるのかと思うと、セフィライズはため息しか出ない。物凄く嫌そうな顔をして、再び遠くを見た。それがやはり、リシテアには気に入らない。


「会話の練習をしたのでしょう? これからカンティアで数日は社交辞令に付き合わなくてはいけないのよ? ちょっとわたくしにやってみてくださるかしら? わたくしを、他国の姫だと思ってしゃべってくださる?」


 冗談かと思いきや、意外と真面目な顔をしているので、セフィライズもリシテアへと体を真っ直ぐ向けた。逃げようがないと思い、息を大きく吸いながら目を閉じる。

 スノウはその様子を黙って見ていたが、彼が呼吸を整え終わり顔を上げた時に、驚いた。柔らかな表情と、それでいて親しげな雰囲気に変わったからだ。


「わたくしはアリスアイレス王国第一王女、リシテア・アリスアイレスよ」


「初めまして、お目にかかれて光栄です。私はセフィライズ・ファインと申します」


 なめらかな動きでリシテアの手をとり、頭を下げ、狭い馬車内で優雅に敬礼し、指先に口付ける。それを見て、スノウは妙な恥ずかしさを覚えて一瞬叫びたくなってしまった。

 彼が到底出しているとは思えない、いつもと違う高い声で、リシテアの赤毛を誉め、服を褒め、本当に当たり障りのない会話をしている。


 スノウはしばらく二人がなんの違和感もない雑談をしているのを眺めていた。本当に、いつものセフィライズなのか、別人ではないのかというぐらい、抑揚もあり会話も合わせて話している。常に表情も柔らかく、近寄り難い雰囲気は一切ない。


「……リシテア様、もうそろそろよろしいですか」


 ある程度たったところで、セフィライズは唐突に声の高さを落とした。さっきまでできていたにこやかな表情は一瞬にしてなくなり、疲れた顔をしてため息をつく。


「あら、わたくしはまだお話したいわ」


「申し訳ありません。疲れました」


「本当につまらないわね。いいわ、わたくしはスノウとあなたの恥ずかしい過去の話でもしますから。嫌なら会話に混ざっていただいて構いませんのよ」


「お好きに……」


 セフィライズの反応が不満だったらしく、リシテアが頬を膨らませてジタバタと暴れている。どうしても会話に参加させたかったらしく、本当にいいんですのね? と何度も何度も確認をしていた。

 スノウはそのやりとりを見ながら、微笑ましいなと思う。リシテアが教えてくれた、初恋なのよ、の言葉を思い出して。今も、まだ、好きなのかな、なんて。彼女の行動を見て思った。









 数日が経った。アリスアイレス王国側の移動はついに壁を目の前にし、終わろうとしている。この先が、隣国カンティアの領内だ。

 結局、ずっとリシテアが同じ馬車に乗り込むものだから、うとうとする事も、本を読む事も、考え事をする事もできなかった。ため息しか出ない状態で、壁に穴を開けるようにと促され、馬車を降りる。

 セフィライズは一面の銀世界に、足跡をつけながらその揺らめく輝きを秘めた壁の前まで歩く。もう何度、この壁に穴を開けただろうかと思う。この壁から出てきたあのウロボロスの事を思い出しながら、手をかざした。


「我ら、世界を創造せし魔術の神イシズに祈りを捧げ、我の前に立ち塞がりし残痕を払う力を我に」


 周辺の大地から、そして彼自身から。小さな光の粒子が流れ、セフィライズの手に集まってくる。その姿を、リシテアは身を乗り出して見た。

 彼女はセフィライズが魔術を使うところをあまり見たことがない。壁は、複数人の魔術師で開けるもの。それを一人で開けてしまうと、聞いていたけれどどんなものかと、好奇心でいっぱいの顔をしていた。


「今この時、我こそが世界の中心なり!」


 暴風のような風が一瞬吹いて、目の前に穴が空く。向こう側へと吸い込まれるように雪が飛び出していった。空いた穴を広げようと壁の間に立ち、腕を上に向ける。すぐに人も馬車も簡単に通せる程の大きさへと広がった。


「すごいわ! 本当に一人で開けるのね!」


 リシテアが大喜びで両手を叩いている。スノウは彼が壁を開けるところを見るのは、これで二回目だと思いながら、ふと気がついた。

 そういえば、あの人も、一人で開けていたなと。思い出すと、どこかセフィライズに似ていた気がする、あの人は、今どうしているだろうか。

 過去に思いを馳せるだなんて、本当に遠くへ来たんだな、全てが変わってしまったんだなと、スノウは以前感じた気持ちを思い出す。でも、嫌ではない変化だ。馬車が通り過ぎる途中、彼の横を通った時、その横顔を見て思った。出会えた事に、感謝の気持ちを。一緒に居れる事に、ありがたさを。





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