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8.出発準備編 談笑



「会話を広げてください」


 ミジェリーからすかさず声がかかる。下を向いて黙々と食事をしていた彼は、スプーンを置いて顔を上げた。


「リシテア様がご覧になったのは、おそらくユーラという鳥でしょう。ちょうど今の時期、南から飛んできますね。産卵の時期ですから、この辺りで一度休憩した後、アリスアイレス王国北側の山脈に登っていくところでしょう」


 淡々と、本当に淡々と知識を述べただけのような話し方だった。しかしスノウからすれば、普段あまり長く話してるのを聞かないだけに新鮮。表情は全く無に近いのだけれど、心底嫌なのだろうな、というのがなんとなくわかる。普段の彼と、違いすぎるからだ。


「まぁ、セフィライズは博識ね。ではどうして目が赤いのかご存知かしら?」


「……彼らの主食は黄色の色素が含まれるものが多いのですが、それらを体内で赤に変換するといわれていますね。しかし同じものを食べているはずの他の鳥の目が黒いことを考えると、その鳥特有のものであるというのが答えでしょうか」


 またも淡々と応えるセフィライズの解答に、スノウだけが頷いている。リシテアは悪戯に満面の笑みを見せていた。それを見たカイウスも、何やら楽しそうに口元を押さえて笑みを我慢している。


「無理するなよ、セフィライズ」


 たまらず喉を鳴らしながらカイウスが言った。何を無理するな、なのだろうかとスノウは首を傾げる。確かにいつもの彼ではないのはわかるが。


「談笑なのですから、淡々と話すものではありませんのよ。もう少し和やかに話して頂けるかしら?」


「リシテア、急には無理だ。あまりいじめるな」


「あらごめんなさい」


 リシテアは自身の赤毛を巻き取るように触りながら楽しそうに謝罪した。それにカイウスがまた何かを話しかけ、兄と妹で楽しく話が続く。その様子を黙ってスノウは頷きながら聞いた。


「スノウ……」


 小さな声でセフィライズから呼ばれてそちらを向く。相変わらず無表情の彼がこちらを見ていた。


「君に、伝えてなくて。今回の事を……」


「あ、あの、リシテア様からお伺いしましたので」


 彼が小さな声で話すものだから、小さな声で返事をする。無表情だったセフィライズは一瞬薄く笑った。


 食事も最後のほうに差しかかる。スノウは何度か指摘されるも、比較的今までで一番よく食べ進められたのではないかなと思う。

 カトラリーを落とした時に自分で拾ってはいけないというのは、本当に驚きだったし、今でも咄嗟に拾ってしまいそう。談笑と呼べるかはわからないが、会話もそれなりに頑張ったのではないかと思う。

 セフィライズは相変わらず短い返事をするか、淡々と事実を述べることが多いものの、食事の作法に関しては一切指摘を受けることはなかった。


「それでは、次に行きましょうかお兄様」


「相変わらずリシテアはせっかちだから。わかった、先に手本だろう」


 二人して何の話をしているのかわからないスノウは、きょとんとしながら見る。その横で、明らかに何かを察知したセフィライズが、無表情を崩し、嫌そうな顔をした。

 カイウスが立ち上がると、妹のリシテアの前に立つ。胸に手を当て、軽く頭を下げた後、膝を床についた。


「リシテア、踊っていただけますか?」


「ええ、お兄様。喜んで」


 目の前でみる初めてのそれは、スノウには十分すぎるほど刺激的だった。これが、本物! という変な感想が頭の中に浮かんでくる。カイウスとリシテアは手を取り合い、円卓から離れる。向かい合うと、カイウスがリシテアの腰を抱いた。自然と優しい音楽が流れ出す。

 流れるワルツに合わせて踊る姿。今まで淡々と言われるがまま一人でこなしてきたそれが、目の前で完璧な状態で再現されている。スノウは感激のあまり口元を手でおさえた。すごい以外の感想が出てこないのだ。軽やかなステップに、ホールドも美しい。お互い王子と姫という立場もあって、素晴らしいダンスだった。


 手を取り合い、二人は円卓まで戻ってきて席につく。リシテアは物凄く満足そうに笑ってセフィライズを見た。カイウスも、少し悪いかなといった遠慮が見えつつも楽しそうに笑っている。その視線にもう気がついているセフィライズが、我慢していたのであろうため息をついた。そのせいで、ため息はやめてください、とミジェリーからすかさず声がかかる。

 セフィライズが立ち上がると視界に給仕として来ている兄がいる。彼もまた、同じように楽しそうに笑っているのだから、またため息が出そうになるのをぐっと我慢した。














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