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13.オークション編 開催


 五日程たった。 

 セフィライズはアリスアイレス王国の高位礼服に身を包み、顔の上半分を覆う仮面を付けていた。深緑と紫が織りなす絨毯の上を、静かに歩く。大理石の柱一本一本には精緻な装飾が施され、壁には細かなレリーフが刻まれていた。

 ここは、コンゴッソでも富裕層向けに建てられた施設である。今、ここで世界中から集めれられた希少な物を競り落とす、特別なオークションが開催されている。


 参加者用の控え室へ向かう途中、前方から背の低い男が歩いてきた。灰色がかった肌、薄い唇、そして人より大きな口。骨ばった細長い指先が黒いローブの裾をかすかに揺らす。顔の半分は、セフィライズと同じ獣の仮面で隠されていた。

 その後ろには、同じく黒いローブを羽織った背の高い男たちが数人、付き従うかのように静かに進む。

黒のローブには鈍色の橙のラインが走り、光を受けてほのかに輝いていた。


 すれ違う際に会釈はしなかった。セフィライズにはそれが誰かすぐに分かったからだ。リヒテンベルク魔導帝国宰相、ニドヘルグ。かつて、他国での宴会や交流の場で何度か顔を合わせた相手だ。しかしそれは、相手も同じようだった。白き大地(フヴィートル)の民としての特徴的な銀髪をそのままにただ仮面を付けているだけ。相手もセフィライズも、正体を隠す気はない。仮面はこのオークションの慣習に従っているに過ぎない。


「こんな場所に、何を探しに?」


 すれ違った後で、ニドヘルグから声をかけられた。セフィライズは足を止めるも振り返らなかった。


「ああ、あの噂は本当でしたか。フレスヴェルグの病……」


 嘲笑を含んだ声に聞こえた。セフィライズはなおも振り返らず、黙っている。

 見透かされているのかもしれない。アリスアイレス王国第一王子であるカイウスがフレスヴェルグの病に侵されている事を。それを阻止するために、今ここにいて、同じ……治癒術師であるスノウを欲しているのかもしれない。セフィライズはそう思った。


「我々も、同じものを必要としている」


「……あなた方の真理では、私たちの存在は異端なのでは?」


 ノルド教神罰派を信仰する者だけが、唯一絶対の優れた人間であるはず。セフィライズは異端に頼ろうとするのはどうなのかと、含みを持たせたつもりだった。


「その娘の能力は、とても稀有な上に数が少ない。我々の手で、繁殖させるのが有効というものではないでしょうか」


 その言葉に、セフィライズは心底から嫌悪した。自身の気持ちを落ち着かせるように息を吐く。彼らは、本当に白き大地(フヴィートル)の民や彼女のような人たちを、人間だとは思っていない。


「白亜と違って、我々でも繁殖可能なのが嬉しいですね。白亜は数が少ないうえに増えないのだから」


「その数を減らしたのは、あなただろう」


「……本当に、あれは失敗でした」


 セフィライズは拳を強く握った。

 白き大地(フヴィートル)の民は、同族とでしか子をなすことができない。ゆえに、民族としてはもはや数を増やすことがほとんど叶わないのだ。その、他民族と交わらぬ特異性ゆえに、リヒテンベルグ魔導帝国からは人ではなく、人の姿をした異なる何かと見なされているのだろう。


「元々、治癒術はもっと早く手に入るはずだった。何者かの邪魔が、入らなければ」


 ニドヘルグの含みのある言葉に、セフィライズは幌馬車が野盗に襲われた時のことを思い出した。その時は深く考えなかった。しかし、今思い返せば、確かに不自然だった。あの時、野盗は商品価値のある奴隷すら殺していた。何故なのか。最初からあれは、スノウを狙っていたのではないだろうか。そして、それを手引きしたのは――。

 セフィライズは思わず振り返った。仮面の下の顔が、不敵に笑っているのがわかる。


「もうそろそろ、オークションの終わりですね。では、我々はこれで」


 振り返ったセフィライズを見て満足したかのように去っていくニドヘルグ。これはただの挑発だったのだと気づく。相手のてのひらで転がされた気がして、とても不快だった。






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