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48.謀略の黒化編 本当に



「待って!!」


 地下からスノウの大声が応接室で待つシセルズとツァーダの耳に届く。その異様な緊迫感のある声に、二人は地下室の階段を下った。

 ちょうど、スノウが詠唱の最後の言葉を紡ぐ。その眩いばかりの光が、タナトス化したルシアナへ向けて放たれる。シセルズとツァーダの視界が一瞬真っ白に塗られ、次の瞬間。


「ルシアナ!」


 牢屋の中には、倒れる少女が一人。ツァーダは歓喜の声をあげて牢屋へと走り扉を開けると、中の少女を抱き上げていた。

 スノウは詠唱を終えた後、すぐに壁に寄りかかった状態で座り込むセフィライズへと駆け寄る。声をかけ、体を揺すると、弱々しく顔を上げた彼がうっすらと笑いながらスノウを見た。


「だい、じょうぶ、だから……」


 恐る恐る見た左手は、切断されて存在しない。止めどなく流れる血液にどうしていいかわからず涙が溢れた。ガタガタと、音をたてるほどに体が震える。

 セフィライズの右手が、涙を流す彼女の頬を拭った。消え入りそうな声で、名前を呼ばれて、真っ直ぐに彼を見る。その刹那、首ががくりとうなだれて彼は気を失ってしまった。


 シセルズは状況を把握するのに時間がかかった。血だらけで倒れるセフィライズと、あまりに取り乱し、セフィライズの体に顔を埋めながら大泣きしているスノウ。目の前で人間の姿のルシアナを抱きかかえるツァーダ。


「スノウちゃん!」


 彼女のそばに駆け寄る。視界には床に広がる赤黒い血液がまばらに散らばっている。ところどころがマナに変換されたのであろう。異様な模様となって石の床に広がっていた。

 気を失う、自身の弟の左手がない。視界に線のような血痕を白刃に残した剣が落ちていた。シセルズはスノウの肩を優しく叩き、いったい何が起きたか。もう、言葉に出さなくとも、わかってしまった。


「わたしが……!」


 わたしが、殺さないでほしいとあの時、言ってしまったから。彼が、何か救う方法を模索することを選んだ。スノウはそう思っていた。彼の思考を、自身のせいで変えてしまったのではないか、自身のせいで、こんなことをしたのではないか。


「スノウちゃん、治せそうか?」


「わかりません。でも……」


 嗚咽混じりの震えた声。しかしスノウは不安だった。いつも治癒の力を使う時、マナをどこから使うのか、彼女はまだ選択することができない。セフィライズが怪我をしている状態だと、何故かいつもそちらに引っ張られてしまう。彼からまた奪って、奪いすぎてしまって。仮に左手を元に戻せても、死んでしまったらどうしよう。怖くて仕方なかった。

 シセルズは、床に落ちた剣を拾い、自身の腕に当てる。浅く切り、血液が滴ると床のそれと同化した。


「頼む。本当に、ごめんな」


 シセルズはスノウが何に迷っているのか理解しているつもりだった。だから、気休めにしかならないかもしれないとわかっていても。腕を切り付けて、目の前に突き出した。

 スノウは頷いて、セフィライズへと手をかざす。


 お願いします。お願いします。どうか、彼のマナを使わないで。


 彼から奪わないで。

 治したい。助けたい。


 そう心から願った。












 光も、音もない、真っ暗なところだ。もう立ち上がるのも辛かった。全身に力が入らない。


 何も見えない、何も聞こえない。


 しかし、目の前が急に明るくなる。顔をあげ、その光を見た。光の中から差し出される手。

 とてもよく、知っているような気がする。この小さくてか細い手を。

 彼はその手を掴もうと、手を伸ばした。


「生きる事を、あきらめないで」


 聞いたことのある声の気がする。掴んだ瞬間、視界は全て真っ白になった。









 

本作品を読んでくださり、ありがとうございます。

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小説家になろうで活動報告をたまにしています。

Twitter【@snowscapecross】ではイラストを描いて遊んでいます。

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