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外伝 儚い言葉 4




 採血についていくと、担当の従者達はスノウを見て戸惑っていた。その戸惑いに気がついたセフィライズもまた困っている。

 椅子に座った彼は左腕を出すように服をたくしあげた。ナイフが彼の腕に当てられると、彼は目を閉じ、切られる痛みに耐えている。傷口から血が流れた。それを受け止める器に、彼の血液が溜まっていく。

 スノウはただ、その状況を黙って見つめる。目を逸らしたくなる、けれど。目を閉じる彼の表情を、ずっと真っ直ぐに。溜まっていく血液の量が増えていくと、次第に彼の表情に苦痛の色が見えた。


「そこまででお願いします」


 スノウは前に出た。戸惑う全員を尻目に、セフィライズの左腕をもち、あらかじめ用意しておいた清潔な布を置き、素早く包帯で傷口を圧迫する。


「スノウ、まだ……」


「いいえ、ここまでです」


 かなり強めに縛ると、彼の手を持ち立ち上がらせる。誰かが何かを言う前に、彼が動きを止めないように腕をひいて部屋を出た。スノウの早歩きに、彼も戸惑いながら続く。しかし、彼は足を止め、スノウもまた立ち止まる。


「スノウ……」


「だいぶ、よい状態ではないですか?」


 振り返った。戸惑う彼は、視線を逸らしながら額を触っている。


「そう、だけど……」


「なら、よかったです。今から庭園に行って、休憩……しませんか?」


 スノウは笑う。心から、彼に届くように。伝わらないのなら、彼に届けられるのはこれぐらいしかない。言葉よりも、きっと察してくれると信じているから。


「……スノウ、ありがとう」


 困ったように笑ってる。顔色はだいぶいい。あの苦しそうな彼しか知らないから。


「行きましょう、セフィライズさん」


 いつも彼から手を差し出される。行こうか、と声をかけてくれる。今日は彼女が言うのだ。


 スノウが再び差し出した手を、セフィライズがとった。華奢に見えても、男性の大きな手。暖かくて、柔らかい。繋いだ手が熱くて、そしてとても、愛しい。


 彼のために、何か。できただろうか。

 わがままだっただろうか。自己満足かもしれない、でも。


「ちょうど、セフィライズさんの好きなフォスフィリアが、満開だそうですよ」


 スノウは満面の笑みを彼に贈った。
















 儚い言葉 e n d










本作品を読んでくださり、ありがとうございます。

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小説家になろうで活動報告をたまにしています。

Twitter【@snowscapecross】ではイラストを描いて遊んでいます。

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