表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/384

13.出発準備編 罪悪感



 シセルズは言い知れぬ罪悪感にさいなまれた。これは、自分が助かりたかっただけだ。結果を、急ぎたかっただけ。頭を抱え項垂れていたが、彼女の言葉で目が覚める。


 これは、シセルズ自身の問題ではない。セフィライズと、スノウの問題なのだと。それを自分のわがままのせいでかき乱してしまった。まただ、また同じ事を繰り返している。三日間眠り続けた弟がやっと目を覚ましたというのに、自身の苛立ちをぶつけてしまった。その時と同じ。


 どうしてやるのがいいか、わからない。

 シセルズはスノウの気持ちを利用して、弟とうまくいってくれればいいと思っている。セフィライズに、人を愛する気持ちを教えてやりたいから。その時きっと、何もなかった世界に、必ず灯火が燈ると信じているから。

 でも本当は、止めてやるのが正解なのかもしれない。お互いがお互いを意識し、心を通わせる前に。

 どちらが正解かわからない。ただ、ずっと足元だけ見てただ時間を浪費している弟の現実を。必ず伝えなくてはいけない日がくる。その時を、先延ばしにするぐらいなら早く終わらせてやりたい。そう、思ってしまった。しかしそれは、ただの押し付けでしかない。


「わりぃ……スノウちゃん。追いかけてやってくれねぇかな。あいつの事」


「わたしが、ですか?」


「俺よりは、いいだろうから」


 促され、スノウは立ち上がり頭を下げた。今から追いかけて間に合うだろうか。コートを慌てて着込みながら階段を降りていく。

 彼女が弟を追いかけて去っていき、残されたシセルズは天井を仰いだ。その時に動かした手が、隣の椅子に置かれたスノウの荷物に当たった。


「あ、やべっ。渡すの忘れた」


 別のため息がついて出る。何やってんだ俺、と呟いて自嘲気味に笑った。







 お店を出て、左右を直ぐ確認する。彼は、どちらに行ったのだろうかと。既に狭い通りに彼の姿はなく、迷った。彼ならば、きっと寄り道せずに戻るだろうと思い、城へ続くほうの道を選ぶ。走って直ぐ道なりに正面の壁を曲がると見通しの良い通りに出た。真っ直ぐアリスアイレス城まで続いている。その人通りの中に、彼が見えた。


「セフィライズさん!」


 走りながら声をかける。追いついた彼の手を後ろから掴み、息切れしながら膝に手をついた。


「スノウ?」


「えっと、あの……」


 追いかけてやって欲しい。その一言で動いたものだから、何もかける言葉を決めていなかった。ただ唐突に歩く彼を後ろから呼び止めて、なんて言ったらよいかわからない。呼吸を整えながら、顔を上げた。


「あ、あの……」


「すまない、なんだか……巻き込んでしまって」


「い、いいえ。大丈夫です。その……セフィライズさんが何か、わたしに言いにくい事があるのなら、言ってもいいなって思ってもらえるまで、待ちます」


「ううん、ないよ……大丈夫、何もない」


 断言する彼は、瞳を伏して笑っている。スノウは、何があるのだろうと思った。彼の、生まれではない。白き大地の民だという事実だけではない、計り知れないもの。

 それがきっと、彼の中にあって。それは、とても、言いにくい事で。目を背けて、逃げ出したいもので。


「わたしでは、お力になれませんか?」


 気がついたら、声に出していた。すぐにスノウは自身の口元に手を当てる。言うつもりが無かった言葉に驚きながら。


「……そう、だね。君には、全く……関係のない事だから」


 じゃあ、と言葉をつなげて去ろうとする彼の手を咄嗟に掴む。また、彼に感じてしまった。この瞬間、まばたきの間に消えてなくなるほどの儚さを。繋ぎ止めたくて、ここに今、あなたがいますよって言いたくて。彼の手を掴んでしまった。


「あ、あの、あの……お腹、空いてますよね? シセルズさんとお食事をする予定、でしたよね? よかったら、わたしと……」


 戸惑いながら、詰まりながら、声を絞る。恥ずかしくて、彼の目を見返す事はできなかった。しばらく互いに何も発しないままに、時間が過ぎた気がした。とても長いようで、一瞬だったようなその時間が、とても心を締め付ける。


「じゃあ……行こうか」


 その返事に顔をあげると、そこには困ったようでそれでいて優しく微笑んでいる彼がいた。儚くて、風が吹けば消えてしまいそうな、ろうそくの小さな灯火のよう。だというのに、とても暖かくて、とても愛しい、そんな笑顔。


「はい……」


 ただ嬉しくて、スノウは目を細め、お日様のような笑顔で彼を見た。






 優柔不断なスノウは店選びを任されて困った。どのお店なら、彼が人目を気にせず食事ができるだろうか。どんなものが、好きだろうか。今、何を食べたいのだろうか。考えるのは彼の事ばかりで、自分でも恥ずかしくなる。何度も彼の表情見て、様子をうかがってしまう。その度に彼は、なんでもいいよ、と声をかけてくれた。


「ごめんなさい、わたし……決めれなくて」


 かなり長い時間、歩かせてしまったように思う。スノウは既に空腹の頂点は超えてしまい、むしろお腹が空いていない、という変な感覚に陥っていた。


「じゃあ、ここにしようか」


 ちょうど目の前にあったお店を彼が指差す。そんなに簡単に決めていいのかな、自分が時間を取らせ過ぎたせいかな、と気にしてしまった。しかし彼が店に入るので、スノウも後から追いかける。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ