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外伝 花言葉をあなたに。1

兄弟の幼少期外伝

セフィライズ 7歳 シセルズ16歳

内容は暗め、描写や表現は最低限にしサクサクシーン飛ばして書きます。






 目があった。だから咄嗟に助けた。

 そんなものは嘘だ。


 この世界が終わるかもしれない。


 そう思った。


 最初はそんな理由だった。








 アリスアイレス城の室内庭園。幼いセフィライズは植栽を眺めていた。大きな黄色の花、淡い桃色の小さな花、青い壺のような花。一つを指でつついている。柔らかい。花弁の表面にある細かな産毛に弾かれた水滴が、しっとりと流れた。

 その弟の様子を、シセルズは座りながら眺める。アリスアイレスの紺色の制服に、髪と目は既に赤茶色に染まっている。もう白き大地の民だと、すぐにはわからないだろう。

 この国にたどり着いてもうすぐ一年。とりあえず仕事にも慣れてきた。


「お前の弟は本当に無口ね」


 声をかけられシセルズが振り返ると、そこにはもうすぐ出産を迎えるアリスアイレス王国の王妃ユージュリアが立っていた。大きい腹をさすり、遠くのセフィライズを眺めている。


「ユージュリア様、おはようございます」


 慌てて立ち上がり、敬礼をした。右手を左肩の少し下に当て、頭を下げる。


「セフィ! 挨拶!」


 膝をついて花を見ていたセフィライズに声をかける。

 彼は無言のまま立ち上がり、やや前方に両手を合わせ腰を落とし、片足をひいて頭を下げた。


「違う。こうだろ」


 セフィライズがしたのは、白き大地で行われていた挨拶の仕方だ。シセルズは手本を示すようにアリスアイレス王国の敬礼を弟に見せた。


「……」


 セフィライズは無表情のまま。シセルズの手本を見て、真似るするように頭を下げる。ややぎこちない。


「セフィ、おはようございますとか、挨拶を言って」


「……おはようございます」


 ほとんど消え入りそうな声は、何の感情もこもっていなかった。表情1つ変えず、頭を下げ終わると膝をついて再び花へと視線を戻している。


「申し訳ありません」


「いいえ、かまいませんよ。そうそう、シセルズ。国王があなた達を探していましたよ」


「かしこまりました。ありがとうございます」


 シセルズは再び深く頭を下げ、すぐに弟の肩を叩く。腕を持ち立ち上がらせ、やや強引に引いて歩き出した。その腕は細くて、身長もまだシセルズの胸より少し低いかなといったぐらいだ。

 幼いセフィライズは必要最低限の言葉しか発しない。未だに何を考えてるかわからない弟を、どうしたらいいか分からないでいた。



 呼ばれた理由は隣国へ挨拶の打診だった。花と学問の国カンティアの第1王女が10歳の誕生日を迎えるそうだ。その祝いの席へと同席して欲しいとのことだった。

 リヒテンベルク魔導帝国が白き大地の民を蹂躙(じゅうりん)したという事実からまだ日が浅い。祝いの席に来るであろう帝国に向け、白き大地の民を保護していることをアピールするのが目的のようだ。今、白き大地の民としての姿のままなのは弟のセフィライズだけ。シセルズはその色に戻す気がない。


 セフィライズはまだ7歳。1人で向かわせるわけにも行かない。必然的にシセルズも一緒に行動する事になる。

 行く気があるのか、という質問にシセルズは行くと即答した。選ぶ権利はあるけれど、選択することはできないと思っていたからだ。




「とりあえず、セフィは挨拶の仕方とか、礼儀作法覚えろよ。わかった?」


 出発までの間に弟に教えないといけないことが沢山ある。しかし、物覚えは早いし、なんでもそつなくこなせる。ただ、全く口を聞かないのが問題点だ。

 リヒテンベルク魔導帝国に蹂躙(じゅうりん)されるまで、シセルズは弟の存在を意識したことが殆どなかった。喋らない、表情もない、生きてるのか死んでるのかわならない。そんな姿を見てはいたものの、どうでもいい、そう思っていた。

 今更兄弟らしいことを直ぐにできるわけもなく、ただ無駄に時間が過ぎてしまった。この状態の弟を、どうしてやればいいのかわからない。

 シセルズは深い溜息を吐いた。



 礼儀作法、軽い社交ダンス。会話は無理と判断して何も言わなかった。セフィライズに知識を詰め込ませて、動きにくいあつらえた正装を身にまとった2人は、隣国のカンティアへと出発した。


 壁超えはセフィライズがする。シセルズもできるのだが、正直消耗が激しい。それに比べ、弟はいとも簡単に大穴を開けてしまえるのだ。

 やはり、()()ではないのかもしれない。そう思ってしまう。もう少し人間らしくしてくれれば、もっと接し方も変えられる気がした。







 学問と花の国カンティア。壁を越えてすぐ気候が変わる。常春と言ってもいい。どこもかしこも色とりどりの花が咲く。シセルズも未だかつて見たことのない景色に、馬車から少し身を乗り出した。


「おい、セフィー、見えてっか?」


 隣に座る弟もまた、少しだけ体を前のめりにして外を見ている。目に映る鮮やかなそれらに、表情は変わらないままだ。しかし瞳は少し、驚いているうな色を灯していた。


 

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